世界の諸言語における態(voice)の類型論的研究
目的
本プロジェクトでは、諸言語に見られる態(voice)のなかで、これまで研究対象となりにくかった構文に焦点をあてて通言語学的な視点から研究をすすめることで、言語の類型論的研究に新しい観点を確立することを目的とする。
態の研究においては、ヨーロッパ言語に見られる「受動態」等に関するものが一般的である。しかしオーストロネシア諸語、マヤ諸語、バントゥ諸語などにおいて報告のある「適用態」については、系統の異なる言語間での比較がこれまでなされてこなかった。本プロジェクトでは、「適用態」の存在が報告されている言語、また類似の現象が見られる言語の専門家が集まり具体例を検討することで、「適用態」の定義そのものの見直し、一般的性格の記述、態の研究全体のおける位置づけを行う。また、その成果を人間の認知活動や、諸言語の歴史的変化のメカニズムといった、よりひろい文脈の中で検討することを目的とする。
研究成果
適用態構文及び関連する構文の形態統語的特徴を、オーストロネシア諸語(スンバワ語、バンティック語、セデック語)について、整理・提示してもらい、適用態及び適用態構文を含んだ広義のヴォイス構文の類型論的な特徴の広がりを概観することができた。具体的には、スンバワ語の持つ共有する「インドネシア・タイプ」のヴォイス体系の中で、適用態構文と共に機能している行為者ヴォイス、受動者ヴォイス、包合構文や主題構文の相互作用、バンティック語における、具格名詞又は場所名詞の取り立てを伴う適用態構文、台湾原住民諸語の一つであるセデック語の3つのヴォイス構文(動作主ヴォイス、目標ヴォイス、運搬ヴォイス)を概観することができた。さらに、チュクチ語で大きな役割を果たす使役構文について、アイヌ諸語で適用態構文が一部を占める複他動詞構文について報告があった。本年度の研究では、適用態を孤立したヴォイスとして捉えるのではなく、広義のヴォイス構文との相互作用を考察する重要性が示唆された。
2008年度
本年度も、適用態構文の具体例及びその形態統語的特徴、談話-語用論的特徴を各言語の研究者に整理・提示してもらい、類型論的特徴をまとめるという昨年度の研究計画を続行する。具体的には、(1)適用態構文に対応する非・適用態構文が存在するか否か、存在する場合は、適用態構文を用いる動機づけは何か、(2)適用態構文の二つの目的語の形態的標識の有無(例:格標識/一致標識を受けるか否か)、(3)二つの目的語の統語的な振る舞いに相違点があるか否か、(4)適用態構文で目的語に取り立てられた斜格項の談話-語用論的特徴(例:トピック性の高低)の四点に着目する。それに加えて、本年度は、適用態構文と関連する他の文法的構文の関係にも考察を加えていく。
【館内研究員】 | 菊澤律子、長野泰彦、八杉佳穂 |
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【館外研究員】 | 呉人徳司、児島康宏、小森淳子、塩原朝子、白井聡子、高橋慶治、千葉庄寿、中山俊秀、Bugaeva Anna、渡辺己 |
研究会
- 2009年1月24日(土)13:00~18:00(国立民族学博物館 第1演習室)
- スンバワ語の態(塩原朝子)
- バンティック語のapplicative construction とapplicative verbs(内海敦子)
- セデック語のGoal VoiceとConveyance Voice(月田尚美)
- 2009年2月7日(土)13:00~17:20(国立民族学博物館 第1演習室)
- チュクチ語の態(呉人徳司)
- Ditransitive construction in Ainu(Anna Bugaeva)
-
2009年3月5日(木)9:00~17:00(国立民族学博物館 第4セミナー室)
