伝統染織品の生産と消費――文化遺産化・観光化によるローカルな意味の変容をめぐって
キーワード
伝統染織、観光、文化遺産
目的
本研究では、ローカルな生活世界において一定の社会的・文化的意味と機能を持ち,使用されてきた伝統染織品が商品化され,従来の生産と使用の文脈を離れた市場に流通するようになった過程を考察対象とする。とくに、ローカルな文脈に根付いた文化実践を国単位のものとしてグローバルな文脈に引き上げ、可視化する無形文化遺産の認定や,商品としての販路開発と結びつくと同時に外部者からの評価を強化する観光化が、アジア地域を中心とする各地の伝統染織品の生産と消費にどのような効果や影響をもたらすのかという点を議論の軸とする。具体的には、1)個別の伝統染織品に対してどのような価値づけが行われるようになったか、2)個別の伝統染織品が生産者および生産者を取り巻く社会において保持してきたローカルな意味がどのように変容してきたか、 3)そこに生じる変容は,伝統染織生産に用いられる技法や素材の選択にも影響を及ぼしているかといった課題に取り組む。
2020年度
本年度も4回にわたって研究会を開催する予定である。 第1回は、昨年度先方のご都合等により招へいがかなわなかった特別講師2名を迎え、アジア地域の伝統染織を用いた衣服のデザイン・販売の経験に基づいた知見を共有していただき、日本人消費者の嗜好の特質や仲介者の役割について議論を行う。「モノ語り」シリーズも継続するほか、第2回研究会の内容とも深くかかわる特別展「先住民の宝」も全員で観覧する。第2回は館外開催とし、本年にオープンする北海道白老郡白老町の国立アイヌ民族博物館での展示を観覧するとともに、伝統的染織・工芸品の遺産化・観光化に関連する内容で研究会を実施する。第3回、第4回は、2巡目となるメンバーの研究発表を行うとともに、当初計画の通り、国立民族学博物館の収蔵品の中から、メンバーの調査対象地にかかわる伝統染織の熟覧を実施し、さらなる議論の精緻化につなげる。
【館内研究員】 | 上羽陽子 |
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【館外研究員】 | 青木恵理子、五十嵐理奈、今堀恵美、落合雪野、金谷美和、窪田幸子、佐藤若菜、杉本星子、田村うらら、松井健、宮脇千絵 |
研究会
- 2020年9月27日(日)10:00~18:00(国立民族学博物館 第6セミナー室 ウェブ会議併用)
- 金谷美和(国際ファッション専門職大学)「モノ語り Part VI」
- 民博企画展「知的生産のフロンティア」観覧
- 三谷武(MITTAN)・小林史恵(CALICO)「アジアの布から生み出すデザイン~MITTAN・CALICOの活動から」
- 総合討論・今後の打ち合わせ
- 2020年10月21日(水)18:00~19:30(ウェブ会議)
- 共同研究の中間総括と成果取りまとめについての打ち合わせ
- 2021年1月24日(日)10:30~18:00(ウェブ会議)
- テーマ討議1「伝統染織とファッションショー」
話題提供者:中谷文美(岡山大学)、宮脇千絵(南山大学)、落合雪野(龍谷大学) - ワークショップ「布と社会をとらえるテーマ群をめぐって」
- 2021年3月23日(火)13:00~17:30(国立民族学博物館 第6セミナー室 ウェブ会議併用)
- 杉本星子(京都文教大学)「モノ語り Part VII」
- テーマ討議2「伝統として残す素材・技術・道具」
話題提供者:上羽陽子(国立民族学博物館)、金谷美和(国際ファッション専門職大学)、落合雪野(龍谷大学)
2019年度
