国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

地域研究におけるメディエーションの実証的研究(2005-2007)

科学研究費補助金による研究プロジェクト|基盤研究(B) 代表者 阿部健一

研究プロジェクト一覧

目的・内容

「地域」の理解を目的の一つに掲げ、地域社会に密着する調査手法をとる地域研究者は、研究の中で当該地域社会の抱える現実的問題群と直面することも多い。そこでは、従来の「知識の社会還元」といった一般的貢献の枠を超え、より地域的・実質的・具体的関わりが期待されることになる。実際、こうした期待に応えるべく主体的・実践的に地域の問題群に関わっている研究者も多い。本研究は、こうした関心と課題を共有する研究者を分担者として、「関わり」のあり方のひとつ「メディエーション」(「媒介」あるいは「あいだをとりもつこと」)に焦点をあてて共同研究を行うこととした。地域研究の地域貢献の潜在性とともに、地域研究そのものの学問的発展の可能性を探るのが目的である。
「メディエーション」という用語は、まだ定着・周知された概念ではない。しかし、アクター(主体)間の利害が輻輳するなか、問題群(たとえば紛争、環境、開発など)の解決の現場では、きわめて重要視されている活動・役割である。恒常的な「対話」の回路のないアクター間を、課題解決の場でとりもつ活動がメディエーションであり、本研究では、対象とするアクターとして「地域社会」を中心に据える。「ガバナンス」(協治)も重要な概念であるが、このガバナンスを実現するための手段が「メディエーション」ということになる。
地域社会の抱える問題は、当該地域にとどまらず、グローバル化・多様化・多層化している。本研究の主たる関心は、地域社会を他者としてもっともよく理解する地域研究者が、地域社会と「外世界」との社会的・経済的・文化的隔たりをどのようにつなぎ、あいだをとりもてるのか、という点にある。

活動内容

◆ 2006年4月より京都大学統合情報センターへ転出

2005年度活動報告

当初計画に沿って、各研究分担者は今年度、それぞれこれまで行ってきた研究の中に、mediation(「媒介する」)活動を位置づける作業を行った。具体的には、アマゾン熱帯林研究の中でde Jongが開発と環境を「とりもつ」活動に着手し、出口は国際NPO学会長の立場からNPOセンター活動の実践経験を知的蓄積として活かす方策を模索し、災害時の緊急・復興支援における研究者・実践者をつなぐことに関しては、林が後方での長期体制作りに関して理論的に、一方山本は現場において実践的に、mediation活動のあり方を検討した。石井は、中東でのフィリピン女性労働者を対象に、移住労働者コミュニティと、送り出し社会および受け入れ社会との関係を探る研究を展開中である。
また事例研究を充実させるため、島上宗子・古川久雄両氏に協力を依頼、それぞれ東南アジアでの森林所有に関する争いの調停の実体、紛争後の復興活動の具体的活動例について調査・報告を受けた。
こうした個々の研究活動とは別に、研究組織として、9月には、フランス政府と愛知県立大学との共催による国際シンポジウム「Mediating for Sustainable Development」を、3月には、メキシコシティで開催された第4回世界水フォーラムにおいて、ユネスコおよび人間文化研究機構共催による分科会「Water and Cultural Diversity: Mediating for Sustainable Development」を、それぞれ企画運営し、「持続的な開発」におけるmediationの重要性を訴えた。どちらも抄録を発行している。