2009年3月6日(金)9:00~18:30(国立民族学博物館 第4セミナー室) - 国際シンポジウム"Methodologies in Determining Morphosyntactic Change"
- 討論に関する打ち合わせ(シンポジウム前)
- 総括及びプロジェクト成果刊行物に関する打ち合わせ(シンポジウム終了後)
研究成果
適用態構文の具体例及びその形態統語的特徴を、オーストロネシア諸語、バントゥ諸語、セイリッシュ諸語、グルジア語、ヒマラヤ諸語、チベット=ビルマ諸語、マヤ諸語、アイヌ語の研究者に整理・提示してもらい、適用態構文の類型論的特徴の広がりを概観することができた。具体的には、適用態構文に対応する非適用態構文が存在するか否か、存在する場合は、適用態構文を用いる動機づけは何か、適用態構文の二つの目的語の形態的標識の有無(例:格標識/一致標識を受けるか否か)、二つの目的語の統語的な振舞いに相違点があるか否か、等に着目してまとめることができた。異なる語族に属している言語の研究者に発表をしてもらうことで、言語間に共通する問題点を整理すると同時に、研究代表者が提案した適用態構文のプロトタイプ的な特徴付けの妥当性を確認することができた。
また、マヤ諸語の研究者から、従来の適用態構文の理論的な分析の大半が、従属部マーキング言語を暗黙の前提とする立場からなされたものであることが指摘された。主要部マーキング言語を前提とする立場から適用態構文を考察すると、従来の理論的分析を再検討せざるを得ないことが判明した。
最後に、適用態及び適用態構文を含んだ広義のヴォイス構文の類型論的な特徴の広がりを、特にオーストロネシア諸語、アイヌ語、チュクチ諸語について概観することができた。具体的には、適用態構文と(部分的に)競合関係にある多種多様なヴォイス構文(例:行為者ヴォイス構文、受動者ヴォイス構文、包合構文、使役構文、主題構文)の機能が明らかにされた。この結果、適用態を孤立した、主に目的語に関わるヴォイス構文として捉えるのではなく、競合関係にあるその他のヴォイス構文との相互作用を、伝統的な形態統語的な視点のみならず、談話分析の視点からも詳細に考察する必要性が示唆された。
2007年度
本年度は、適用態構文の具体例及びその形態統語的特徴、談話-語用論的特徴を各言語の研究者に整理・提示してもらい、類型論的特徴をまとめるという昨年度の研究計画を続行する。具体的には、(1)適用態構文に対応する非・適用態構文が存在するか否か、存在する場合は、適用態構文を用いる動機づけは何か、(2)適用態構文の二つの目的語の形態的標識の有無(例:格標識/一致標識を受けるか否か)、(3)二つの目的語の統語的な振る舞いに相違点があるか否か、(4)適用態構文で目的語に取り立てられた斜格項の談話-語用論的特徴(例:トピック性の高低)の四点に着目する。それに加えて、本年度は、適用接辞の語彙的ソース、適用態構文の通時的変化等の適用態構文の通時的な側面にも考察を加えていく。
【館内研究員】 | 菊澤律子、長野泰彦、八杉佳穂 |
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【館外研究員】 | 呉人徳司、児島康宏、小森淳子、塩原朝子、白井聡子、高橋慶治、千葉庄寿、中山俊秀、Bugaeva Anna、渡辺己 |
研究会
- 2007年5月19日(土)13:00~18:00(国立民族学博物館 第1演習室)
- 白井聡子、高橋慶治、塩原朝子「チァン諸語の非主語の人称標示、キナウル語の動詞接辞、バリ語の適用態」
- 2007年9月29日(土)13:00~18:00(国立民族学博物館 第1演習室)
- 千葉庄寿「項構造の変化を伴わないヴォイス:フィンランド語の事例」
- 八杉佳穂「中米諸語のapplicativeについて」
- 2008年2月9日(土)13:00~18:00(国立民族学博物館 第1演習室)