本年度は,3回にわたって研究会を開催する。第1回は,まだ報告を行っていないメンバー4名による研究報告を行うほか、染織の実作経験のある研究者を特別講師として招く。また、「モノ語り」シリーズとして、長年のフィールドとのかかわりを通じて収集した布工芸製品を時代背景や生産地の状況、消費の動向と絡めて解説する報告を合わせて行う。第2回は館外開催とし、日本国内の伝統工芸品の製作現場を訪問して情報収集と意見交換を実施するほか、現地在住の研究者を交えて研究会を行う。第3回には、アジア地域の伝統染織を用いた衣服のデザイン・販売に従事している専門家を特別講師として迎え、日本人消費者の嗜好の特質や仲介者の役割について議論を行う。さらに国立民族学博物館所蔵のEC(エンサイクロペディア・シネマトグラフィカ)フィルムの視聴を通じて、当初設定した研究枠組みの中で柱となるテーマの抽出を行う。
【館内研究員】 | 上羽陽子 |
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【館外研究員】 | 青木恵理子、五十嵐理奈、今堀恵美、落合雪野、金谷美和、窪田幸子、佐藤若菜、杉本星子、田村うらら、松井健、宮脇千絵 |
研究会
- 2019年5月25日(土)13:00~18:00(国立民族学博物館 第6セミナー室)
- 佐藤若菜(新潟国際情報大学)「収集・分析・撮影・展示される民族衣装:日本が中国少数民族文化に与えた影響に着目して」
- 今堀恵美(東海大学)「ウズベキスタンのシルクロード観光イメージとウズベク刺繍のローカルな意味の変容」
- モノ語り Part III 「バリ農村における<伝統染織>の生産」中谷文美(岡山大学)
- 2019年5月26日(日)10:00~16:30(国立民族学博物館 第6セミナー室)
- 落合雪野(龍谷大学)「手織り布をめぐるアグリツーリズムの展開――ラオス北部のタイ系コミュニティーから」
- 日下部啓子(首都大学東京)「語られる織布:トラジャの慣習復興におけるアイデンティティの在り処としての機織りをめぐって」
- 総合討論
- 2019年7月7日(日)10:00~17:00(石川県政記念しいのき迎賓館[石川県金沢市])
- 松村恵里(金沢大学)「加賀友禅の成立背景と現在―加賀の友禅のつくり手とはだれか」(仮)
- モノ語り Part IV「絨毯と出会う、織り手と出会う」田村うらら(金沢大学)
- 総合討論
- 2019年12月8日(日)10:00~18:00(国立民族学博物館 第4セミナー室)
- 丹羽朋子(国際ファッション専門職大学)「ECフィルムとは何か?<紡ぐ・綯う・編む・織る>映像の活用をめぐって」
- ECフィルム上映+ディスカッション
- 全体討論
- 2020年2月16日(日)10:00~18:00(国立民族学博物館 第1演習室)
- 松井健(東京大学)「現在のキモノの生産・流通・消費について:『キモノストック』という視点」
- 中谷文美(岡山大学)「布とバスケタリー:線具としての「ヒモ」への注目から見えること」
- モノ語り Part V「中国雲南省モン衣装の変化」宮脇千絵(南山大学)
- 全体討論
研究成果
今年度は4回の研究会を開催した。第1回は、まだ1巡目が終わっていないメンバーがそれぞれの調査地域に関する研究報告を行ったほか、特別講師として織物の実作者でもある日下部啓子氏を招いた。第2回は、金沢での館外開催とし、加賀友禅作家でもある松村恵里氏を特別講師としたほか、加賀友禅及び能登上布の製作現場を訪問した。第3回は、国立民族学博物館が所蔵するエンサイクロペディア・シネマトグラフィカ(EC)映像のうち、「紡ぐ・綯う・編む・織る」行為を取り上げたものを素材別・技法別に上映し、特別講師の丹羽朋子氏とともにディスカッションを行った。第4回からは、メンバー報告の2巡目を開始した。各回を通じて「モノ語り」Part III~Vも実施し、実際に布製品を持ち寄って全員で熟覧しつつ、収集の背景や時代の変遷による生産形態、素材、技法、用途などの変化についてのプレゼンテーションとディスカッションを行った。個別の調査地における現況の詳細な理解に加え、メンバーによる布生産地でのインタビューやフィルム視聴といった経験を共有することで、知見を深めた。
また、今年度はメンバーの大半が参加する英文論文集(Fashionable Traditions: Asian Handmade Textiles in Motion)を刊行することができた。
2018年度
