国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

研究会・シンポジウム・学会などのお知らせ

2006年7月10日(月) ~7月10日(火)
国際シンポジウム「中国乾燥地域における環境保全と持続的発展」

  • 日時:2006年7月10日(月)~7月11日(火)
  • 場所:中国銀行国際会議訓練センター(フフホト)
  • 主催:2008年人類学民族学世界大会委員会、内蒙古自治区科学技術協会、内蒙古自治区経済信息中心、日本国立民族学博物館

中国では環境保全をめざして農耕や牧畜を控えて木や草を植える「退耕還林」ないし「退牧還草」が実施され、さらに2002年からは「退牧還草」の方法論として強制移住が行われるようになった。「生態移民」と名づけられたこの環境政策はしかしながら、実施方法によってはメリットよりもデメリットが大きいことを具体的に検証するシンポジウムをこれまで2004年、2005年の2度にわたって北京で実施した。2005年度からは、本科研によって実施している。科研の2年目にあたる本年度は、前回の会議で約束したとおり、中国内蒙古自治区フフホトで国際シンポジウムを開催した。このシンポジウムの特徴としてはおおむね以下の5点が挙げられる。
1)現行の環境政策を批判することにのみ焦点をあてずに、乾燥域に共通する苦悩の理解に努めること。
2)中国内蒙古科学技術協会の協力を得て、自然科学との学際性をはかること。
3)行政側は、中央、地方政府、さらに各地域での担当行政官が積極的参加すること。
4)会議に先立って日中双方の研究者が共同で現場に赴き、現場を共有したこと。
5)人類学セッションをもうけて次世代研究者に国際的な発表の場を提供すること。
すなわち、日中共同の「国際性」、文理融合の「学際性」や、現場の行政担当者と協働する「社会性」のほか、「若手養成」という意図が実現された。結果、80名余にのぼる参加者を得た。また報告発表は、学術機関に所属する研究者のみならず、行政機関に属する研究者、元学長から博士課程学生まで、さらにNGO活動者など多岐にわたり、40余に上った。
当初5つのセッションに分類されていたが、参加者の都合による日程変更や追加等があった。発表内容としては、「国際的な枠組み」「近年の諸事例」「自然科学からの理解」「マクロ経済とミクロ経済」「人類学からの貢献」という5つに分類できるであろう。本シンポジウムの簡単な要旨集は当日配布された。論文集としては改めて構成し、中国語で中国から出版されることが決まった。
本シンポジウムの最大の成果は、政策の実施過程で生じる矛盾の指摘や、批判を超えて、解決のための実践例が具体的に提示されたことである。これらの実践例から、中国環境政策のうち、少なくとも「生態移民」政策については、大きく転換期を迎えていることが了解された。 現場にて

