研究会・シンポジウム・学会などのお知らせ
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2005年3月5日(土)
~3月6日(日)
科研:国際シンポジウム「北東アジアにおける森林資源の商業的利用と先住民族」 -
[文部科学省科学研究費補助金特定領域]
生態資源の選択的利用と象徴化の過程(2002-2006) /計画研究班「生態資源の選択的利用と象徴化の過程」
- 日時:2005年3月5日(土)、6日(日)
- 場所:国立民族学博物館 第6セミナー室
シンポジウムの目的
現在進められている天然林伐採に象徴される、商業的な森林資源開発と、先住諸民族の社会文化保全復興運動との葛藤の過程を、フィールドデータに基づいて明らかにし、両者の両立、あるいは棲み分け方法を模索する。
ソ連崩壊後、ロシア極東の森林資源は、ロシア経済の浮沈を握る、輸出可能な資源として、急速かつ無秩序に近い開発が進められてきた。現在世界の森林保護運動の機運の高まりとともに、極東ロシアの森林開発にも、国内法や国際条約によるブレーキがかけられるようになったが、それでも違法伐採などによる資源の過度の劣化の危険はまだ残されている。さらに、極東ロシアの森林地帯を、父祖伝来の生活領域としてきた先住民たちが、伐採対象とされた森林を失うことによって蒙る、経済的、社会的、そして精神的損失については、一部の地域を除いてはほとんど見過ごされてきた。カナダ、フィンランドなどの先住民問題、あるいは先住権問題の先進国に見られるような、先住権に基づく土地権の確立とそれを利用することに対する保障という考え方はロシアではまだ十分に根付いていない。
しかし、先住民の父祖伝来の土地での生活に関わる問題を、法的な権利の問題とするのはいいとしても、その侵害を保障する際に、単に経済的な問題だけを取り上げて、金銭的に解決しようとする姿勢にも、問題は大いにある。さらに、ロシアも含め、北方先住民問題を抱える北米、北欧各国の先住諸民族に対する姿勢には、保護の対象としなければ生存できない弱者、そしてその通底には資本主義的経済体制では生きることができない「未開人」という偏見が、ぬぐおうにもぬぐえない形で染みついている。
本シンポジウムでは、極東ロシアの中でも、天然林伐採と先住民の関係が最も顕著に見られるハバロフスク地方と沿海地方の事例を中心にしてとりあげ、林学、法学、人類学、民族学、民俗学などの立場から事例を報告しあい、先住民の生活領域と商業伐採をいかに両立させていくのかについて考えていく。実行委員
- 佐々木史郎(国立民族学博物館)(委員長)
- 印東道子(計画研究班「生態資源の選択的利用と象徴化の過程」代表者、国立民族学博物館)
- 柿澤宏昭(北海道大学大学院農学研究科)
- 山根正伸(神奈川県自然環境保全センター)
- 田口洋美(東京大学大学院新領域創成科学研究科)
報告予定者(報告順)
- 柿澤宏昭(北海道大学大学院農学研究科)
- 山根正伸(神奈川県自然環境保全センター)
- セルゲイ・ベレズニツキー(ロシア科学アカデミー極東支部歴史学・考古学・民族学研究所)
- 山根正伸(神奈川県自然環境保全センター)
- 田口洋美(東京大学大学院新領域創成科学研究科)
コメンテーター
関良基(地球環境戦略研究機関(IGES)客員研究員)
野口栄一郎(国際環境NGO FoE Japan(Friends of the Earth Japan))
佐々木勝教(国際環境NGO FoE Japan(Friends of the Earth Japan))
平野秀樹(林野庁研究普及課)
伊賀上菜穂(大阪大学大学院言語文化研究科)プログラム
3月5日(土)
10:30~10:40 開会、報告者、コメンテーター紹介 10:40~10:50 計画研究班「生態資源の選択的利用と象徴化の過程」代表者挨拶 印東道子 10:50~11:30 シンポジウムの趣旨説明 佐々木史郎 11:30~12:00 質疑応答 12:00~13:00 昼食 《第1部》 13:00~13:40 報告1「ロシア極東地域における森林資源利用の課題」 山根正伸 13:40~14:20 報告2「ロシアにおける森林政策と管理の現状―ハバロフスク地方を中心に」 柿澤宏昭 14:20~15:10 コメントと討論 15:10~15:30 休憩 《第2部》 15:30~16:20 報告1「報告3「ホル川ウデヘの生活と世界観における森林―2002年のフィールドワークに基づいて」 セルゲイ・ベレズニツキー 16:20~17:10 報告4「ハバロフスク地方ナーナイ地区の北方少数民族が直面する森林問題」 アンドレイ・サマール 17:10~18:00 コメントと討論 18:30~20:00 懇親会 3月6日(日)
