国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

言語変化研究の新たな方法論をめざして-ことば・社会・歴史-

研究期間:2008.4-2009.3 / 研究領域:新しい人類科学の創造 代表者 菊澤律子(先端人類科学研究部)

研究プロジェクト一覧

研究の目的
  1. 現在、言語学におけるさまざまなサブ・ディシプリンで独自に進んでいる言語変化の記述やメカニズムに関する研究を統合的に把握し、個別の事例を社会や歴史の認識を含む新たな視点から検証することで、言語変化への新たなアプローチへと結び付けることを目指す。本プロジェクトでは、そのために、関連分野及び隣接する研究分野の専門家によるシンポジウムを準備・開催し、今後の具体的な方針と研究の方向性を定めることで、来年度はより規模の大きな共同研究プロジェクトへと発展させる。
    (参考)共同研究プロジェクトについては、1)に加えて次のような目的を担うことを想定している。
  2. 日本における言語変化研究に取り組む研究者間のネットワークづくりと資料の整備体制についての検討を行う。資料の整備体制については、「言語変化を研究するための資料のコレクション」といったものを共同利用研に設置することの有用性を検討したいと考えている。
  3. 2011年に民博で開催予定の第20回国際歴史言語学会(見込み参加者数約300名)の準備委員会を形成するための基盤とする。
研究成果の概要

3月5-6日に文法構造の歴史言語学的比較と再建に関する国際シンポジウムMethodologies in Determining Morphosyntactic Change: Case Studies and Cross-linguistic Applications(英語・日本語、同時通訳付き)を行った。文法パターンの変異の史的再建や一般化に取り組むさまざまなサブディシプリンの専門家による13の報告があった。また、続いて一般参加者を交えたディスカッションを行った。その中で、(1)伝統的な比較方法の文法変化を含む言語変化一般の解明のための有効性に関する議論、(2)より汎用性のある方法論を発展させるのに参考となりうる具体的な言語現象の指摘などがあり、平成21年度以降、このテーマを発展させてゆくよい土台とすることができた。 なお、当日は近隣大学の言語学専攻の学生・大学院生の多数の参加があった。国内で一般的でない先端的な研究テーマでの国際シンポジウムにおいては、報告者自身は英語のみの開催でも対応可であることが多いが、それとは別に、国内の研究者育成という視点からも同時通訳をつける意味があることを認識させられた。

研究成果公表計画及び今後の展開等
成果公表については外部出版での出版物を検討している。
◎今後の展開について
1)国際共同研究としては、シンポジウムでのディスカッションの内容を整理し、次の三つの柱に沿って発展させる。
a.語彙の再建:不規則な音対応は本当に不規則か
b.パラダイムの再建:機能の定義と再建
c.節の構造と文法変化:残る機能・消える機能
2)国内共同研究プロジェクト(平成21年度プロジェクトとして新規申請中)
国内研究者のネットワークづくりは、国内の研究者の専門を考えると文法構造の変化よりもよりオーソドックスな歴史言語学研究を軸にした方がよいことがわかった。このため、文法構造の比較に関する議論の一歩手前となる比較方法と系統関係の樹立に焦点をあてた国内共同研究プロジェクトをたちあげ、1)の研究を国内研究者に受け入れてもらうための土台とする。
■ 研究実施状況

研究代表者の健康上の理由により、申請時点での予定を全体に約半年遅らせて、国際シンポジウムを三月に開催する。この準備を兼ねて、国内関連研究者とのネットワークづくりを進めている。三月開催の研究集会における討論を踏まえ、今後の研究の方向性を定め、長期的なプロジェクトへと発展させる予定である。

■ 研究成果概要

(見込み)
言語変化に関する研究では、伝統的には、比較方法に基づいた言語の史的変遷に関する研究および文献研究に基づく文献学が主であったが、いずれの分野でも、研究の対象となる言語の特徴が限られていた。その一方で、近年では、言語学のさまざまな研究分野において、これまで比較方法で対象にならなかった言語の特徴や現象を、言語変化という考え方で解釈をしようとしたり、関連する要素の発達のプロセスについての仮説を立てたりするようになってきた。ところが、こういったアプローチは、伝統的な比較方法とは完全に独立してなされることが多く、理論としては整合性があっても、実際に起こった言語の変化であるかどうかという点では疑問がもたれるものも多い。逆に、歴史言語学の分野では、このような新しいアプローチの成果を取り入れることができずにきている。

「ことばの変化」に関する具体的な事例に関する研究を歴史言語学者を含むさまざまな研究者が共有し、検討することで、方法論への挑戦、個別言語(群)の観察からでてくる新しい仮説の検証など、言語変化に関する現代的アプローチへの道を拓くための第一歩とし、今後、研究を発展させるための基礎とすることができた。

■ 公表実績

国際シンポジウム(公開)を以下により開催予定。また、発表要旨などについてはhttp://www.r.minpaku.ac.jp/ritsuko/english/sympo/に掲載。

●「文法構造の歴史言語学的比較と再建に関する国際シンポジウム」
Methodologies in Determining Morphosyntactic Change: Case Studies and Cross-linguistic Applications
日時:2009年3月5日(木)・6日(金) 9:30~17:00
場所:国立民族学博物館 第4セミナー室
定員:80名(要事前登録)
使用言語:日本語・英語(同時通訳あり)

成果出版物については検討中。