国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

ネパールのガンダルバ映像音響資料に関する情報共有型データベースの構築

研究期間:2018.4-2020.3 / 強化型プロジェクト(2年以内) 代表者 南真木人

研究プロジェクト一覧

プロジェクトの概要

プロジェクトの目的

 本プロジェクトは、ガンダルバの故地とされるバトゥレチョールにおいて1982年に撮影された映像を現地に提供し、併せて34年の変化を追調査して映像として撮影した、2015年度の文化資源プロジェクトを契機とする。これを機に、藤井名誉教授からガンダルバの人々の写真や録音した演奏の音源も現地に提供したいという相談を受け、その方法を考えてきた。国立ポカラ博物館、ネパール民俗楽器博物館、あるいはバトゥレチョールにある集会所やジャラクマン・サーランギ学校へのデータを入れたPCの提供を検討したが、機器の更新が現地において自力でできる可能性は低く、被写体となった本人や家族、遺族への提供(個別には応じるが)も資料の散逸を免れないと考えた。資料を永続的に残し視聴してもらうには、ネット上で共有化し、いつでもどこの誰もが見られる環境を整えるほうが、当事者にとっても発展性があると結論づけた。フォーラム型情報ミュージアム・プロジェクトへの応募は、こうした経緯を踏まえて発案した。
 当事者コミュニティへの資料の提供(共有)と広く世界に発信すること、またフォーラムとしての機能を併せ持たせるため、本プロジェクトでは(諸条件をクリアした上で)誰もが書き込み可能な情報共有型データベースを、英語を用いて作成する。データベースの具体的な構想は、以下のとおりである。
 1982年に調査対象となったガンダルバの集落別(カトマンドゥのデオパタン、バクタプル、キルティプル、バトゥレチョール、その他)に、ポートレートや集落での生活の様子、楽器や演奏風景を写した写真を載せる。写真は内容が重複せず、写真としての質と保存状態の良いものを選び、全点掲載の方針は採らない。写真には、表題(被写体になった人の名を含む)、撮影地、撮影年月日、撮影者の情報をつけ、その傍らにコメントを書き込めるスペース(広場)を用意する。可能な限り、コメント欄の筆頭にデータベース作成者が補足情報等を書き込む。外部からのコメントはプライバシーに抵触せず、中傷などではないものを残していくが、誰がどのようなチェックをどれくらいの頻度で行うのか、プロジェクトリーダーの退職後はどうするのかなど、先行するプロジェクトの事例などを参考に検討していく予定である。
 サーランギの演奏の録音がある人については、写真の横に曲名を並べ、クリックするとその演奏が聞こえるようにする(全曲掲載)。一曲全てを流すか(可能な限りこちらで)、冒頭の数分にするかは、無断盗用や著作権の問題を考慮して検討していく。一部の人については演奏の動画を民博が所有するが、それをデータベースに載せるかは現在のところ未検討である。もっともYouTube等の動画サイトで手軽にいろいろな音楽が聴くことができる時勢を考慮すると、より魅力的なデータベースの構築には動画も含むのが望ましいと思われる。

プロジェクトの内容

 本プロジェクトは、ガンダルバの故地とされるバトゥレチョールにおいて1982年に撮影された映像を現地に提供し、併せて34年の変化を追調査して映像として撮影した、2015年度の文化資源プロジェクトを契機とする。これを機に、藤井名誉教授からガンダルバの人々の写真や録音した演奏の音源も現地に提供したいという相談を受け、その方法を考えてきた。国立ポカラ博物館、ネパール民俗楽器博物館、あるいはバトゥレチョールにある集会所やジャラクマン・サーランギ学校へのデータを入れたPCの提供を検討したが、機器の更新が現地において自力でできる可能性は低く、被写体となった本人や家族、遺族への提供(個別には応じるが)も資料の散逸を免れないと考えた。資料を永続的に残し視聴してもらうには、ネット上で共有化し、いつでもどこの誰もが見られる環境を整えるほうが、当事者にとっても発展性があると結論づけた。フォーラム型情報ミュージアム・プロジェクトへの応募は、こうした経緯を踏まえて発案した。
 当事者コミュニティへの資料の提供(共有)と広く世界に発信すること、またフォーラムとしての機能を併せ持たせるため、本プロジェクトでは(諸条件をクリアした上で)誰もが書き込み可能な情報共有型データベースを、英語を用いて作成する。データベースの具体的な構想は、以下のとおりである。
 1982年に調査対象となったガンダルバの集落別(カトマンドゥのデオパタン、バクタプル、キルティプル、バトゥレチョール、その他)に、ポートレートや集落での生活の様子、楽器や演奏風景を写した写真を載せる。写真は内容が重複せず、写真としての質と保存状態の良いものを選び、全点掲載の方針は採らない。写真には、表題(被写体になった人の名を含む)、撮影地、撮影年月日、撮影者の情報をつけ、その傍らにコメントを書き込めるスペース(広場)を用意する。可能な限り、コメント欄の筆頭にデータベース作成者が補足情報等を書き込む。外部からのコメントはプライバシーに抵触せず、中傷などではないものを残していくが、誰がどのようなチェックをどれくらいの頻度で行うのか、プロジェクトリーダーの退職後はどうするのかなど、先行するプロジェクトの事例などを参考に検討していく予定である。
 サーランギの演奏の録音がある人については、写真の横に曲名を並べ、クリックするとその演奏が聞こえるようにする(全曲掲載)。一曲全てを流すか(可能な限りこちらで)、冒頭の数分にするかは、無断盗用や著作権の問題を考慮して検討していく。一部の人については演奏の動画を民博が所有するが、それをデータベースに載せるかは現在のところ未検討である。もっともYouTube等の動画サイトで手軽にいろいろな音楽が聴くことができる時勢を考慮すると、より魅力的なデータベースの構築には動画も含むのが望ましいと思われる。

