現在の周極地域は急激な環境的、政治的、経済的変化に見舞われ、北方諸民族の文化は大きく変化しようとしている。この変化は個々の民族や国家の粋にとどまらず、今や国際的な課題として認識されるに至っている。北方諸民族の文化復興運動とアイデンティティ、民族と国家との関係の再構築、人間と自然との関係の再考、民族紛争とその解決、多様な文化の共存と相互理解などは21世紀に課せられた人類共通の課題でもある。
そこで、本刊行計画においては、国際的に第一線の研究者たちによる多様な視点からの研究に基づき、北方ユーラシア、日本、北アメリカを含む周極地域における諸民族のエスニシティとアイデンティティの実態に関する比較研究を行い、北方地域で現在進行している民族と文化の動態を明らかにし、21世紀に課された課題に対して民族学的視点から解明することを目的とする。
さらに、エスニシティとは何か、アイデンティティとは何か、そして両者の関係はいかなるものかを明らかにすることにより、本書は「人間とは何か」という人類学のより普遍的な課題へのアプローチを提示し、人類学の新たな理論と方法論の構築に貢献するものである。
国立民族学博物館共同研究「周極地域のエスニシティとアイデンティティに関する研究」（研究代表者　煎本　孝、平成12-14年度）を中心として外国人研究者を加えた国際シンポジウム「北方民族のエスニシティとアイデンティティ」（議長　煎本　孝、平成12年10月12-14日）の研究成果を国立民族学博物館より刊行し、海外へ広く情報発信を行うことにより、当該学術研究分野の推進に寄与することを刊行の目的及び意義とする。

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