国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

ヘリテージ(遺産)の所有と利用に関する観光文明学的研究

共同研究 代表者 西山徳明

研究プロジェクト一覧

目的

遺産は、それを享受しようとする者たちを遠ざけて保護しても護れず、むしろ近づく者にその重要性(=significance)を積極的に理解させることが必要である。これは、遺産保護に大衆レベルでの高い理解と支持がない限り、政策的、資金的に保護し続けることができないという経験に基づく認識であり、そのためには「遺産」と「遺産の所有者(ホスト)」と「訪問者(ゲスト)」の持続可能な関係構築が不可欠となる。本共同研究会では、ツーリズムという社会現象下におけるホスト社会と遺産との多様な所有関係を観光文明学的視点から解明し、その持続的利用(ワイズユース)の条件を、とくにアジア太平洋諸国や日本社会に適用可能な形で提示することを目的とする。本研究によって、前述のような遺産の所有と利用の関係性が解明され、アジア太平洋諸国に還元しうる内発的、自律的なツーリズム開発のあり方が提示できる意義は大きいと考える。

研究成果

本共同研究会では3年半にわたり、目的にあるように「遺産」と「遺産の所有者(ホスト)」と「訪問者(ゲスト)」の持続可能な関係構築の可能性を探ることを目的として議論を重ねてきた。20世紀の石油に代わって21世紀のグローバルフォース(世界を変える力)ともなりうるツーリズムの地域社会にとっての持続可能な発展パラダイムは、基本的にはエコツーリズムの開発理論の中に内蔵されていると言える。それは、自然を含む遺産の本質的価値(significance)に対するすべてのステークホルダ(ホストを含む利害関係者)による気付きから始まり、訪問者によるその価値へのアクセスの保障とインタープリテーションによる啓蒙、啓発と、それによる単なる訪問者から遺産に対する関与者への転換(教育を含む)といった一連のマネジメントプロセスを、様々な類型を有する遺産地域や所有者に対して意識的に組み込んでいこうとする計画論に展開できることが確認された。 遺産所有者としての地域社会に着目したものがエコミュージアムやコミュニティツーリズムとよばれて近年注目されつつあるツーリズム形態であり、こうした発展理論を検証する事例として、本研究会では、国内では白川郷や竹富島、奈良町、萩市、南大東島、大沢池(京都市)、アイヌを詳細に分析し、海外では英国やドイツのツーリズムマネジメントの思想や麗江(中国)、ブータン、ウズベキスタン、ガラパゴス、カメルーン、バヌアツといった多様な性格を有する事例から知見を得た。

こうした一連の研究成果を、最終的には『次世代への観光文明論(仮題)』として出版し世に問いたいと考えている。

2008年度

研究成果取りまとめのため延長(1年間)

【館内研究員】 白川千尋、関雄二
【館外研究員】 池ノ上真一、石森秀三、江面嗣人、工藤雅世、小林英俊、敷田麻実、下休場千晶、花岡拓郎、真板昭夫、前田弘、森栗茂一、山村高淑、吉兼秀夫、橋爪紳也
研究会
2008年11月1日(土)14:00~18:00(国立民族学博物館 第2演習室)
テーマ:研究会報告書の出版企画に関する研究会
発表者:共同研究員全員
研究成果

本共同研究会の成果を公表する方法について検討し、『次世代への観光文明論(仮題)』として、平成21年度内に商業出版(出版社は未定)することとし、その企画やテーマごとの執筆分担について確認を行った。