期待される成果

 約半分と見積もっても1000枚近い写真と約50~60人の奏者による約150曲の演奏が聴くことができるデータベースができるものと予想される。これに動画を加えると、6~7人の奏者の演奏の映像が加わることになる。ラジオ・ネパールの開局が1951年であり、1964年や1968年の写真や音源ともなると、ネパールにおいても貴重な資料として注目され、多くの利用と意見交換がなされるものと期待する。本データベースを通観することにより、サーランギの音色と歌がネパールの国民文化となった過程を音楽自体によって検証できるようになり、地域差に基づく演奏法の違いや現在のサーランギ演奏への影響等々を精査できるようになる。動画については、民俗楽器と消滅の危機にある民俗歌謡の発掘をしている人気バンド「クゥトンバ」が、動画にある古い曲を現代風にアレンジし、ステージの大画面に動画を映しつつ再演する提案をしており、実現できれば、二次的な利用の促進とデータベースの知名度の向上につながると期待できる。

成果報告

2019年度成果
1. 今年度の研究実施状況

1) 第2回研究会を民博で開催し(2019年3月31日)、森本泉「ガンダルバの『伝統文化』再考」と南真木人「ツーリズムとの接続と離陸」の発表、企画展『旅する楽器 南アジア、弦の響き』見学と寺田吉孝による解説、2019年に制作した民族誌映画『カトマンドゥのサーランギ奏者たち』(76分42秒)の試写を行い、ガンダルバ研究の最新の知見に関して議論した。
2) 民博で開催した「音楽の祭日」(2019年6月23日)に出演したバンチャ・パリワールのサーランギ演奏をデータベースのコンテンツ素材用に映像取材した。併せて同日、バンチャ・パリワールのメンバーに上述の映画を観てもらい意見交換をした。
3) 調査対象地バトゥレチョールの3名の演奏家が来日し、長野県駒ヶ根市の「みなこいワールドフェスタ」(2019年10月21日)で公演したのを受け、調査と映像取材を実施した。
4) 藤井知昭名誉教授を隊長とする民族音楽調査隊が1980年と1982年にネパールで採録したサーランギ演奏のカセットテープ複製が、民博に所蔵されていたことが「音響資料目録データベース」の検索から判明した。それらのデジタル化を実施し、演奏者・曲目ごとに整理しコンテンツを作る作業を進めた。並行して、藤井名誉教授の国際文化研究所を寺田吉孝と伴に訪問し、デジタル化した音源データ、整理表を提供したうえで、それらをデータベースに利用し公開する許諾を得た。データベースは現在も作成中である。
5) 『季刊民族学』163号の特集「ヒマラヤの吟遊詩人――ガンダルバの現在」の論稿を基に英語での出版に向けて、外注して翻訳した原稿を各執筆者が加筆修正している。

2. 研究成果の概要(研究目的の達成)

諸般の事情でデータベースの主要なコンテンツとなる過去の音源と写真の入手が能わず、作業は滞っていた。2019年11月に、共同研究員からの指摘で、1980年と1982年にネパールで藤井名誉教授等が採録したサーランギ演奏のカセットテープ複製が民博に所蔵されていたことが判明し、資料のデジタル化と整理を開始できた。1982年の音源を主として、約50人の演奏家によるのべ約190曲のコンテンツを持つデータベースを作成し、公開できる見込みである。

3. 成果の公表実績(出版、公開シンポジウム、学会分科会、電子媒体など)

【映像制作】
南真木人監修、2019『カトマンドゥのサーランギ奏者たち』76分42秒
南真木人・藤井知昭監修、2020『みんぱく映像民族誌 第35集 ネパールのサーランギ音楽』(2019「カトマンドゥのサーランギ奏者たち」約77分、1984「サーランギを追って」60分所収)
【口頭発表】
2019年11月16日、南真木人「ヒマラヤの吟遊詩人―ガンダルバから見るネパールの変化」協力隊ネパール会主催『公開ネパール応援セミナー』あいも文化交流会館
2020年1月15日、みんぱく映像民族誌シアター「ネパールの楽師ガンダルバ」において『ネパール 楽師の村 バトゥレチョールの現在』91分31秒上映・解説、シアターセブン
2020年3月7-8日、国際シンポジウム「学際研究とフォーラム型情報ミュージアム」に、バトゥレチョールから2名の当事者および同地において研究してきたトリブバン大学PNキャンパスの研究者を招へいし、二つのセッションを担当し口頭発表した。

