国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

北部カメルーン・フルベ族社会におけるコピー文化と口承文芸(2006-2007)

科学研究費補助金による研究プロジェクト|基盤研究(C) 代表者 江口一久

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究は北部カメルーン・フルベ族社会におけるコピー文化が口承文芸の変貌にどのように寄与したのかをしらべるのを目的とする。そもそも、口承文芸は聞き手の目の前で、直接、語り手、歌い手が演じるものであった。録音・録画などのコピーが可能になったあと、口承文芸は実演・実技からはなれて、コピー媒体にのって、一人歩きするようになる。その結果、コピー文化は口承文芸にさまざまな影響をあたえることになる。本研究は、コピー文化という切り口からフルベ族の口承文芸の歴史と現状を精査する。いうまでもなく、口承文芸は社会のありかたと密接にむすびついている。フルベ族は十九世紀に北部カメルーンを征服して以来、王、大村長、村長、区長、王の重臣、金持ちなどが、社会の実権をもち、1960年の独立後も、北部出身のフルベ族の大統領の庇護のおかげで、その特権を維持していた。これらの支配者や有力者が伝統的な口承文芸の庇護者であった。非フルベ族の少数民族は、イスラム教に改宗し、多数部族であるフルベ族の言語や文化をうけいれ、政治的・経済的に有利な地位につこうと努力してきた。「フルベ化」した人たちは、地域共通語としての、コイネー・フルフルデ語をはなすようになる。そこには、コピー文化にたすけられた、わたしが従来研究してきた伝統的なフルベ族の口承文芸という枠をはみでた、あたらしい口承文芸の誕生がみられるから、あたらしい口承文芸もふくめて研究する必要性をかんじているのである。同時に、わたしの収集してきた膨大な口承文芸に関する資料の歴史的位置付けをおこなう。

活動内容

2007年度活動報告

本研究の目的は北部カメルーン・フルベ族社会におけるコピー文化の出現と口承文芸の変貌との関係をさぐることにある。そもそも、従来、口承文芸は聞き手の目の前で、直接、語り手、歌い手が演じるものであった。ところが、録音・録画などのコピーが可能になったあと、口承文芸は実演・実技からはなれて、コピー媒体にのって、一人歩きするようになる。この口承文芸の一部は、ワンバーベといわれる職業的な芸人たちによってささえられてきた。従来、支配階級、富裕な人たちが、このワンバーベのスポンサーになっていた。ところが、1980年以降、南部出身の大統領が登場し、この従来支配層であった人も、弱体化することになる。そのころから、南部出身者の多くが北部に流入する。この流入者は、都市を中心にはなされている地域共通語としてのコイネー・フルフルデ語をはなすようになる。また、北部の都市を中心とし、フルベ族の若者たちは、日常生活のありとあらゆる場面で、非フルベ族の人たちと交渉をもつことになり、自分たちも、いわば伝統的なフルフルデ語をはなさなくなり、コイネー・フルフルデ語をはなすようになってくる。こうして、フルベ族の若者層や「フルベ化」した人たちや、外部からの流入者は、コイネー・フルフルデ語がつかわれるカセットやCDに録音された口承文芸の愛好者となる。今回の調査でわかったことは、世の中が変わっても、大衆はコピー文化によって、口承文芸をたのしむことになる。そのおかげで、吟遊詩人や牧人によってうたわれる実演による口承文芸は衰退した。けれども、より音楽性のたかいコピー文化による口承文芸は、今日でも健在である。家庭における昔話などの口承文芸は衰退しつつあるとはいえ、以前とかわりはない。一方、市場には、北部カメルーンのあらゆるところからもたらされる新旧、地域のいりまじったより複雑な録音資料が流通しており、今後の研究がまたれる。

2006年度活動報告

本研究の目的は北部カメルーン・フルベ族社会におけるコピー文化の出現と口承文芸の変貌との関係をさぐることにある。そもそも、従来、口承文芸は聞き手の目の前で、直接、語り手、歌い手が演じるものであった。ところが、録音・録画などのコピーが可能になったあと、口承文芸は実演・実技からはなれて、コピー媒体にのって、一人歩きするようになる。フルベ族のあいだには、民族的なフルフルデ語をつかった伝統的な口承文芸がある。この口承文芸の一部は、ワンバーベといわれる職業的な芸人たちによってささえられてきた。従来、支配階級、富裕な人たちが、このワンバーベのスポンサーになっていた。ところが、1980年以降、南部出身の大統領が登場し、この従来支配層であった人も、弱体化することになる。また、このころから、南部出身者の多くが北部カメルーンに流入する。この流入者は、都市を中心にはなされている地域共通語としてのフルフルデ語(コイネー・フルフルデ語)をはなすようになる。また、北部の都市を中心とし、フルベ族の若者たちは、日常生活のありとあらゆる場面で、非フルベ族の人たちと交渉をもつことになり、自分たちも、いわば正統的、伝統的なフルフルデ語をはなさなくなり、コイネー・フルフルデ語をはなすようになってくる。こうして、フルベ族の若者層や「フルベ化」した人たちや、外部からの流入者は、コイネー・フルフルデ語がつかわれるカセットやCDに録音された口承文芸の愛好者となる。今回の調査でわかったことは、世の中が変わっても、大衆はコピー文化によって、口承文芸をたのしむことになる。そのおかげで、吟遊詩人や牧人によってうたわれる実演による口承文芸は衰退した。けれども、より音楽性のたかいコピー文化による口承文芸は、今日でも健在である。家庭における昔話などの口承文芸は衰退しつつあるとはいえ、以前とかわりはない。