時代玩具コレクションの公開プロジェクト
プロジェクトの概要
プロジェクトの目的
本データベースは、2013年3月に国立民族学博物館(以下、民博)に寄贈された大阪府指定有形民俗文化財「玩具及び関連世相資料」、通称「時代玩具コレクション」のデータベースを制作することを目的としたものである。時代玩具コレクションは、1975(昭和50)年頃から、収集家である多田敏捷(としかつ)氏が北海道から鹿児島県種子島まで古物市や旧家を訪ねて集めた玩具資料であり、江戸時代から明治、大正、昭和、平成初期の時代にわたる約15,000件、約58,000点に及ぶ全国屈指のコレクションである。その特徴は、玩具と時代背景を考証するため、新聞、号外、雑誌、書籍、古文書などの文献史料が充実していることが挙げられる。したがって、玩具そのものが作られた時代背景を知ることができる文献史料までを含んだ時代玩具コレクションのデータベースを制作することは、玩具研究において大きな意味を持つこととなる。
プロジェクトの内容
時代玩具コレクションは、大阪府で台帳作成が進められていたが、結果として未完成のまま、民博に寄贈されることとなった。そこで、民博に寄贈された後、日髙研究室において台帳と写真ファイルとの突合せ作業を進め、3年をかけて一次整理の作業を終了した。ここでいう、一時整理作業とは台帳には記載されている情報と写真から読み取れる情報に齟齬がないか確認する作業であるが、この結果民博には納品されていない資料が存在する可能性が高まった。その後、2019年3月21日より開幕する特別展「子ども/おもちゃの博覧会」の展示資料について、台帳の記載事項の修正、標本番号の付与の段階まで整理作業を進めてきた。この作業のなかで、台帳の記載情報には数多くの修正事項が存在していることが明らかとなった。
以上の経緯を踏まえ、本プロジェクトでは、最初に台帳と現物の全点の照合作業をおこない、台帳の記載内容を確認、必要な加筆修正をおこなう。さらに玩具の素材調査を実施したうえで、全点記載の台帳を完成させる。その後、多田氏の分類基準に基づいて、時代玩具コレクションを1.ブリキ製玩具、2.マスコミ玩具、3.めんこ・ビー玉、4.カルタ・トランプ、5.双六・福笑い、6.おもちゃ絵・立版古、7.千代紙・切り紙・折り紙、8.相撲玩具・赤穂浪士の玩具、9.遊戯具、10.ゲームと絵本、11.羽子板・凧・コマ、12.木製玩具・セルロイド玩具、13.うつし絵・着せかえ遊び・ぬり絵、14.人形(江戸から現代まで)、15.ままごとと水物玩具、16.子供の乗り物・光学玩具、17.女の子玩具18.男の子玩具、19.駄菓子屋と縁日の玩具、20.子供絵と子供衣装、21.玩具で見る日本近代史の21項目に分類する。この際、「日本の文化展示関連情報データベース」に則って1点1項目ではなく、複数の項目の選択も可とする重複分類を基本とし、さらなる分類の必要性について検討する。また、各玩具の年代を江戸、明治、大正、昭和、平成に分類するとともに、製作年代の調査をおこない、可能な限り製作年代の特定を試みる。加えて、時代玩具コレクションを対象とした共同研究「モノにみる近代日本の子どもの文化と社会の総合的研究―国立民族学博物館所蔵多田コレクションを中心に」(2014年10月から2018年3月)の研究会メンバーの調査結果を、個々の玩具の詳細情報に紐づけするためのデータや製造したメーカーやメーカーが提案する遊び方などの情報を生成する。この際、上記共同研究の助言も仰ぎながら作業を進める。そのほか、著作権との関連から、特にテレビアニメや漫画のキャラクターをモデルにした玩具について、データベースでの掲載許諾の交渉をおこない、データベース公開が速やかにおこなえる準備を整える。この作業では、情報課の助言を仰ぎながら交渉等をおこなう。
なお、本データベースのシステム開発として、玩具研究者による追加情報の付与、新規情報が追記された際の履歴ごとのページを閲覧できるメモ機能の開発をおこなう。この際、情報の追加がおこなえる対象者をどこまで広げるかは慎重に検討をおこなう。
期待される成果
時代玩具コレクションデータベース(仮称)は、すでにプロジェクト代表者がフォーラム型情報ミュージアムで2018年に公開した「日本の文化展示関連情報データベース」で開発したプラットフォームをベースに、追加情報の付与、新規情報が追記された際の履歴ごとのページを閲覧できるメモ機能を加えたデータベースを作成する。データベースの内容は、フリーワード検索、江戸、明治、大正、昭和、平成の年代別検索、金属、木製、セルロイド等の素材別検索、多田氏の分類項目に准じた玩具分類ごとの検索がおこなえるものとする。また、それぞれの検索項目については簡単な解説を加え、それぞれの分類内容について、利用者が理解しやすくなるよう配慮する。このことによって、玩具をテーマとする展示を企画している博物館の学芸員や教育学や家政学等、子どもを対象とした研究者への利用を促し、時代玩具コレクションそのものの共同利用を高めることが期待できる。
成果報告
2019年度成果