2018年度成果
1. 今年度の研究実施状況

共同研究員を招へいし、7月に第1回研究会を開催した。1982年にバトゥレチョールで録音された音源の曲様式と奏法の分析(伊藤香里)、『季刊民族学』の特集の合評、今後の過程や文化資源の返還/協同の意義について議論した。ネパール出張では、1982年に撮影ないし録音された映像音響資料の肖像権者ないし遺族を訪問し、ウェブサイトに掲載する許諾を取得した。さらに、82年の音源と比較するためのデータベースのコンテンツとして、サーランギを演奏する音楽家のインタビューと演奏の映像取材を行った。映像を撮影できた人物や「バンド」は以下の通りである。
1.「アヌグラハー」演奏(GCAO、カトマンドゥ・ゲスト・ハウス)
2.カルナ・バハドゥール・ガンダルバ演奏(バーラト・ネパリによる指導)
3.キラン・ネパリ演奏(キルティプル出身、「クトゥンバ」)
4.ラムジ、モンゴル、スッバの演奏(GCAO、マナン・ホテル)
5.バーラト・ネパリ演奏(バクタプル出身、現スワヤンブー)
6.プリンス・ネパリ演奏(キルティプル、「スムリティ」、ニューオリンズ・レストラン)
7.クリシュナ・バハドゥール・ガンダルバ演奏、聞き取り(GCAO、ゴルカ郡ターティポカリ)
8.ディポック・ガンダルバ聞き取り(GCAO、ゴルカ郡パルンタール)
9.別のディポック・ガンダルバ聞き取り、サーランギ製作(GCAO、タナフ郡バンサール)
10.マニシュ・ガンダルバ演奏(「ファンタスティクス」、ダルバル・ラウンジ)
11.アジャイ・ネパリ、サミュエル・ガンダルバ練習(「アダプターズ」)
12.アルジュン・ネパリ演奏、聞き取り(バクタプル)
13.マニシュ・ガンダルバ、ビクラム・ガンダルバ演奏、聞き取り(パシュパティナート)
14.プジャン・ガンダルバ聞き取り(GCAO会長、サーランギ・レストラン)
15.アシム・シェルチャン演奏、聞き取り(「カンダラ」)
16.ダン・バハドゥール・ガエク夫妻演奏(バトゥレチョール)
17.「アダプターズ」演奏(デリマ・ガーデン・カフェ)
 GCAO: Gandharba Cultural and Art Organization

2. 研究成果の概要(研究目的の達成)

研究会を開催しデータベースの内容に関する議論を深めることができた。また、1982年に撮影ないし録音された映像音響資料の肖像権者ないし遺族を訪問してウェブサイトに掲載し共有する意義を説明し、公開の賛同が得られた。ただし、データベースのコンテンツが確定した段階で書面の覚書を取り交わす作業が残っている。82年の資料との比較に用いる、現在のガンダルバとサーランギの関わりを示す映像は、予定通り撮影することができた。他方、82年の音源と写真の入手は、藤井知昭名誉教授のオフィス移転などの事情で、未だ達成できていない。2019年1月末に国際研究協力者のラム・バハドゥール・シュレスタ氏を招へいし、新規映像の整理と翻訳を依頼する予定である。

3. 成果の公表実績(出版、公開シンポジウム、学会分科会、電子媒体など)

【論文】
Terada Yoshitaka
2018 Visiting Nepal after 34 Years, Asian-European Music Research E-Journal 1: 29-36.
(http://www.academia.edu/37319536/VISITING_NEPAL_AFTER_34_YEARS)

【映像制作】
Minami Makito and Terada Yoshitaka 監修
2018 Revisiting Batulecaur after 34 Years: A Village of Musicians in Nepal(みんぱく民族誌映画)53分
南真木人・寺田吉孝・藤井知昭 監修
2018『みんぱく映像民族誌 第30集 ネパールの楽師ガンダルバ』107分

【成果の公開】
本プロジェクトに関連する映像作品、Minami Makito and Terada Yoshitaka 監修2018 Revisiting Batulecaur after 34 Years: A Village of Musicians in Nepalを以下の4ヵ所で上映した。
南真木人・寺田吉孝
2018年11月23日、ネパール国立舞踊劇場・小ホール(カトマンドゥ)、第8回国際民俗音楽映画祭(11/21-24)、長編映画部門第二位受賞、約80人
南真木人
2018年12月6日、NexUs(カトマンドゥ)、Movie Night、質疑応答、約30人
2018年12月10日、Department of Sociology and Rural Development, Prithvi Narayan Campus(ポカラ)、大学院授業、議論、院生と教員約40人
2018年12月11日、国際山岳博物館・オーディトリアム(ポカラ)、第5回国際グレートヒマラヤ祭、ボジ・バハドゥール・ガエク(ガンダルバ開発センター長)、BKパラジュリ(PNキャンパス教授)によるコメント及びフロアとの質疑応答、ダン・バハドゥール・ガエク他8人によるサーランギ演奏、約40人