国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

アラブ世界の都市部中流層文化とアラビアンナイト―エジプト系伝承形成の謎を解く(2012-2016)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(A) 代表者 西尾哲夫

研究プロジェクト一覧

目的・内容

中世の中東で成立し、世界文学となったアラビアンナイト(千一夜物語)は、シリアで私家本として伝承されていたが、近世エジプトにおける都市部中流層の台頭にともなう中間アラビア語の誕生がきっかけとなって、現在のような形になった。
本研究では、新発見の写本も含めて従来は未研究だったエジプト系全写本の分析によって、その編集過程と言語的特性を明らかにするとともに、相反する価値観が併存してきた理由ならびに異文化交流による成立過程を解明する。また中間アラビア語の発生と伝播を通じて顕著にみられる、アラブ世界に特徴的な言語社会的位相を分析し、フェイスブック革命に代表される社会変動メカニズムを解明する。

活動内容

2016年度活動報告

本研究ではアラビアンナイト形成に関する以下の研究項目を実施した。 1 文学伝統の地域民衆化で形成された写本群の分類と系統の分析として、キリスト教徒によって書かれたシンドバード航海記の新発見写本と、同じく百一夜物語の新発見写本を分析し、刊行にむけた校訂作業を引き続きおこなった。 2 地域民衆の口語が文字化された中間アラビア語の歴史的実態と民衆文学変容の分析として、(1)「カルカッタ第二版」の計量文献学的分析と民衆文化語彙索引の作成、(2)国民共通語としての中間アラビア語使用実態の分析、(3)国民共通文化形成における民衆文化の現代的変容の分析とそのための海外調査を実施した。とくにアラブ世界との比較分析のために、イギリス、フランス、ドイツ等の移民社会の民衆文化の状況に関する調査をおこなった。 3 アラビアンナイトをめぐるヨーロッパ的文学伝統の物語伝承への影響の比較分析として、(1)マルドリュス遺贈コレクションの調査とマルドリュス版形成過程の分析とそのための海外調査、(2)アラブ世界での再受容と文学伝統の関係の分析、(3)日本での受容と文学伝統の関係の分析を実施した。とくにフランスにてマルドリュス遺贈コレクションのカタログ刊行に向けた編集作業をおこなった。 研究成果をめぐる研究者との共有化の推進とその国際発信に関して特筆すべきこととして、平成29年3月にフランス社会科学高等研究院(EHESS)の研究グループと共同で中東地域の民衆文化をテーマに国際シンポジウムをパリで開催したこと、平成30年2月にパリ日本文化会館との共催で、ヨーロッパを導管とした日本と中東との文化交流をテーマに国際シンポジウムを開催したこと、さらに平成30年3月にアラブ古典文学における個人と社会の関係性をテーマに国際シンポジウムを国立民族学博物館で開催したことがあげられる。

2015年度活動報告

本研究ではアラビアンナイト形成に関する以下の研究項目を実施した。
1.文学伝統の地域民衆化で形成された写本群の分類と系統の分析として、前年度の調査で新たに発見した、キリスト教徒によって書かれたシンドバード写本と、同じく失われたものを再発見した百一夜物語写本を分析し、刊行にむけた校訂作業をおこなった。またガラン訳以前に書かれたと推定される、いわゆる「黒檀の馬」物語の独立した写本を発見したが、これの分析によって百一夜物語とアラビアンナイト(千一夜物語)のミッシングリンクを解明するための知見を得ることができた。
2.地域民衆の口語が文字化された中間アラビア語の歴史的実態と民衆文学変容の分析として、(1)「カルカッタ第二版」の計量文献学的分析と民衆文化語彙索引の作成、(2)国民共通語としての中間アラビア語使用実態の分析、(3)国民共通文化形成における民衆文化の現代的変容の分析とそのための海外調査を実施した。とくにアラブ世界との比較分析のために、イランの民衆文化ならびにカナダ移民社会の民衆文化の状況に関する調査をおこなった。
3.アラビアンナイトをめぐるヨーロッパ的文学伝統の物語伝承への影響の比較分析として、(1)マルドリュス遺贈コレクションの調査とマルドリュス版形成過程の分析とそのための海外調査、(2)アラブ世界での再受容と文学伝統の関係の分析、(3)日本での受容と文学伝統の関係の分析を実施した。とくにフランスにてマルドリュス遺贈コレクションのカタログ刊行に向けた編集作業をおこなった。
研究成果をめぐる研究者との共有化の推進とその国際発信に関して特筆すべきこととして、カナダ及び中国の研究者と研究交流をおこなったこと、中東地域における民衆文化の研究者を英国等から招へいして国際ワークショップを開催したことがあげられる。