《第3部》 10:00~10:40 報告5「ロシア極東沿海地方の先住民族ウデヘの森林資源利用史」 佐々木史郎 10:40~11:20 報告6「近代における野生動物資源の開発とそのインパクト―東北日本のマタギ集落の事例を中心に」 田口洋美 11:20~12:10 コメントと討論 12:10~13:00 総合討論(座長:佐々木)
報告要旨
報告1「ロシア極東地域における森林資源利用の課題」 山根正伸
ロシア極東地域では粗放な商業的森林伐採と頻発する大規模森林火災によって森林資源劣化が急速に進んでいる。その背景にはソ連崩壊後の経済的・社会的混乱そして森林管理機構の弱体化が指摘されている。一方、丸太輸出に偏った同地域の森林資源利用は活況を呈しているが、地元社会への恩恵還元や森林保全への再投資は進んでいない。また、多発する違法伐採は資源劣化の加速要因として国際的な関心を集めている。本報告では、木材輸出国として急浮上した中国との関係に焦点をあてながら、同地域における森林開発、木材利用、木材輸出の現状を紹介し、持続的な森林資源利用に向けた課題を検討する。
報告2「ロシアにおける森林政策と管理の現状―ハバロフスク地方を中心に」 柿澤宏昭
ソ連崩壊後のロシアの森林政策は大きく揺れ動いており、特に2000年のプーチン政権誕生以降、森林・環境行政組織の抜本的な改革もあって混迷を極めている。こうしたなかで、もともと粗放であった森林管理はさらに弱体化しており、違法伐採や森林火災の多発が国際的な注目を集めている。本報告においてはハバロフスク地方を中心としながら、ソ連崩壊以降の森林政策の動向をその背景を含めて分析を行い、さらにプーチン政権下で進められている組織再編と森林法改正作業の現状を検討し、これら法制度・政策・組織が森林管理に与えた影響について考察を行う。
報告3「ホル川ウデヘの生活と世界観における森林―2002年のフィールドワークに基づいて」 セルゲイ・ベレズニツキー
21世紀の今日、ホル川流域のグワシュギ村にすむウデヘの森の問題は、2つの民族狩猟採集共同体の活動が研究対象となるだろう。両者とも様々な商業ベースの活動を行なっているが、その中には、森林伐採、薪や野草の採取、狩猟と漁撈、商業用木材の生産と販売などが含まれる。本報告では2002年に行なった調査をもとに、その実態を明らかにする。
報告4「ハバロフスク地方ナーナイ地区の北方少数民族が直面する森林問題」 アンドレイ・サマール
ナーナイ地区における森林問題は、北方少数民族がすむアニュイ川流域における「アニュイ国立公園」の開設に見て取ることができる。公演開設は、雇用の問題を解決できるという側面も持っている。しかし、同時に、先住民と役人との間で、広大なナーナイ地区の森林の中にガス運搬用の道路を建設するという大きな問題も引き起こしている。
報告5「ロシア極東、沿海地方の先住民族ウデヘの森林資源利用史」 佐々木史郎
ロシア極東沿海地方の先住民族ウデヘは森の民である。ウスリー川の支流や日本海に注ぐ河川での漁撈で食料を得つつも、周囲の森から得られる動植物資源は彼らの生活と文化の基礎であった。しかも、彼らにとって森林資源は自給のための生活財だけでなく、交易活動や商業活動を支える特産物にも転換された。その代表的なものが毛皮と薬草である。しかし、近世においては商業活動といえども、封建的な国家統制下にあり、ウデヘの商業活動もその中で発展し、ある時には繁栄を見せていた。したがって、彼らの商業的森林資源利用方法は、近世東アジアの封建的経済体制の中で形成されてきたものであり、そのための技術、例えば毛皮獣猟の罠類や技術、あるいは植物に関する知識なども、その影響を大きく受けたものであるということができるだろう。本報告では、それが近代の到来とともにどのように変化したのかを検証する。
報告6「近代における野生動物資源の開発とそのインパクト―東北日本のマタギ集落の事例を中心に」 田口洋美
日本国内に於ける森林資源、特に野生動物資源の開発は近世末期から近代を通して隆盛を見た。近世末においてはクマの胆を有するニホンツキノワグマが、近代以降、昭和40年代までは毛皮獣が、野生動物の資源利用を象徴するものとなった。これは日本が近代世界システム(世界市場)の毛皮交易圏に組み込まれていったことに起因するが、軍部による兵員用防寒毛皮の需要の増大に伴ってより顕在化してゆく。本報告では、日本国内における近代の市場経済化の動きが山間集落の生活構造に与えたインパクトを検証することで、現今の森林問題と野生動物の保護管理問題への歴史社会的視点の重要性を確認する。