国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

地域SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)を活用した新しい地域コミュニティの構築に関する研究

共同研究 代表者 杉本星子

研究プロジェクト一覧

目的

本研究は、地域SNSの実践とそれをとおして構築されるネットワークに関する実証的な研究をとおして、インターネット時代の新しい地域コミュニティの構築について検討することを目的とした学際的な共同研究である。ソーシャル・ネットワーク・サービスは今や世界に広がり、ユーザーの情報交換やコミュニケーションをとおしてウェブ上にさまざまなコミュニティが形成されている。なかでも特定地域を基盤として運営される地域SNSは、バーチャルな空間におけるネットワークとリアルな社会空間におけるネットワークを結びつけることにより、新しい地域コミュニティの構築と地域ビジネスの可能性を開くものと期待されている。本研究では、2005年から始まった総務省の実証実験による日本各地の地域SNSの取り組みとそれを利用したまちづくりの検証や、日本と海外の地域SNSの比較などをおこない、インターネットを活用した新しい地域コミュニティの創造に向けた実践的かつ理論的な研究を目指す。

研究成果

本研究は、文化・社会人類学、情報社会学、情報経営学、ジャーナリズム研究などからなる学際的な地域SNS研究として開始され、期間内に後述する10回の共同研究会を実施して、全国各地の地域SNSに関する実証的な研究を蓄積した。また、本研究の一貫として、2008年の第43回日本文化人類学会において分科会『地域SNSの現場から:ローカルネットワークとローカルコミュニティを再考する』を実施したほか、研究成果の社会的還元をめざす実践的な活動として、共同研究会のメンバーの多くが、年に2回開催される地域SNS全国フォーラムに参加して全国の地域SNSの情報収集に努めるとともに、ICTを活用した地域活性化に向けた諸活動に参画した。さらに共同研究を重ねることによって、地域SNSを切り口としながらも、グローバルな情報化が進むなかで変化するローカルネットワークの動態へと研究の視座が拡がり、ICTだけでなく携帯電話を含めた大きな意味での現代の通信技術の発展がもたらしたローカルコミュニティの変化へと議論が深まる成果がもたらされた。

共同研究会:第1回「地域SNSの現状分析」庄司昌彦、第2回「地域メディアと地域通貨─地域SNS研究へのインプリケーション」湖中真哉・「<コミュニティ>とは何か―地域SNSから考える」原知章、第3回「パリ発・地域SNSのコミュニティデザイン」吉田倫子・「オンラインコミュニティを介した地域活性化-その期待と実態」木村忠正、第4回「自治体情報化と地域情報化の関係」久保貞也・「自治体のブランディング政策と中小企業ネットワーク」杉山幹夫、第5回和崎宏「関係性の可視化によるコミュニティの活性化-日本型地域ネットワークを活用した持続可能な地域SNSの設計と運用」・「Y150市民参加プラットフォームの活動と地域の人的資源開発」杉浦裕樹(2008年11月22日)、第6回地域SNS全国フォーラムinうじ」への参画:「地域SNSの多様な個性、地域性」庄司昌彦・「地域で取り組むエコな話し」原知章・「地域にお金をまわすには」久保貞也、第7回「マスメディア・ジャーナリズムとローカル・ジャーナリズムの理論的相克」林香里・「地域再生と新聞再生:新潟など4カ所の事例とともに」畑仲哲雄、第8回地域SNS全国フォーラムin 松江への参画:「災害と地域SNSの活用」和崎宏、第9回「福祉をつむぐ音楽ネットワーク」馬場雄司・「SNSエスノグラフィーのジェンダー空間」杉本星子、第10回研究報告・成果出版の打ち合わせ。

2010年度

本共同研究の成果は、以下の二つの方法で取りまとめる。第一は、地域SNSに関する学際的かつ実践的研究という本研究の特徴を活かし、全研究分担者がそれぞれの専門分野の視点に基づいて地域コミュニティの活性化に向けたICTの活用を論じる一般社会人向け書籍の出版である。現在、平成22年度末出版を目指して執筆分担と出版社との交渉を進めている。第二は、共同研究メンバーのなかの文化・社会人類学者による、情報化時代のコミュニティ・ネットワーク理論に関する研究発表である。これに関して、SNSの国際比較をテーマとした国際学会での分科会発表を検討中であり、また、平行して研究誌(国立民族学博物館研究報告など)への投稿を計画している。

【館内研究員】 飯田卓、五月女賢司
【館外研究員】 木村忠正、久保貞也、湖中真哉、庄司昌彦、田中秀幸、林香里、原知章、和崎宏
研究会
2010年7月11日(日)13:00~18:30(国立民族学博物館 第3演習室)
研究報告・成果出版についての打ち合わせ
研究成果