2007年度

  • 無形遺産条約に関係する国際的な議論の検証、および牽引国となるべき日本としての理念整理と今後の戦略展開の方向性についての研究(河野・山口・森栗)。
  • 中南米古代遺跡地域やアジア太平洋諸国の植民地遺産地域等における「負の遺産」概念や遺産所有とツーリズムの関係性についての検討(関・杓谷・森栗)。
  • 自然資源を基盤としつつ、民族儀礼や生活様式などをツーリズム資源として開発を目指すエコツーリズム地域についての研究(下休場・真板・小林・敷田)
  • 日本の文化財保護制度による文化遺産の保存・保全と活用、無形遺産と有形遺産の統合的保全の可能性についての研究(本中・西村・西山)
  • 遺産の所有と利用の関係をインタープリテーション(解説)するシステムとしてのエコミュージアム等のマネジメントシステムについての研究(橋爪・吉兼・斉藤・黒見)
  • 日本およびアジアの木造文化遺産、歴史的環境の保存・保全とヘリテージ・ツーリズムに関する研究(江面・山村・池ノ上・花岡)
【館内研究員】 白川千尋、関雄二
【館外研究員】 池ノ上真一、石森秀三、江面嗣人、工藤雅世、黒見敏丈、河野俊行、小林英俊、齋藤雪彦、敷田麻実、下休場千晶、杓谷茂樹、西村幸夫、橋爪紳也、花岡拓郎、福島綾子、真板昭夫、前田弘、本中眞、森栗茂一、山口しのぶ、山村高淑、吉兼秀夫
研究会
2007年12月23日(日)9:00~18:00(第4セミナー室)
小林英俊・亀井由紀子・笠井敏光「地域社会による遺産の所有とマネジメントを考える」
2008年2月16日(土)9:00~18:00(山口県萩市 萩博物館)
2008年2月17日(日)9:00~17:00(山口県萩市 萩博物館)
文化遺産を生かしたまちづくりと近世城下町としての世界遺産登録への課題
吉兼秀夫、清水満幸(萩博物館)、城戸康利(太宰府市)、小林史彦(金沢大学)、大槻洋二(萩市)、山崎一眞(滋賀大学)、宮本雅明(九州大学)、野村興児(萩市長)
2008年3月1日(土)9:30~18:00(国立民族学博物館 大学院生演習室1)
発展する世界遺産を考える
西村幸夫、本中眞、西山徳明
研究成果

第1回共同研究会では、ウズベキスタンのサマルカンド及び長野県妻籠宿に関する事例報告に基づいてローカルコミュニティによる文化遺産と観光のマネジメントについて、そして世界各地のエコツーリズム・サイトにおけるマネジメント主体と自然保護等の達成状況等の相関について議論し地域社会による遺産マネジメントに関する知見と課題を得た。

第2回共同研究会では、初日に萩市や太宰府市で先進的に展開している文化遺産と観光のマネジメントを統合したエコミュージアム概念に基づく取り組みについて論究し、二日目は、世界遺産暫定リスト入りを目指す国内の近世城下町都市の最新の取組状況と遺産概念の展開状況について議論し、都市遺産マネジメントにおける市民、行政、研究者等のステークホルダの役割と関与可能性についての知見を得た。

第3回共同研究会は、世界遺産を取り巻く昨今の国際的な議論について一線の研究者から報告を受け、今後の日本における遺産と観光マネジメントへ研究者が取り組むべき視点を整理した。