1. 今年度の研究実施状況
今年度は、時代玩具コレクションのデータベース作成にあたり、研究協力者との研究会を開催し、データベースの表記項目と玩具の形態分類をおこなうとともに、時代玩具コレクションの分類作業を進めた。これらの分類作業に伴う研究会は、基幹研究「日本列島における地域文化の再発見とその表象システム」と連携しながら実施した。また、玩具の遊び方に関する現地調査をおこない、玩具データベースに必要な表記項目の与件として、主な使用者と遊び方の要素を加える必要があることを確認した。今年度に整理した表記項目と形態分類について以下に示す。
1.玩具の形態
1)人形玩具:人を模した玩具。
2)戦争玩具:戦争に関する玩具。
3)乗物玩具:乗物に関する玩具。
4)動力玩具:動力を利用して遊ぶ玩具。
5)マスコミ玩具:マスメディアに登場し、人気となったキャラクターやそれに関した玩具。
6)紙製玩具:紙を素材としたさまざまな玩具。
7)めんこ:めんこには素材により、泥めんこ、鉛めんこ、紙めんこがあり、もっともよく知られたものは紙めんこである。遊び方は地面に掘った小さな穴に投げ入れる穴一、対戦相手のめんこをひっくり返す「起こし」といった遊びとともに、めんこ自体をコレクションしていくという遊び方がある玩具。
8)カルタ:絵や歌の文字を書いた長方形の札、絵や歌に合わせて取り合うカード遊びのひとつの玩具。
9)双六:盤上(ボード)玩具の一つ。さいころを互いに振り出し、自身が出した采の目にしたがってコマを進め、最初に駒を進め終わった方が勝ちとなる玩具。
10)着せ替え:人形に紙や布の衣装などを着せ替えて遊ぶ玩具。
11)ぬり絵:輪郭が描かれた台紙に好きな色を塗ってあそぶ玩具。
12)ビー玉・おはじき玩具:ガラス製の玉で、遊戯や観賞に用いる玩具。
13)光学玩具:光の性質を利用して遊ぶ玩具。
14)水遊び玩具:水を用いて遊ぶ玩具。
15)お面の玩具:顔にかぶって遊ぶ玩具。
16)ボード(盤上)玩具:ボード(盤)の上に置いたコマやカードを動かしたり、取り除いたりする玩具。
17)ものづくり玩具:玩具を構成する部品を組み立てたり、作ったりして遊ぶ玩具。
18)ごっこ玩具:ごっこ遊びで用いる玩具。
19)スポーツ玩具:一定のルールにのっとって身体を動かし、勝敗を競ったり、楽しんだりする玩具。
20)お土産玩具:お土産品の玩具。
21)教育玩具:子どもの学習の助けになる玩具。
22)駄菓子屋玩具:駄菓子屋で売られている玩具。
23)楽器玩具:
24)玩具関連資料Ⅰ(子ども服・装身具):子どもの好きなキャラクター等が描かれた子ども用の服や関連する装身具。
25)玩具関連資料Ⅱ(文献・写真等):時代玩具コレクションの文化財的価値を示す歴史資料。
その他:上記以外の玩具等。
2.主な使用者
1)男子
2)女子
3)男女共用
3.遊び方
1)対戦:相対して競い合う遊び方。
2)ごっこ遊び:何かになったつもりになる遊び方。
3)鑑賞:玩具を飾って楽しむ遊び方。
4)一人遊び:一人で楽しむ遊び方。
5)ものづくり遊び:ものを作る遊び方。
4.主に遊ばれる季節
1)正月
2)ひな祭り
3)端午の節句
4)クリスマス
5)通年
5.製造年代
製造された年代
6.主要素材
1)植物由来:木製、木の実、漆器、竹製、紙製、カーボン紙、ゴム、その他植物
2)皮革由来:皮製、革製
3)金属由来:ブリキ、銅、鉄、アルミ、錫、アンチモニー、ダイキャスト(超合金)、その他金属
4)土由来:土、素焼き、陶器、磁器、粘土、
5)貝由来:貝、胡粉
6)石由来:石、石膏、磁石
7)ガラス由来:ガラス、色ガラス、鏡
8)人工素材由来:合皮、化学繊維、セルロイド、プラスチック、ビニール、塩化ビニール、ソフトビニール、写真、フィルム、セロファン、火薬
9)布由来:
7.サイズ
8.備考
補足情報
2. 研究成果の概要(研究目的の達成)
現在、上記の項目について各玩具の分類作業を進めるとともに、各項目の説明文について研究協力者と最終確認をおこない、英訳に向けた準備をおこなっている。この点は、おおむね計画通りに作業が進んでいると判断している。また、2019年12月22日に大東市歴史民俗資料館で開催された「近畿民具学会2019年度大会」において、「フォーラム型情報ミュージアム「時代玩具コレクションデータベース」について」と題し、本プロジェクトについて研究発表をおこない、表記項目等の内容について意見交換をおこなった。この際、時代玩具コレクションの分類については、収集者である多田敏捷氏の分類基準のみに準じた場合、女子の玩具が埋没してしまう課題があり、今回の資料分類はその点を解決できる分類になっているのではないかという評価を得た。ただし、時代玩具コレクションそのものが男子向けのものが多いことは事実であり、今後の課題として女子用玩具の収集も視野に入れ、時代玩具コレクションの拡充を図ってはとの意見がだされた。この点については、今後の玩具研究の進展において検討を進めていく課題とした。
3. 成果の公表実績(出版、公開シンポジウム、学会分科会、電子媒体など)