プログラム

2006年7月10日(月)
  • 開会式 司会:杭栓柱(内蒙古経済社会発展研究中心主任)
  • 「Sabina vulgaris 的研究」
    王林和(内蒙古自治区科学技術協会主席)
  • 「挨拶」
    鉄木尓(2008年人類学民族学世界大会準備委員会副主席)
  • 「「井戸神話」を解体する―貧困は本当に削減されるか?」
    小長谷有紀(国立民族学博物館)
  • 「開発と環境保全の関係」
    中尾正義(総合地球環境学研究所)
  • 「Ceratoides属植物の生物学的特性とその応用価値」
    易津(内蒙古農業大学)
  • 「黒河流域生態環境における人類活動の影響」
    色音(北京師範大学)
  • 「グローバルな視点におけるわが国の草原生態系の持続発展」
    盖志毅(内蒙古農業大学)
  • 「損失した草原生態システムの回復理論と政策」
    額尓敦布和(内蒙古社会科学院)
  • 「半乾燥・乾燥域における農業開発が水循環に与える影響」
    窪田順平(総合地球環境学研究所)
  • 「ステップとサバンナ―サハラ南縁の熱帯乾燥地と内モンゴル冷帯乾燥地の比較―」
    嶋田義仁(名古屋大学文学部)
  • 「協力と発展:内モンゴル草原牧畜地域持続可能な発展と新社会組織制度のつくりだし」
    胡敬萍(国家民委政法司)
  • 「中国乾燥地域における地下水と自然植生に及ぼす人間活動の影響の評価」
    秋山知宏(名古屋大学大学院)
  • 「草原生態と放牧制度」
    敖仁其(内蒙古社科院)
  • 「旗地縮小の歴史的プロセスから見る過放牧の発生原因―ホルチン左翼中旗を事例に―」
    ブレンサイン(滋賀県立大学)
  • 「生態移民が達さない「三生共栄」の内生式発展」
    鄧儀(中国アラシャン盟生態協会)
  • 「わが区の資源環境管理に応用する地理空間情報技術」
    祖剛(内蒙古経済情報センター)
  • 「モンゴル国ダウール草原生態区域が直面する挑戦と中、蒙、ロ「CMRダウール」国際自然保護区域建設の提案」
    烏力吉(ダライ湖国家生物圏自然保護区管理局)
  • 「モンゴルの乾燥草原における植物群生の生産力とその利用」
    ナチン(日本獣医生命科学大学)
  • 「環境正義と環境問題」
    蘇米雅(内蒙古工業大学)
  • コメンテーター:中尾正義、盖志毅
集合写真
2006年7月11日(火)
  • 「わが目で見るエンゲバイ」
    白図格吉扎布(牧区発展研究院)
  • 「農牧業産業化は人間と自然、経済と社会を調和的に発展させる重要な装置である」
    蘇力(牧区発展研究院)
  • 「草原生態建設の投資が直面している問題及び対策に関して」
    孟恵君(内蒙古大学)
  • 「内モンゴルの農牧業の産業化及び畜産品の生産と流通に関する研究―内モンゴルのブランド企業(株式会社「草原興発」)の生産と流通を事例に」
    張端珍(内蒙古財経学院経済与資源研究所)
  • 「誰が植生を奪ったのですか」
    陳継群(内蒙古牧区発展研究院)
  • 「アラシャン盟四大砂漠の「割れ目」と「つなぎ目」状態に関する調査と管理対策」
    敬譚(内蒙古林業科学院)
  • 「1970年以降の内モンゴル自治区の乾湿変動について」
    境田清隆(東北大学大学院環境科学研究科)
  • 「スニト左旗草原砂漠化治理に対する提案」
    羅嵩山(シリンゴル盟草原局)
  • 「スニト草原の荒漠化プロセスと生態建設に対する私の見方」
    王長栄(シリンゴル盟スニト左旗科学技術局)
  • 「定着化における牧畜民の生活経営戦略―オルドス地域ウーシン旗の事例から」
    児玉香菜子(国立民族学博物館)
  • 「砂漠化地域における農牧業の変容と農地・草地利用―内モンゴル自治区四子王旗を事例にして―」
    蘇徳斯琴(東北大学)
  • コメンテーター:敖仁其+易津
  • 「乾燥草原の生活環境と文化―ウラト後旗シンオス・ガチャ(村)を事例に」
    吉日格勒(内蒙古行政学院)
  • 「生態空間の生産―エゼネ旗におけるオアシス緊急措置工事を事例に」
    超宝海(中央民大民族学与社会学学院)
  • 「モンゴル高原における遊牧生産の本質について」
    ソーハン・ゲレルト(内蒙古農業大学)
  • 「人口変遷と乾燥地域生態系」
    トムルバガナ(中国社科院民族学与人類学所)
  • 「政府呼びかけ型環境政策実践の分析―内蒙古S旗の生態移民を事例に」
    荀麗麗(中央民族大学民族学与社会学学院)
  • 「フルンボイロ草原砂漠化の潜在危機及び対策」
    張徳平(呼倫貝爾市国土資源局)
  • 「草原生態経済の限界と草原資源を合理的に利用する目標」
    王関区(内蒙古社会科院)
  • 「貧困研究について」
    海山(内蒙古師範大学地理科学学院)
  • 「牧民が語る市場経済化のプロセス」
    阿拉坦宝力格(内蒙古大学蒙古学院文化研究所)
  • コメンテーター:小長谷有紀
  • 閉幕式 小長谷有紀、杭栓柱
  • 会議の様子
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