2006年度

  • 無形遺産条約に関係する国際的な議論の検証、および牽引国となるべき日本としての理念整理と今後の戦略展開の方向性についての研究(河野・山口・西村)。
  • 中南米古代遺跡地域やアジア太平洋諸国の植民地遺産地域等における「負の遺産」概念や遺産所有とツーリズムの関係性について検討する(関・杓谷・西山)。
  • 自然資源を基盤としつつ、民族儀礼や生活様式などをツーリズム資源として開発を目指すエコツーリズム地域についての研究(真板・小林・敷田)
  • 日本の文化財保護制度による文化遺産の保存・保全と活用、無形遺産と有形遺産の統合的保全の可能性についての研究(江面・本中・西山)
  • 遺産の所有と利用の関係をインタープリテーション(解説)するシステムとしてのエコミュージアム等のマネジメントシステムについての研究(斉藤・黒見)
  • 日本およびアジアの木造文化遺産、歴史的環境の保存・保全とヘリテージ・ツーリズムに関する研究(山村・池ノ上・花岡)
【館内研究員】 白川千尋、関雄二
【館外研究員】 池ノ上真一、石森秀三、江面嗣人、黒見敏丈、河野俊行、小林英俊、齋藤雪彦、敷田麻実、杓谷茂樹、西村幸夫、花岡拓郎、福島綾子、真板昭夫、本中眞、山口しのぶ、山村高淑
研究会
2006年7月8日(土)13:30~ / 9日(日)10:00~(第4セミナー室)
敷田麻実、菅豊、池田啓、菊地直樹、鬼頭秀一「地域における遺産管理と専門家のかかわり」
2006年11月25日(土)13:30~ / 26日(日)10:00~(第6セミナー室)
山村高淑・宗ティンティン・津田命子・沖野慎二・向井純子「無形文化遺産・生活文化の継承と観光利用」
2007年3月9日(金)13:00~ / 10日(土)9:00~ / 11日(金)9:00~(沖縄県・南大東島(役場および体育館:予定))
池ノ上真一・真板昭夫・江面嗣人「近代化遺産、産業遺産の価値と継承」
研究成果

第1回共同研究会では、地域における遺産マネジメントの重要なステークホルダーの一員として研究者をとらえ、社会学、民俗学、生態学等の多様な分野の研究者のフィールド研究における遺産管理と地域社会、研究との関係について議論し研究者の地域における役割と発展段階を確認した。

第2回共同研究会では、無形文化遺産・生活文化の継承の第一線で行動する研究者を招聘し、無形遺産そのもの(民族音楽、アイヌ文化等)の継承および有形と無形が一体となった遺産(ブータンの仏教建築等)のマネジメントの現状を把握し課題を整理するとともにこれらに果たすべき政府や研究者の役割を確認した。

第3回共同研究会は、共同研究員である真板が永年にわたってエコツーリズムのフィールドとしてきた南大東島において、自然遺産に留まらない産業遺産や文化的景観等文化遺産のマネジメントとツーリズム開発について、地域行政や住民代表の参加も得て、地域の抱える課題と将来の可能性について討議し提言を行った。

2005年度

【館内研究員】 石森秀三、関雄二
【館外研究員】 池ノ上真一、江面嗣人、黒見敏丈、河野俊行、小林英俊、齋藤雪彦、敷田麻実、杓谷茂樹、西村幸夫、花岡拓郎、真板昭夫、本中眞、山口しのぶ、山村高淑
研究会
2006年2月18日(土)13:30~ / 19日(日)10:00~(大演習室)
西山徳明・関雄二・真板昭夫・大森洋子・山村高淑・藤木庸介・張天新「共同研究会の開催方法に関する議論と事例研究発表」
2006年3月11日(土)9:00~ / 12日(日)9:00~(トヨタ白川村自然学校催事ホール)
柿崎京一・西山徳明・合田昭二・黒田乃生「世界遺産白川郷における遺産の所有と利用に関する観光文明学的研究」
研究成果

第1回共同研究会では、本共同研究会の主題解題について検討した後、関連する平成16-18年度科研費研究「中国の歴史的市街地・集落における持続可能な観光開発のあり方に関する研究」(研究代表:山村高淑)に関する研究経過発表を行い討議した。ここで「遺産」と「遺産の所有者(ホスト)」と「訪問者(ゲスト)」の持続可能な関係構築に関する基本的な視点や研究課題を確認した。第2回共同研究会は、研究代表者が長年にわたって研究対象としてきた白川郷の合掌集落における文化遺産マネジメントとツーリズム開発について、当地に関する研究を進める早稲田大学、九州大学、筑波大学、岐阜大学調査隊および地域行政や住民代表の参加も得て、地域の抱える課題およびそれら課題の世界遺産をめぐる国際的な状況における意味について総合的に討議した。

共同研究会に関連した公表実績
  • 西山徳明編『文化遺産マネジメントとツーリズムの持続可能な関係構築に関する研究』国立民族学博物館研究報告(SER61),2006.3