国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

時間的枠組みと多元的共生社会に関する研究

共同研究 代表者 横山廣子

研究プロジェクト一覧

2003年度

本研究は、時間的枠組みが社会や個人に対して持つ意味合いを世界の諸社会の事例を通して比較研究し、多様な文化や価値観を持ち、民族、性別、年齢、職業や断層などを異にする人々が各人の人間としての可能性を十分に発揮し、生きがいを感じて共に生きることのできる社会を実現する上で、どのような新しい時間的枠組みがありうるかをさぐろうとするものである。具体的には、時間と人間や社会との間に存在する問題群(1.社会・集団と時間、2.家族・人間と時間、3.人生・ライフコースと時間的枠組み、4.時間の観念・時間認識)を解明していく。科学技術と産業の発展が著しく、情報通信や交通などコミュニケーションのあり方が大変貌しつつある現代社会の諸問題を捉え、それに対する深い洞察を得るのに「時間」からのアプローチは有効である。本研究は多元的共生社会のモデルを構築し、その可能性を明らかにするものと思われる。

【館内研究員】 佐藤浩司、立川武蔵、長野泰彦、西尾哲夫、三尾稔、八杉佳穂
【館外研究員】 網野房子、片多順、川崎末美、佐藤裕紀子、島崎尚子、杉田繁治、武井秀夫、福田アジオ、藤田眞理子、松田素二
研究会
2003年6月14日(土)13:30~(第2演習室)
呉咏梅「老人ホームにおける多元的社会と生活のリズム」
問題提起・整理:横山廣子「中間総括討論」
2003年9月27日(土)13:30~(第1演習室)
杉田繁治「時間の概念についてのメモ」
八杉佳穂「マヤのときをめぐって」
2004年2月7日(土)13:30~(第1演習室)
横山廣子「日本におけるスローライフの取り組み方について ─ 掛川市の事例から ─」
佐藤浩司「ソウルスタイルその後のその後」
2004年2月17日(火)10:30~(第1演習室)
三尾稔「共存・すれちがい・葛藤 ─ インドのスーフィー聖者廟祭礼における暦の重層性と混交的信仰実践 ─」
武井秀夫「神話の時間を生きる ─ 東トゥカノの日常世界と神話的時間」
松田素二「過去の被害は如何に語られるか ― 在韓被爆者の調査経験から ─」
研究成果

次の諸点が明らかになった。 1)時間の観念・使われ方:(1)死で停止した時間を過去や未来と繋げて動かすことで、人々の関係を構築したり、法廷闘争において象徴的過去が力を持つなど、時間は社会や人間関係に作用する。(2)時間は空間とともに時間を研究する必要がある。

2)国家・社会と時間:国家は時間的枠組みを統一するが、社会の多様性や複合性を反映する時間的枠組みのあり方も見られる。

3)現代日本の家族と社会の特徴と諸問題:(1)ライフコースにおける役割移行のタイミング決定に対する年齢規範の作用の相対的弱化、(2)個人、家族、社会などの多元的な時間間の共時性に関する男女差の微減、(3)家族間での時間の階層化、(4)同時性を失いつつある家族、(5)労働時間短縮と家族の時間との関係。

4)人生と時間:(1)自然や宇宙、あるいは神話的世界といった異なる時間的連鎖の中に個人の生をおくことにより、死は異なる意味合いを持つ。(2)人生の区切り方と意味あいは地域、時代、性の違いによって多様であり、それぞれの段階の個人の力を活かし、伸ばすあり方を研究・考察する余地がある。

5)多元的共生社会を実現するには、(1)選択肢の増大、(2)人間関係の結び方の工夫、(3)時間と場の限定からの解放、について社会の仕組みや観念の変革を研究する必要がある。

2003「社会変革とのつながりを目指して-共同研究:時間的枠組みと多元的共生社会に関する研究」『民博通信』No. 101:18-19

2002年度

本研究は、時間的枠組みが社会や個人に対して持つ意味合いを世界の諸社会の事例を通して比較研究し、多様な文化や価値観を持ち、民族、性別、年齢、職業や断層などを異にする人々が各人の人間としての可能性を十分に発揮し、生きがいを感じて共に生きることのできる社会を実現する上で、どのような新しい時間的枠組みがありうるかをさぐろうとするものである。具体的には、時間と人間や社会との間に存在する問題群(1.社会・集団と時間、2.家族・人間と時間、3.人生・ライフコースと時間的枠組み、4.時間の観念・時間認識)を解明していく。科学技術と産業の発展が著しく、情報通信や交通などコミュニケーションのあり方が大変貌しつつある現代社会の諸問題を捉え、それに対する深い洞察を得るのに「時間」からのアプローチは有効である。本研究は多元的共生社会のモデルを構築し、その可能性を明らかにするものと思われる。

