国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

研究会・シンポジウム・学会などのお知らせ

2007年3月10日(土)
《機関研究成果公開》公開シンポジウム「フェアトレードがめざすもの:その多様化する現状と課題」

  • 日時:2007年3月10日(土) 15:00~19:00
  • 場所:キャンパスプラザ京都 第3講義室
     (西洞院通塩小路下る東側 JR京都駅烏丸口・駅ビル駐車場西側)
  • 参加費:無料(事前申込不要、入場定員150名)
  • 主催:日本学術振興会 人文社会科学振興プロジェクト研究「多元的共生社会の構築」
     国立民族学博物館 機関研究「運動の現場における知の再編」
  • 後援:京都大学コーヒー・フードシステム研究会
     圓尾飲料開発研究所
 

趣旨

CSR(企業の社会的責任)やLOHAS(健康と持続可能性を志向するライフスタイル)のブームにも後押しされる形で、日本においても、生産者支援を目的とするフェア・トレード商品が目にとまるようになってきました。

しかし、それが最も普及しているコーヒーの市場においても、大手企業による取り組みが始まっているのにもかかわらず、「フェア・トレード」のシェアは0.2%程度です。欧米においては、「フェア・トレード」コーヒーのシェアが1%を超える国が多く、日本における普及の遅れが目立ちます。

普及が進まない原因は、消費者の嗜好・選択の問題だけでなく、フェア・トレード商品を提供する側にもあるのではないでしょうか。例えば認証制度型フェア・トレードと産消提携型フェア・トレードの協力関係の希薄さという問題です。

認証型フェア・トレードについては、国際フェアトレード・ラベリング機関(FLO)が管理する認証制度に沿って、企業を中心とした取り組みが進んでいます。提携型フェア・トレードについては、生産者と消費者の提携(「顔が見える関係」)を重視する取り組みを、オルターナティブな貿易を探求するフェア・トレード専門組織などが進めております。

本シンポジウムでは、このフェア・トレードの分類(認証型/提携型)を参照しながらも、その2区分ではとらえられない多様化するフェア・トレードの現状をかんがみ、それぞれの目標や実践の特徴、問題点などを議論します。それを踏まえた上で、フェア・トレード全体の普及を図るための課題、それぞれの役割分担や協力のあり方などを考えたいと思います。

プログラム

2日間のプロセスは原則として全て公開です。簡単な受付をすませたら、ご自由にご見学下さい。

15:00~15:05 開会のことば・主催者挨拶
 宇田川妙子(国立民族学博物館)
15:05~16:25 基調報告
 1.「コーヒー危機とフェアトレード」辻村英之(京都大学)
 2.「認証型/提携型分類再考」鈴木紀(千葉大学)
16:35~17:25 基調報告へのコメント
 近藤康男(オルター・トレード・ジャパン 取締役)
 北澤肯(フェアトレード・リソースセンター 代表)
 辻隆夫(共和食品株式会社 取締役生産部長)
 中村陽一(立教大学)
 兵藤亜沙(FTSN関西 前事務局メンバー)
17:35~19:00 パネル・ディスカッション
 報告者およびコメンテーター
 コーディネーター:辻村英之
19:00 閉会のことば
 宇田川妙子

成果報告

基調報告1(辻村英之)は、導入としてフェア・トレードの目的と手段に関する議論を紹介し、フェア・トレードの本来の目的は生産者の生活改善・人権擁護・持続的発展にあることを確認した。またそうした成果が消費者に見えにくい点を問題として指摘した。したがってフェア・トレードの課題は、生産者支援の成果を消費者に伝えることと、そうした成果を商品の「品質」として認識できる消費者を増やしていくことにあると主張された。こうした論点が、発表者の調査地タンザニア北部の状況、およびその地域のコーヒーをフェア・トレードとして販売してきた経験をまじえて具体的に提示された。基調報告2(鈴木紀)は、近年売り上げの伸ばしているフェアトレード・チョコレートを事例に、フェア・トレードを認証型/提携型に2分する考え方を再検討し、新にFLO認証型/IFAT認証型/独自基準型の3分類を提案した。しかし、この分類も市場交換を維持しつつ、取引相手との「仲間づくり」をめざす試みという点では共通であることも指摘した。その結果、フェア・トレードの課題は、市場交換面での成功と「仲間づくり」面での成功、および両者の相互関係という点から考える必要があることが提案された。

以上の報告を受け、5人のコメンテーターが意見を述べた。近藤康雄氏は提携型の活動の意義を、北沢肯氏はFLOの認証制度の意義を説明し、辻隆夫氏は企業としてフェア・トレード商品をあつかう問題点を指摘した。また今後のフェア・トレード発展の鍵となるフェア・トレード関係者のネットワーキングに関して、中村陽一氏と兵藤亜沙氏が、それぞれ市民運動のコーディネイション、学生のフェア・トレード活動組織化の経験にもとづいて発言した。

以上の議論の後、フロアからの質問やコメントがだされ、全体としてフェア・トレード発展のためのさまざまな課題が浮き彫りになった。なおシンポジウムの一般参加者は130人余り(報告者等を含めて140人ほど)、新聞社数社からの取材申し込みもあり、社会的に関心の高い問題設定であったことが確認された。

 

●関連する刊行物 
・季刊『at』8号、特集「フェアトレードの現在」、2007年7月発行、太田出版→太田出版サイトへ