国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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2007年5月29日(火) ~5月29日(火)
《機関研究 成果公開》民博・FMSH共催国際シンポジウム「思考の道具―『テクスト』とその社会的機能の比較研究」

  • 開催日時:2007年5月29日(火)9:00~17:00
  • 開催場所:フランス、パリ、人間科学センター(FMSH)本部、214号室
  • 言語:フランス語、日本語、英語
 

趣旨

本シンポジウムは、機関研究「テクスト学の構築」の研究チームが平成18年4月以来、民博とフランスの人間科学センター(FMSH)との学術協定に基づいて、フランスの研究者と共同で準備してきたものである。その目的は、従来さまざまな学問分野で個々別々に行われてきた「テクスト」研究を、「思考の道具」の人類史という観点から統合するための可能性を切り開くことである。シンポジウムでは、文化人類学・民族学、歴史学、書物史・読書史、科学史、文献学、文学、図書館学、社会開発などを専門とする日本とフランスの研究者10名が集まり、認知的道具としての「テクスト」の社会的機能を、普遍性と特殊性の両方を考慮しながら、技術史的・社会史的・文化史的観点から多元的に考察する。

第1セッションでは、本シンポジウムの企画者ふたりが、人間の情報処理活動を支援する認知的道具として「テクスト」を定義づけ、その道具と人類の生存との関係を巨視的な視点から描き出す。第2セッションでは、人間が発達させてきた多様なグラフィック表現の一例として近代西欧の印刷物に焦点を当て、それが当時の知的生産活動において果たした役割を考察する。第3セッションでは、社会生活のなかに埋め込まれた実用的なテクストを取り上げ、その用法の分析を通じて、テクストが社会を成型し、また社会がテクストを成型する相互的プロセスを究明する。第4セッションでは、植民地状況下、テクストにまつわる異なる文化的伝統が遭遇し、互いに交渉を繰り広げ、そこから新たな実践が生まれるダイナミックな過程を分析する。総合討論では、テクストと人類の生存の問題に立ち返り、人間は生きるためにテクストを必要とするのか、もしそうならいかなる意味においてなのか、等の問題について討論する。

 

報告者(合計10名)

ロジェ・シャルティエ 社会科学高等研究学院/コレージュ・ド・フランス
ジャン=マルク・シャトラン  フランス国立図書館
セルジュ・グリュザンスキ  国立科学センター/社会科学高等研究学院
原田範行  杏林大学
樫永真佐夫 国立民族学博物館
クリスチャン・ミュラー  国立科学センター(文献史学研究所)
中村雄祐  国立民族学博物館(特別客員教員)/東京大学大学院
カピル・ラージュ  社会科学高等研究学院(アレクサンドル・コイレ研究所)
齋藤晃 国立民族学博物館
山中由里子 国立民族学博物館

 

プログラム

9:00~9:20 開会の挨拶 アラン・ディリバルヌ、田村克己
9:20~10:00 第1セッション:問題提起
「思考の道具、生存の道具」齋藤晃、中村雄祐
10:00~11:10 第2セッション:空間化の技法
「知の表面:17世紀の図表出版」ジャン=マルク・シャトラン
「書物の形態と言語:18世紀イギリスと近代日本における読み書きとアンソロジー編纂」原田範行
11:10~11:30 休憩
11:30~13:00 第3セッション:テクストの実際的用法
「イスラム法における口頭証言のための文書利用:14世紀末エルサレムのマムルーク朝法廷の事例」クリスチャン・ミュラー
「知の伝達様式:アラブとペルシャの万国史におけるアレクサンダー大王」山中由里子
「ベトナムの黒タイ人の葬礼における年代記クアム・ト・ムアンの用法」樫永真佐夫
13:00~14:30 昼食
14:30~15:40 第4セッション:テクスト的諸伝統の邂逅
「16世紀のバベル:言語の世界化とグローバル化」セルジュ・グリュザンスキ
「18・19世紀の南アジアとイギリスにおける地図とその用法」カピル・ラージュ
15:40~16:50 総合討論 コメンテーター:ロジェ・シャルティエ
16:50~17:00 閉会の挨拶 ジャンヌ・コビー

成果報告

本シンポジウムは、機関研究「テクスト学の構築」の研究成果公開の一環であり、実行委員長の齋藤が平成18年4月にMSHに招聘されて以来、フランスの研究者との意見交換を通じて準備してきたものである。日本側の報告者とフランス側の報告者が直接顔を合わせ、議論するのは今回が初めてであり、それゆえ本シンポジウムの最大の成果は、両者が共通の問題意識を持つことを互いに確認し、将来に向けて協働していくための土台を構築できたことである、といえる。

第1セッションの「問題提起」では、本シンポジウムの企画者である齋藤と中村が、人間の情報処理活動を支援する認知的道具として「テクスト」を定義づけ、その道具と人類の生存との関係を巨視的な視点から描き出した。第2セッションでは、人間が発達させてきた多様なグラフィック表現の一例として近代西欧の印刷物に焦点を当て、それが当時の知的生産活動において果たした役割を考察した。第3セッションでは、社会生活のなかに埋め込まれた実用的なテクストを取り上げ、その用法の分析を通じて、テクストが社会を成型し、また社会がテクストを成型する相互的プロセスを究明した。第4セッションでは、植民地状況下、テクストにまつわる異なる文化的伝統が遭遇し、互いに交渉を繰り広げ、そこから新たな実践が生まれるダイナミックな過程を分析した。

総合コメントでは、近代西欧書物史・読書史の権威であるロジェ・シャルティエ氏が、本シンポジウムの意義について、「テクスト」と音声言語、文学と印刷文化、「テクスト」のグローバル化の3点に焦点を絞り、総括を行った。

報告者全員にあらかじめペーパーを配っていたおかげで、議論はきわめて活発だった。シンポジウムのあいだはもちろん、終了後のカクテル・パーティーや夕食時にいたるまで、意見交換がやむことはなかった。

聴衆に関しては、40名ほど収容できる会場が常時、ほぼ満席であり、午前ないし午後のみ出席した方々も含めて、60名ほどが来場した。大学院生と若手研究者が聴衆の大半を占めていた。

●関連する刊行物
シンポジウムの報告を学術論文として書き直し、フランス語の論文集として刊行することを計画している。