国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

ポストモダニズム時代における市民参加とグローバリズム:日本そしてアジア

共同研究 代表者 出口正之

研究プロジェクト一覧

「シビル・ソサエティ」という多義的な用語は、80年代にポーランドのワレサが、盛んに用いたことから、民主化の象徴的な用語としても用いられ、特に、NPO、NGO活動が盛んな社会を指して言われることが多くなった。NGO、NPOのことをシビル・ソサエティ・オーガニゼーション(市民社会組織)と呼ぶこととも呼応する。日本では、阪神淡路大震災以降、NPO活動やボランティア活動に対してこの用語があてられることもある。ハーバード大学のSusan Farrらの政治学者が出した"The State of Civil Society in Japan"は、まさにこの文脈で使用されている。この本は、同じハーバード大学の文化人類学者を大きく刺激し、日本のシビル・ソサエティを文化人類学を中心とする学問で研究しようとする国際的な動きが急に高まった。本研究はこうした国際的な潮流に連動するものである。ポストモダン社会の光と影に迫る切り口としての市民参加の動きにみられるポスト集団主義、自己利益(self-interest)から出発した新たな「利他性」の出現を考察する。それはグローバリズムの中での他のアジア社会あるいはヨーロッパ社会の変貌とどのように比較しうるのだろうか。この問いに答えるべく、共同研究を立ち上げる。

研究成果

「シビル・ソサエティ」という多義的な用語は、80年代に東欧で、盛んに用いたことから、民主化の象徴的な用語としても用いられ、特に、NPO、NGO活動が盛んな社会を指して言われることが多くなった。NGO、NPOのことをシビル・ソサエティ・オーガニゼーション(市民社会組織)と呼ぶこととも呼応する。日本では、阪神淡路大震災以降、NPO活動やボランティア活動に対してこの用語があてられることもある。本研究プロジェクトは、NPOやNGOを中心に市民の社会参加に焦点を当て研究を行ったものである。本研究プロジェクトにおいては、文科系の一般的に「共同研究」と呼ばれる手法を大胆に変革する方法に積極的に挑戦した。

第一に、すべての研究会を「英語」で実施したことである。日本語しか話せないゲストスピーカーについては、メンバーが逐語訳を施し、実施した。これは研究代表者が「言政学手法」(linguapolitical method)と呼ぶ意図的な手法で、その言政学に従えば、<言政学的言語選択として「取引言語」に英語を選定した>ということになる。民博では、外国人研究者を招へいしているが、その多くは、日本語は話せないが英語が話せるという現状がある。この手法を採用することで、日本語のできない外国人研究者を共同研究会の主要メンバーとして引き入れることが可能となった。

第二に、研究の報告・資料を、その都度英語でWEB上に公開し、海外在住者など参加できない研究者もインターネット上で意見の交換を行なえるような環境を整えた。

その結果、世界的出版社のCivil Society Studiesの一冊として出版することが決定している。

詳しい研究内容はhttp://www.r.minpaku.ac.jp/deguchi/rp.htmlを参照して下さい。

2008年度

研究成果取りまとめのため延長(1年間)
【館内研究員】 菊澤律子、佐々木利和、Henk Vinken(外国人研究員)
【館外研究員】 今田忠、小川玲子、川崎賢一、黒川千万喜、John David Bockmann、John Maher、西村祐子、野崎隆一、Bruce White、松原永季、水上徹男、八木祐厘、李妍炎、Reid Lawrence Andrew
研究会
2008年9月14日(日)10:00~17:00(国立民族学博物館 第3演習室)
Meeting for Publication
2008年12月14日(日)10:00~17:00(国立民族学博物館 第1セミナー室)
Meeting for Publication
2009年2月11日(水)10:00~17:00(国立民族学博物館 第4演習室)
Meeting for Publication
研究成果

今年度は、研究成果公表についての会合が3回分だけ認められていた。本研究プロジェクトにおいては、大学共同利用機関としての共同研究のあり方を意識し、従来の民博の共同研究の手法を大胆に変革する方法に積極的に挑戦したものである。

すべての研究会を英語で実施し、研究の報告・資料を、その都度英語でWEB上に公開し、海外在住者など参加できない研究者もメーリングリスト上で意見を表明することができた。

その結果、研究成果報告の公表について、世界的な出版社と出版について交渉。同社の国際編集委員会のレビューが届き、現在そのレビューに従って各章を修正・加筆中である。したがって、今年度の共同研究会は、書籍出版に関する会合を出版社と連携を取りながら予定通り3回実施した。