2014年度活動報告

本研究ではアラビアンナイト形成に関する以下の研究項目を実施した。
1.文学伝統の地域民衆化で形成された写本群の分類と系統の分析として、とくにシンドバード写本と百一夜物語写本の分析を継続するとともに、前者についてはキリスト教徒による中世写本を新たに発見し、後者についても失われたと従来考えられていた写本を再発見し、デジタル画像化するとともに校訂作業をおこなうこととした。また従来の写本についてもガラン訳以前の写本と推定される事実 を発見し、本文形成に関する新たな知見を得ることができた。
2.地域民衆の口語が文字化された中間アラビア語の歴史的実態と民衆文学変容の分析として、(1)「カルカッタ第二版」の計量文献学的分析と民衆文化語彙索引の作成、(2)国民共通語としての中間アラビア語使用実態の分析とそのための海外調査、(3)国民共通文化形成における民衆文化の現代的変容の分析とそのための海外調査を実施した。とくにモロッコ、イスラエルで現地調査をおこなった。なお予定していたエジプトについては政情不安定のため調査を延期した。
3.アラビアンナイトをめぐるヨーロッパ的文学伝統の物語伝承への影響の比較分析として、(1)マルドリュス遺贈コレクションの調査とマルドリュス版形成過程の分析とそのための海外調査、(2)アラブ世界での再受容と文学伝統の関係の分析とそのための海外調査、(3)日本での受容と文学伝統の関係の分析を実施した。とくにフランスにてマルドリュス遺贈コレクションのカタログ編集作業を集中的におこなった。
国際会議等の発表による研究成果の国際発信に関して特筆すべきこととして、ワシントンで開催されたアメリカ人類学会(AAA)にて、相島葉月が国際的に著名な研究者と共同でセッションを持ち発表をおこなった。

2013年度活動報告

本研究ではアラビアンナイト形成に関する以下の研究項目を実施した。
1.文学伝統の地域民衆化で形成された写本群の分類と系統の分析として、写本データベース化の一環として、とくにシンドバード写本と百一夜物語写本の分析を継続するとともに、主としてドイツの各図書館所蔵の非標準的なアラビアンナイト写本(断片)を積極的に収集した。
2.地域民衆の口語が文字化された中間アラビア語の歴史的実態と民衆文学変容の分析として、(1)「カルカッタ第二版」の計量文献学的分析と民衆文化語彙索引の作成、(2)国民共通語としての中間アラビア語使用実態の分析とそのための海外調査、(3)国民共通文化形成における民衆文化の現代的変容の分析とそのための海外調査を実施した。とくにトルコ、モロッコ、イスラエルにて現地調査をおこなった。なお当初予定していたエジプトやシリアについては政情不安のため調査を次年度以降に延期した。
3.アラビアンナイトをめぐるヨーロッパ的文学伝統の物語伝承への影響の比較分析として、(1)マルドリュス遺贈コレクションの調査とマルドリュス版形成過程の分析とそのための調査、(2)アラブ世界での再受容と文学伝統の関係の分析とそのための海外調査、(3)日本での受容と文学伝統の関係の分析を実施した。とくにフランスにてマルドリュス遺贈コレクション関連の調査を集中的に実施した。
国際会議等の発表による成果として特筆すべきこととして、フランスで開催された世界比較文学会にて青柳悦子が参加し発表をおこなった。

2012年度活動報告

本研究ではアラビアンナイト形成に関する以下の研究項目を実施した。
1.文学伝統の地域民衆化で形成された写本群の分類と系統の分析として、写本データベース化の一環として、特にシンドバード写本 と百一夜物語写本を分析した。
2.地域民衆の口語が文字化された中間アラビア語の歴史的実態と民衆文学変容の分析として、(1)「カルカッタ第二版」の計量文献学的分析と民衆文化語彙索引の作成、(2)国民共通語としての中間アラビア語使用実態の分析とそのための海外調査、(3)国民共通文化形成における民衆文化の現代的変容の分析とそのための海外調査を実施した。
3.アラビアンナイトをめぐるヨーロッパ的文学伝統の物語伝承への影響の比較分析として、(1)マルドリュス遺贈コレクションの調査とマルドリュス版形成過程の分析とそのための調査、(2)アラブ世界での再受容と文学伝統の関係の分析とそのための海外調査、(3)日本での受容と文学伝統の関係の分析を実施した。
なお当初の研究計画では、エジプトと北アフリカ諸国にて現地フィールド調査を行い、さらにチュニジアより海外研究協力者を招聘し、研究会を開催する予定であったが、政情不安等の理由により同計画の実施が困難となった。そのため計画の繰り越しを申請し、25年6月にチュニジアよりアラビアンナイト写本研究の第一人者であるタルシューナ教授(国立マンヌーバ大学)を招へいし、研究会を開催した。ワークショップにあわせて、一般向けの公開講演会「アラビアンナイトと北アフリカの物語」を開催した。また、北アフリカ(モロッコ)の図書館等にて写本調査を実施した。