- 上ソルブ語における文頭要素と主語、クスコ・ケチュア語の目的語と人称
- WALSを使った言語の多様性を視覚化する試み
- 笹原健、蝦名大助、野瀬昌彦
研究成果
適用態構文の具体例及びその形態統語的特徴を、ヒマラヤ諸語(特に、キナウル語)、チベット=ビルマ諸語(特に、チァン諸語)、オーストロネシア諸語(特に、バリ語)及びマヤ諸語の研究者に整理・提示してもらい、適用態構文の類型論的特徴の広がりを検証することができた。また、マヤ諸語の研究者からは、マヤ諸語の適用態構文の諸相のみならず、「適用態構文」の名で呼ばれてきた構文の分析が、従属部マーキング言語を暗黙の前提とする立場からなされたものであり、主要部マーキング言語を前提として考えると、従来の理論的分析を再検討せざるを得ないことがわかった。また、今年度は、適用態構文に関連して、ケチュア語、ソルブ語、フィンランド語の研究者に目的語に関連する諸現象を報告してもらった。こうした報告に基づいて、適用態構文の特徴付けを再検討することが可能になり、次年度に引き続き予定している通言語的な検証作業の基盤とすることができた。
2006年度
1年目の研究会では、適用態構文の具体例及びその形態統語的特徴、談話-語用論的特徴を各言語の研究者に整理・提示してもらい、類型論的特徴をまとめる。具体的には、(1)適用態構文に対応する非・適用態構文が存在するか否か、存在する場合は、適用態構文を用いる動機づけはなにか、(2)適用態構文の二つの目的語の形態的標識の有無(例:格標識/一致標識を受けるか否か)、(3)二つの目的語の統語的な振る舞いに相違点があるか否か、(4)適用態構文で目的語に取り立てられた斜格項の談話-語用論的特徴(例:トピック性の高低)、の四点に着目する。異なる語族に属する言語の研究者に同じ場で発表をしてもらうことで、言語間に共通する問題点を整理すると同時に、研究者によって異なっている(可能性がある)用語を統一し、2年目以降の通言語的な検証作業の基盤とする。
【館内研究員】 | 菊澤律子、長野泰彦、八杉佳穂 |
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【館外研究員】 | 呉人徳司、児島康宏、小森淳子、塩原朝子、白井聡子、高橋慶治、千葉庄寿、中山俊秀、Bugaeva Anna、渡辺己 |
研究会
- 2006年10月14日(土)13:00~(第1演習室)
- 中村渉「共同研究会の趣旨説明-適用態構文の類型論に向けて」
- 小森淳子「バントゥ諸語の適用態構文について-スワヒリ語とケレウェ語の例を中心に-」
- 渡辺己「スライアモン・セイリッシュ語の適用態について」
- 菊澤律子「ベチミサラカ・マラガシ語における三項他動詞文」
- 2007年3月10日(土)13:00~(第3演習室)
- 児島康宏「グルジア語の間接態(Version)について」
- 中山俊秀「ヌートカ語での「所有者上昇構文」」
- Anna Bugaeva「アイヌ語の適用態構文について」
研究成果
適用態構文の具体例及びその形態統語的特徴を、オーストロネシア諸語、バントゥ諸語、セイリッシュ諸語、グルジア語、そしてアイヌ語の研究者に整理・提示してもらい、適用態構文の類型論的特徴の広がりを概観することができた。具体的には、適用態構文に対応する非適用態構文が存在するか否か、存在する場合は、適用態構文を用いる動機づけは何か、適用態構文の二つの目的語の形態的標識の有無(例:格標識/一致標識を受けるか否か)、(3)二つの目的語の統語的な振舞いに相違点があるか否か、等に着目してまとめることができた。異なる語族に属している言語の研究者に発表をしてもらうことで、言語間に共通する問題点を整理すると同時に、研究代表者が整理・提案した適用態構文のプロトタイプ的な特徴付けの妥当性を確認することができ、二年目以降の通言語的な検証作業の基盤とすることができた。