2007年度

【館内研究員】 菊澤律子、DHAKAL, Tek Nath(外国人研究員)、DHAKAL, Govind Prasad(外国人研究員)
【館外研究員】 今田忠、小川玲子、川崎賢一、黒川千万喜、John David Bockmann、John Maher、David Slater、西村祐子、野崎隆一、Henk Vinken、Bruce White、松原永季、水上徹男、八木祐厘、大和滋、米屋尚子、李妍炎、Reid Lawrence Andrew
研究会
2007年6月30日(土)15:30~18:00(国立民族学博物館 第4セミナー室)
2007年7月1日(日)10:30~17:00(国立民族学博物館 第4セミナー室)
Yuko Nishimura「Civic Movement as a Lifestyle Choice?」
2007年8月28日(火)14:00~17:00(アイヌ民族博物館・伊達市立噴火湾文化研究所)
2007年8月29日(水)11:00~15:00(アイヌ民族博物館・伊達市立噴火湾文化研究所)
博物館学芸員「アイヌ文化伝承の現状」
地元ウタリ協会の人たち「有珠アイヌの現状」
2007年11月23日(金)11:00~16:00(国立民族学博物館 第3演習室)
Global Civil Society on the Move? How Japanese Popular Culture and the Non-Profit Sector are Challenging Established Zones of Power and Representation
西村祐子"Reconstruction of Minority Identities in 21st century Japan"
小川玲子"Representation of minority identities in Japan: Globalization and Korean popular culture"
Bruce White""Be your own Vessel": Japanese Reggae Music, Youth-led Social Change, and New Dynamics of Engagement in Global Civil Society"
2008年1月18日(金)10:00~16:00(駒沢大学深沢校舎日本館菖蒲の間 隣会議室)
'Minorities in Japan:Deaf Community and Ainu 'rebels' in Japan' ジョンマヘール、ブルースホワイト、その他ゲストスピーカーあり
2008年3月8日(土)10:00~16:00(国立民族学博物館 第3演習室)
2008年3月9日(日)10:00~16:00(国立民族学博物館 第3演習室)
Summing up for Publication

2006年度

WEB上 http://www.r.minpaku.ac.jp/deguchi/rp.html で、研究会を世界に発信していく等の新しい試みを採用しながら、国内共同研究にもかかわらず、国際的な連携を視野に置く。研究内容としては、グローバリズムと若者文化の変容を「市民団体」(NPOなど)を対象に研究していく。初年度は、(1)ポストモダン社会、グローバリズム、グローカリズム、ニューミドルクラス、コミュニティオーガナイザー、リンガポリティクスといった概念を日本、アジア、欧米社会を比較しつつ整理。自己利益を肯定しつつ出現する新たな利他性とはなにかを考察する。(2)また、グラムシがはじめて用いた概念で、インド研究において、抑圧されたマイノリティグループを指し示す「サバルタン」概念は、近年では、インド社会以外でも、周辺に生きる人々や下層民の意味で、使用されるようになってきているが、インド研究(西村祐子駒澤大学教授)の成果を取り入れて、「サバルタンと日本」として、かつての日雇い労働者等の「ドヤ」から高齢者とホームレス、外国人労働者へのあらたな社会福祉と医療サービスの提供を迫られる自治体とそれをささえる市民団体はどのような価値観をつくりあげつつあるかを検討する。(3)さらに、インターネットの出現による若者文化へのインパクトはどのようにとらえられるか。消費という行動に貪欲な若者は市民参加という手法をも消費的にとらえるのだろうか。そしてそれは従来とは異なった市民参加の手法をあみだしつつあるのかを検討する。

本年度は5回の研究会を予定し、国際連携を潤滑に図るために、研究会は英語で全て行う。研究会の内容は全てハーバード大学に送り、ハーバード大学チームの今後の日本のフィールドワークの参考に資する。

【館内研究員】 菊澤律子、DHAKAL, Tek Nath(外国人研究員)、DHAKAL, Govind Prasad(外国人研究員)
【館外研究員】 今田忠、小川玲子、川崎賢一、黒川千万喜、John David Bockmann、John Maher、David Slater、西村祐子、野崎隆一、Henk Vinken、Bruce White、松原永季、水上徹男、八木祐厘、大和滋、米屋尚子、李妍炎、Reid Lawrence Andrew
研究会
2006年10月7日(土)13:00~ / 8日(日)10:00~(第4セミナー室)
公開共同研究会
西村祐子・出口正之「Introduction and Fundamental Concepts」
2006年11月18日(土)13:00~ /19日(日)10:30~(第4セミナー室) 公開共同研究会 Problems Faced by Community Leaders
2006年12月25日(月)12:00~ / 26日(火)9:00~(福岡市中央区御所ヶ谷95-1 チャペルサイドアパート 48 J-sense内)
公開共同研究会
Hiroo Maruya, Reiko Ogawa, Tek Nath Dhakal, Govind Dhakal "Asia and Japan from the Fukuoka NPO's point of view"
2007年1月27日(土)13:00~ / 28日(日)10:00~(駒澤大学)
公開共同研究会
Bruce White, Kenichi Kawasaki, Toru Mizukami "Youth Culture and Civic Engagement"
2007年2月17日(土)13:30~ / 18日(日)10:30~(第7セミナー室)
公開共同研究会
Cases of Nepal and Ainu "Govind Dhakal, Tek Nath Dhakal, Toshikazu Sasaki"