国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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2005年6月27日(月)
国際シンポジウム「環境保全型経済(Eco-Economy)の構築: ―自然資源と文化資源を利用して、市場経済を超える方法―」

  • 日時:2005年6月27日(月)
  • 場所:モンゴル国立科学技術大学、ウランバートル、モンゴル
  • 代表者:小長谷有紀
 

モンゴル国は市場経済への移行を進めて十年が経過し、現在、ヒト・モノ・カネが溢れるようになり、生活は一見すると格段に向上して見える。しかし、地域別に生活格差が拡大し、人口は都市に集中している。また戸別に生活格差が拡大し、犯罪は劣悪化している。

これまでの市場経済のモデルを参考にした結果、生じているこれらの経済発展のアンバランスを解消するためには、従来とは異なる発展のモデルを模索しなければならない。とりわけ、広大な地域に分散的に居住しなければならないという遊牧の特徴を考慮する必要がある。すなわち、遊牧民の生活の質を向上させながら遊牧を維持することのできる経済を作ることが、ひいては国全体の発展を可能にする道となるであろう。

レスター・ブラウンが提唱したエコ・エコノミーとは、環境を破壊することなく、むしろ積極的に保全しながら展開する経済をさす。発展途上国の場合は、これまで先進国が歩んできたありきたりの発展段階を経ていると、追いつかないうちに地球が危機を迎えてしまうので、従来とは別の道を通って、環境先進国として成長する必要がある。発展途上国が「跳び蛙理論」(leap frog theory)を実行するためには、当該地域に応じた環境利用の技術が開発されなければなるまい。

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本会議は、こうした趣旨のもと、モンゴル国立科学技術大学で2005年6月27日に実施された。まず、当大学人文学部長のエルデネボルド教授が開会を宣言し、共催者である国立民族学博物館の小長谷が趣旨を説明した。

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基調講演として、国立民族学博物館の松原名誉教授が、人類史の観点から、エネルギーの危機を強く訴え、鉱産資源に頼る発展途上国の未来を憂えた。聴衆のなかには民主化直後の時代のソドノム元首相、オチルバト元大統領が含まれていたが、ソドノム氏は金鉱開発会社の顧問をしており、オチルバト氏は鉱産資源開発の専門家であり、彼らに象徴されるように、モンゴルの社会主義過程は鉱産資源開発による経済発展であるに等しく、それ(鉱産資源開発による経済発展)は民主化後の今日では売国行為となっている。そうした鉱産資源開発がすでに終焉していることを告げる重要なスピーチであった。

それでは、鉱産資源に代わる自然資源とは何か?例えば、乾燥地域であるために雲が少ないモンゴルの自然環境においては、放射冷却や太陽熱などを利用することができる。日本で著名な環境発明家である藤村靖之氏が、電気を使わない冷蔵庫や暖房器具を提案した。これらはいずれも未だ試作品であり、今後のモニタリングによる改良を必要とするが、新しい技術によって社会の幸福を増大せしめるビジネスのあり方が具体的に示され、大きな反響を生んだ。

午後のセッションでは、文化資源の利用について、新潟大学の白石典之助教授が、オルホン渓谷をユネスコ世界遺産に登録するためにおこなった基礎資料の作成という経験をふまえて、現在発掘しているチンギスハーンに関連する遺跡を含む地域全体の保存が提案された。また、札幌学院大学の臼杵勲助教授が、日本の文化庁にも勤務した経験を生かして、日本における文化財保存のための諸制度を紹介し、文化財を自然環境と一体的に保存する考え方を提示した。

これに対してモンゴル側からは、地理学者のバザルグル博士が、チンギスハーン生誕地にある遼代の遺跡についてアメリカ人との発掘結果を紹介し、彼の弟子であるバヤルトクトホ氏がチンギスハーンに関連する地を経巡るツーリズムを企画し、また、国立大学の講師アマルサナー氏がモンゴルにおける観光産業について全般的な整理を行なった。

終日を通して、歴史や文化を原動力として環境を保全しながら経済を発展させる道というオルタナティブな発展について具体的に提示することができたと私は思う。モンゴル国立技術大学が試験期間中であったために、小さな一室で実施したところ、参加者からはもっと大きな会場で、多数の聴衆に聞かせるべきだという意見があった。このような意見そのものが、本会議の大きな成果であると考える。今後は、会議要旨を発表したり、継続的に会議を開催したり、提案を具体的に実践したりすることによって、このオルタナティブな跳び蛙の道は確かなものになるであろう。

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