7月の研究会において、共同研究の成果報告は、ICTを活用したローカル・ネットワーキングのエスノグラフィをとおして、高度情報化時代における地域社会の可能性を考える論考を目指し、内容は大きく概要編と事例編の二部構成とすることとした。それに従って、共同研究会のメンバーは、各自のテーマに沿って、以下のように報告書に向けた原稿を執筆した。

    <報告書目次>
  1. 地域における社会ネットワーク(人的ネットワーク)と情報通信技術 庄司昌彦
  2. 自治体の情報化と経営度における地域SNSの役割 久保貞也
  3. 国・自治体による地域SNS 施策とその効果の検証 田中秀幸
  4. 「コミュニティ」とは何か─地域SNSをめぐる政策から考える 原知章
  5. 「コミュニティネットワーク」への欲望を解体する 木村忠正
  6. 「書くこと・読むこと」が紡ぐネットワーク:地域SNSの日記コミュニティ 杉本星子
  7. 災害と地域SNS:佐用豪雨災害で可視化された救援・復興のつながり効果 和崎宏
  8. 「『地域ジャーナリズム』という事業:SNSに取り組んだ地方紙7社への調査から」林香里・畑仲哲雄
  9. アフリカ牧畜社会における携帯電話利用:ケニア中北部・サンブルの事例 湖中真哉
  10. ノマディズムと遠距離通信:マダガスカル、ヴェズ漁民における社会空間の重層化 飯田卓

2009年度

前年度に引き続き、地域SNSの取り組みとそれを利用したまちづくりについて具体的な事例の検証をすすめるとともに、インターネットを活用したネットワークとコミュニティの形成力学に関する理論化をめざして議論をすすめる。また、前年度に提起されたさまざまな論点のうち、とくに日本におけるマスメディアと地域メディアの関係におけるインターネットの介在に関する議論を深化させることによって、社会的歴史的背景と情報化環境のちがいに基づいた海外の地域SNSと日本の地域SNSの比較研究のための基盤を構築する。こうした共同研究における議論にもとづいて本共同研究の総括ともなるシンポジウムを実施し、共同研究の成果を報告書にまとめる計画である。

【館内研究員】 飯田卓、五月女賢司
【館外研究員】 木村忠正、久保貞也、湖中真哉、庄司昌彦、田中秀幸、林香里、原知章、和崎宏
研究会
2009年7月11日(土)13:00~18:30(国立民族学博物館 第3演習室)
林香里氏「マスメディア・ジャーナリズムとローカル・ジャーナリズムの理論的相克」
畑仲哲雄氏「地域再生と新聞再生:新潟など4カ所の事例とともに」
2009年10月17日(土)13:00~18:30(松江オープンソースラボ(松江テルサ別館2F))
発表者:和崎宏「災害と地域SNSの活用」
コメンテーター:田中秀幸
2010年2月28日(日)13:00~18:30(国立民族学博物館 第3演習室)
馬場雄司「福祉をつむぐ音楽ネットワーク」
杉本星子「SNSエスノグラフィーのジェンダー空間」
研究成果

第43回日本文化人類学会において分科会『地域SNSの現場から-ローカルネットワークとローカルコミュニティを再考する』を主催した。本年度第1回研究会では、マスメディア・ジャーナリズムとローカルメディア・ジャーナリズムの変化に焦点をあて、ナショナルな想像の共同体の創造に寄与してきたマスメディアの独占的言説が、ネット発信によるパーソナルメディアの言説が創り出す社会現実に揺さぶられる今日の情報環境のなかで、ケーブルテレビや地域SNSと結びつくことによって地域再生を支えるミドルメディアとして再生を目指している地方新聞の事例が議論された。

第2回研究会は第4回地域SNS全国フォーラムと連携し、新潟中越地震や佐用町水害など被災時における情報発信と災害復旧・復興における地域SNSネットワークの活用事例と今後の可能性をめぐる公開討論に参画した。

第3回研究会では、京都山城地域SNS「お茶っ人」における「まちづくり」NPOの創設や女性キーパーソンズ・ネットワーク、ミュージシャン・ネットワーク等の形成による地域ネットワークの重層的構築の事例を軸に、地域SNSの地方的特徴や多様性をめぐり議論した。

2008年度

前年度にひき続き、地域SNSの取り組みとそれを利用したまちづくりについて検証する。前年度に提起された論点のうち、コミュニティの消長や参加者数の推移、顕著な増減のきっかけとなるできごと、複数のコミュニティの離合集散などにとくに留意し、バーチャルな空間ならではのコミュニティ形成力学について、理論化を目指す。また、海外の地域SNSと日本のそれを比較することにより、社会的背景や情報化環境のちがいが地域SNSのあり方やそれに関する行動のあり方に影響をおよぼすかどうか、実証的な検討を試みる。