初年度は3回,その後は毎年度4~5回のペースで研究会を実施する。
平成30年度
予定している3回のうち,2回を2日間にわたって開催するものとする。まずはメンバーそれぞれの調査対象地における伝統染織品の生産と消費,とりわけグローバル市場での商品展開の状況についての詳しい報告を行うことで,全体像をつかむことをめざす。本共同研究に先行する科学研究費補助金の研究プロジェクト(基盤A)に参加したメンバーを中心に,これまで明らかになってきた論点を確認するとともに,今後の議論に資する枠組みを明確にしたい。合わせて,メンバーがカバーしていない領域について,染織品の実作者でありコレクターでもある研究者など,異なる視点からのインプットを期待できる特別講師を招聘する。
【館内研究員】 | 上羽陽子 |
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【館外研究員】 | 青木恵理子、五十嵐理奈、今堀恵美、落合雪野、金谷美和、窪田幸子、佐藤若菜、杉本星子、田村うらら、松井健、宮脇千絵 |
研究会
- 2018年10月6日(土)14:00~18:00(国立民族学博物館 第1演習室)
- 中谷文美(岡山大学)「伝統染織品の生産と消費」をめぐる問題提起
- 各共同研究者のテーマ紹介と研究の方向性に関する全体討論
- 2018年12月8日(土)13:30~18:00(国立民族学博物館 第3演習室)
- 窪田幸子(神戸大学)「〈クラフト〉から〈アート〉へ?――オーストラリア、アーネムランドにおける女性のテキスタイル制作の軌跡」
- 青木恵理子(龍谷大学)「距離の消費――現代東インドネシアのローカルな染織から19世紀パリのショッピング・アーケードまで」
- 全体討論
- 2018年12月9日(日)10:30~17:30(国立民族学博物館 第3演習室)
- 金谷美和(国立民族学博物館)「織りの伝統を継承する――日本における自然布の保全活動」
- 松井健(東京大学)「変転/変容する商品としての布」
- 宮脇千絵(南山大学)「民族衣装の〈あたらしいスタイル〉――中国雲南省モン族のファッションとアイデンティティ」
- 2019年2月17日(日)13:00~18:00(国立民族学博物館 第6セミナー室)
- 中谷文美(岡山大学)「文化をリストにするということ――インドネシア伝統染織をめぐる境界のポリティクスと遺産化」
- 田村うらら(金沢大学)「伝統を継ぎ接ぎする――トルコのファッショナブル絨毯の流行について」
- 布工芸品を見る・語る(1):窪田幸子(神戸大学)
- 2019年2月18日(月)10:00~17:30(国立民族学博物館 第6セミナー室)
- 上羽陽子(国立民族学物博物館)「染色技術の戦略的選択――インド西部グジャラート州の女神儀礼用染色布から」
- 杉本星子(京都文教大学)「御召から紬へのキモノの流行の変化と西陣の黄昏」
- 布工芸品を見る・語る(2):落合雪野(龍谷大学)
- 総合討論
研究成果
初年度となる2018年10月~2019年3月は、3回にわたって研究会を開催した。第1回は、研究会の趣旨を代表から説明したほか、欠席者も含めメンバー全員が自己紹介シートを作成し、布・工芸に関する各自の研究実績や現在の関心、今後取り組む予定の課題などを共有した。
第2回、第3回は、本共同研究の前史と位置付けている科研費の共同研究の成果に基づき、窪田、青木、金谷、松井、宮脇(第2回)及び中谷、田村、上羽、杉本(第3回)が集中的に報告を行った。これらの報告及び全体討論を通じて、観光、文化遺産、市場戦略等において「伝統」と位置付けられることの多い各地の染織品に関し、さまざまな変化をもたらす要因を洗い出し、今後の議論のベースを作ることができた。
合わせて、第3回にはメンバーが調査地でこれまで収集してきた布・工芸品の一部について、それらの具体的なモノと研究者自身のかかわり、あるいはそれらのモノに表れている変化と生産現場や市場の変化を重ねて紹介する試みを行った。Part Iは窪田、Part IIは落合が担当した。