国立民族学博物館の先端民族学研究プロジェクトのひとつとして、1998年度から2003年度まで「先住民資源問題」が実施された。編者のひとりである岸上は「先住民による海洋資源の利用、管理、流通」をテーマとして共同研究会や科研調査を組織し実施した。そして成果の検討と公開を目的として2002年12月２日から６日にかけて国内外から約20名の第１線で活躍している研究者を招へいし、「平成14年度文部科学省国際シンポジウム New Interdiscriplinary Approaches to the Study of Indigenous Use and Management of Migratory Marine Resources」を実施した。本論文集は、そのシンポジウムの成果をとりまとめたものである。
これまで人類学は陸地の諸文化に重点を置き、沿岸部や島嶼部の海や沿岸域に生活の基盤を持つ諸文化を正面から研究することはほとんどなかった。かりにそのような研究が存在したとしても、秋道らによる一部の例外を除けば、漁民の生活や漁労活動、漁村の社会構造や宗教に関する民族誌的な研究であった。一方、本論文集は、極北地域や太平洋地域、東南アジア地域、西インド洋、カリブ海域における先住民や漁民による水産資源の利用と管理に関する諸問題を学際的な視点から取り扱っている。さらに水産資源のコモンズ論、先住民捕鯨をめぐる諸問題、気候の温暖化が水産資源利用へ及ぼした諸影響、環境汚染の水産資源への諸影響、海域に関する先住民権の問題、伝統的な環境知識と科学的な環境知識の問題など、これまであまり取り上げられてこなかった研究分野の論文が所収されている。本論文集は、これまでの研究と比べるとより応用的な研究であり、かつ水産資源の利用と管理に関する最先端の研究成果であるといえる。

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