【館内研究員】 佐藤浩司、杉田繁治、立川武蔵、長野泰彦、西尾哲夫、八杉佳穂、松田素二(客員)
【館外研究員】 網野房子、片多順、川崎末美、佐藤裕紀子、佐野眞理子、島崎尚子、武井秀夫、福田アジオ
研究会
2002年6月8日(土)13:30~(第1演習室)
佐藤浩司「ソウル・スタイルの時間と空間」
嶋崎尚子「ライフコース・パラダイムにおける時間の共時性」
2002年7月13日(土)13:30~(第3演習室)
佐藤裕紀子「大正期の新中間層における『主婦の時間』」
横山廣子「時間的枠組みの視角」
2003年3月8日(土)10:30~(第1演習室)
川崎末美「共生への課題としての働き方の変革 ─ 日本における労働時間短縮は可能か」
2003年3月15日(土)10:00~(第1演習室)
網野房子「儀礼の実践にみる時間-韓国済州島の事例から」
佐野(藤田)眞理子「時間的枠組み-意味の分析から実践へ(象徴人類学⇔応用人類学)」
研究成果

昨年度の研究活動を通じ、研究の角度を一層多彩にする必要性が認識され、本年度からメンバーを増員した。そのことにより、日本を中心とする対象社会を社会学的角度から分析する視点や、日本とは対照的な側面を持つ社会との比較の視点が充実した。7件の研究報告を行い、日本などの諸社会における時間的枠組みをめぐる実態と多元的共生をいかに実現するかについての分析が進展した。それを通して、選択肢の増大、関係の結び方と調整に関わる諸問題の重要性が明らかになってきた。

2001年度

本共同研究は、時間的枠組みが社会や個人に対してもつ意味合いを、世界の諸社会の事例を通して比較研究し、民族、性別、年齢、職業や階層などを異にする、多様な文化や価値観をもつ人々が各人の人間としての可能性を十分に発揮し、生きがいを感じて共に生きることのできる社会を実現する上で、どのような新しい時間的枠組みがありうるかを探ろうとするものである。具体的には、時間と人間や社会との間に存在する問題群、(1)社会・集団と時間(2)家族・人間関係と時間(3)人生・ライフコースと時間的枠組み(4)時間の観念・時間認識を解明していく。科学技術と産業の発展が著しく、情報通信や交通などコミュニケーションのあり方が大変貌しつつある現代社会の諸問題を捉え、それに対する深い洞察をえるのに「時間」からのアプローチは有効である。本共同研究は多元的共生社会のモデルを構築し、その可能性を明らかにするであろう。

【館内研究員】 佐藤浩司、杉田繁治、立川武蔵、長野泰彦、西尾哲夫、松田素二(客員)、八杉佳穂
【館外研究員】 網野房子、片多順、福田アジオ、善積京子
研究会
2001年6月5日(火)13:30~(第1演習室)
周星「中国における『時間』について」
横山廣子「時間に関する研究について」
全員「個人研究に対する展望と計画」
2001年12月14日(金)14:00~ / 2月15日(土)10:00~(第1演習室)
片多順「ライフコースの比較文化的研究-文化的老人線を中心に」
横山廣子「時間に関する日中比較-場への参加とネットワークに関する考察を中心として」
2002年2月6日(水)10:00~(第1演習室)
松尾義弘「中国の古典における『時・空』の概念」
2002年2月18日(月)13:30~ / 19日(火)10:00~(第2演習室)
井上慎一「時間学について」
高橋征仁「選抜システムと時間-現代青年の時間感覚」
福田アジオ「時間の民俗学・空間の民俗学」
研究成果

初年度にあたり、毎回の報告者による発表に加え、研究参加者全体が各自の研究計画やテーマについて説明する場を設け、関連の問題を討議した。また、時間に関する諸問題を総合的に研究している山口大学時間学研究所から計4名を特別講師として招き、相互の研究に対する理解を深め、今後の交流の可能性を開いた。各報告を通じて、異なる地域や文化の間に見られる時間の多様性などを浮き彫りにする時間に関する研究と多元的共生社会との接点をどこに求めるか、という課題を十分に論議する必要性が明らかになった。