【館内研究員】 飯田卓
【館外研究員】 木村忠正、久保貞也、湖中真哉、庄司昌彦、田中秀幸、林香里、原知章
研究会
2008年5月24日(土)13:00~18:30(国立民族学博物館 第1演習室)
吉田倫子「パリ発・地域SNSのコミュニティデザイ」
木村忠正「オンラインコミュニティを介した地域活性化-その期待と実態」(仮題)
2008年7月12日(土)13:00~18:30(国立民族学博物館 第2演習室)
久保貞也氏「自治体情報化と地域情報化の関係」
杉山幹夫氏「自治体のブランディング政策と中小企業ネットワーク」
2008年11月22日(土)13:00~18:30(国立民族学博物館 第1演習室)
和崎宏氏「関係性の可視化によるコミュニティの活性化-日本型地域ネットワークを活用した持続可能な地域SNSの設計と運用」
杉浦裕樹氏「Y150市民参加プラットフォームの活動と地域の人的資源開発」
2009年3月7日(土)12:30~18:30(京都文教大学)
プログラム:地域SNS全国フォーラム
テーマ1:「地域SNSの多様な個性、地域性」
発表者:国際大学グローバル・コミュニケーション・センター助教/研究員 庄司昌彦氏
テーマ2:「地域で取り組むエコな話し」
発表者:静岡大学人文学部准教授 原知章氏
テーマ3:「地域にお金をまわすには」
発表者:摂南大学経営情報学部准教授 久保貞也氏
研究成果

平成20年度の共同研究は、地域SNSの具体的な事例をもとにICTを活用した地域コミュニティの構築についてさまざまな角度から議論を重ねた。第1回研究会では、富士通総研経済研究所吉田倫子氏によるフランスの地域SNSの現状報告と木村忠正氏による欧米諸国の地域SNSの事例報告をうけ、地域SNSを介したネットワークの国際比較の議論をした。第2回研究会では、久保貞也氏による行政の情報政策の分析評価とNPO法人Civic Mediaの杉山幹夫氏による札幌市民のICTを活用した地域活性化活動の報告をうけ、地域情報化の推進にともなう行政と地域住民の連携について議論した。第3回研究会では、地域SNS「ひょこむ」主宰の和崎宏氏と横浜経済新聞編集長の杉浦裕樹氏の実践的活動報告をうけて、地域SNSの可能性と地域の人的資源の開発をめぐって議論した。第4回研究会では、第4回地域SNS全国フォーラムへの参画をとおし、全国の地域SNSの情報収集と本共同研究成果の社会的還元をめざした。

2007年度

平成19年度の研究会では、共同研究会のメンバー間での研究計画や目的の共有および各学問分野におけるメディア社会に関する研究状況をめぐる知識の共有をめざす。

    <共同研究の実施概要>
  1. 本共同研究は、個人研究と合同研究会によって進める。
  2. 合同研究会では、共同研究メンバーによる個人研究の成果報告と招聘講師による講演、およびそれディスカッションをおこなう。
  3. 共同研究のメンバーは、各自のテーマと計画にしたがって実践的な調査研究を進めるとともに、学会の分科会や地域におけるシンポジウムや講演などの機会を活用して研究成果を還元する。
  4. 研究会の招聘講師として、情報社会およびSNSに関する専門的研究者および自治体およびNPOの地域SNS運営者に、研究会での報告を依頼する予定である。
【館内研究員】 飯田卓
【館外研究員】 木村忠正、久保貞也、湖中真哉、田中秀幸、林香里、原知章
研究会
2007年10月5日(土)14:00~18:40(国立民族学博物館 第1演習室)
(1)各メンバーの研究の紹介
(2)地域SNSの現状についての情報交換
(3)今後の研究会の方向性についての話し合い
(4)庄司昌彦「地域SNSの現状分析」
2008年3月9日(日)9:30~13:00(国立民族学博物館4階 第1演習室)
湖中真哉「地域メディアと地域通貨─地域SNS研究へのインプリケーション」
原知章「<コミュニティ>とは何か ―地域SNSから考える」
庄司昌彦 コメント
研究成果

第1回研究会では、日本の地域SNSの展開と各地の地域SNSの現状、総務省によるITCを活用した地域社会への住民参画を促進するため取り組みや地方情報自治センター(LASDAC)によるe-コミュニティ形成支援事業の展開等について、庄司昌彦氏と田中秀幸氏よりご報告をいただき、共同研究を開始するための基本的な知識を共有し、今後の研究会の方向性について検討した。第二回研究会では、地域SNSを活用した地域コミュニティの再生に焦点をあて、原知章氏と湖中真哉氏より、人類学のコミュニティ研究の視点による地域SNS「e-じゃん掛川」の事例研究および総務省のコミュニティ政策等の検討、地域通貨を用いた清水の地域コミュニティ活動とITCの利用に関する実践的研究をご報告いただき、今後さらに共同研究を深化するうえで、地域SNSをコミュニティ研究のうちに位置づける理論的基盤の重要性を確認した。