脱伝統としての開発(2008)
科学研究費補助金による研究プロジェクト|研究成果公開促進費(学術図書)
代表者 丹羽典生
目的・内容
本書は実証的な研究蓄積に極めて乏しく、憶測に基づいて奇妙な運動として表面的な評価しか下されてこなかったフィジーのラミ運動に関する内外初の本格的な総合的研究である。ラミとは、経済開発から取り残されていく先住系フィジー人が、経済発展を志向して様々な商業活動を手がけるだけでなく、フィジー人の「伝統」的慣習を積極的に改変(儀礼慣行の簡素化・廃止、儀礼遂行に関わる支出削減、嗜好品等の浪費の禁止、等々)して、新たな基準を遵守する生活の創造・実現を目的に掲げている協同組合的集団である。フィジーを対象とした民族誌的研究や植民地史研究の蓄積は近年徐々に厚みを増してはいるものの、本書のように歴史研究と民族誌的研究を接合して総合的な立場から試みられた歴史人類学的研究は現時点では殆ど類例を見ない。そこで、本書は、ラミ運動研究という新たな研究領域を拓くと同時に歴史人類学的研究の今後の深化を促すこと、また、その内容から、社会人類学、オセアニア地域研究、太平洋史学はもとより、経済人類学、社会運動論、開発研究、等々、広範な分野において先住民の伝統文化と金井発を巡る問題において、寄与・貢献することを目的としたい。