グローバル地域研究と地球社会の認知地図―わたしたちはいかに世界を共創するのか?
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テーマ区分:文化 3 文化衝突と多元的価値
代表者:西尾哲夫
研究期間:2020.4-2023.3
プロジェクトの目的・内容
和辻哲郎はインド洋から地中海に至る船旅での見聞をもとに風土的文化類型論を構築し、井筒俊彦はイスラーム神秘主義の中に普遍性を探り、東洋的哲学を構築した。また梅棹忠夫は「中洋」という文明圏の発見から地球的規模の文明論を構築し、中東・イスラーム世界を対象とする地域研究体制を創り、従来型の国益に沿う地域研究を、地球規模の人類的課題に係る問題群にアプローチする学問的営みへと発展させた。
西洋と東洋との第三項として「中東」を想定することで学問的発展を促した三者に対し、エドワード・サイードは、非西洋への西洋の植民地統治をも正当化させてきた西洋と「中東/オリエント」との認識論的・存在論的差異について明らかにし、近代西洋と非西洋との関係をめぐる内省的な再検討を促した。しかし日本と中東の文化的事物の往来が近代西洋を介して行われてきたことに目を向ければ、「遠い異郷」としての相互イメージに立脚する日本と中東の文化的仲介者/場としての西洋の役割について理解できるだろう。文化的に隔てられた地域を仲介した西洋への再検討は、グローバル文化的知識の環流が起こる現代的状況を解明することにもなりうる。
個人がアクセスできる知識と公共的コミュニケーション空間の関係の激変は、文化が資源化されて公共性を獲得するプロセス、そしてローカルな生活空間とグローバルな社会空間が接合し、個人の社会的動員作用として働くメカニズムにも影響を及ぼしてきた。そこでグローバルな文化資源を個人がどのように実践して社会に関わるか、それが地域意識や世界観にどのように作用し、媒介項(変項)として環境要因や身体性の類型化可能な要因として作用するのかを確認することが重要となる。旧来の世界認識が、個人空間と制度的システムとの間で生起するナラティブ・ポリティックスに感応し、いかなるグローバルな地域性を獲得しようとしているのかをモデル化するために「東洋(日本)‐西洋(ヨーロッパ)‐中洋(中東)」における文化往還を検討しつつ、地球社会の認知地図を描こうとしてきた研究枠組みを批判的に再検討することで、現代における「文明」を再定義できるだろう。
地域研究が新たな価値を創出するためには、普遍的な価値を視野に入れた上で、グローバル化という視点から地域を再定位し、同時に地域的視点からグローバル化を再定位しつつ、人びとと世界とのつながり方の現代的動態をフィールド調査によって解明する「グローバル地域研究」が必要となる。自然・社会環境と言語メディア環境に係る地球規模の変動下において個人がいかに情報を入手し、それを知識としてストックし、さらにそれを資源として活用し、個人が生きるローカルな生活空間とグローバルな社会空間をどのように接合しているかという観点から、個人の再社会化ならびにそれらの相互作用の中に多元的価値を包摂/排除する形で共創される社会空間の実相を捉え直す。
期待される成果
西暦2020年を人類は忘れないだろう。地球社会における個人と共同体のつながりを根底から揺るがす現象がまさに起こっている。個人の実践が、地域社会や国家システムを超越して地球社会へと直截に影響を与え、地球社会と個人が対峙している。
人びとの皮膚感覚である「地球社会」の実相を捉えるには、特定の地域にかかる問題をローカルなものとして矮小化するのではなく、人類の近未来にかかる問題群の一つとして再設定し、現地に暮らす人びとによる日常的実践の一局面と捉えて、人間的普遍と文化的特殊を同じ位相の中で捉える「グローバル地域研究」が必要となる。新たな世界理解の方法を模索しつつ、地球規模の変動下にある人間と文化に関する個別の研究を通じて人類の普遍的テーマである「多元的価値共創社会」の可能性を探ることが、地域研究というグローバル・スタディーズに課せられた最大の課題である。「グローバル地域研究」こそが国立民族学博物館が射程とすべきものであり、地域研究の地球社会論的転回による新たな学問領域を開拓する。
みんぱく公開講演会
2020年11月6日(金)
みんぱく公開講演会「ファンタジーの挑戦――もうひとつの世界を想像しよう」
国際シンポジウム
2022年3月(開催予定)