先住民による水産資源の分配と商業流通
2003年度
先住民が生業活動によって獲得し、自家消費用や儀礼用に利用する水産資源と、商業目的に捕獲し、社会内外に現金と引き替えに流通させる水産資源とでは、管理のあり方やその有効性が大いに異なることが予想される。共同研究会の目的は、極北地域および環太平洋地域の先住民が水産資源を捕獲した後、どのように社会内で分配したり、どのような社会・経済的ネットワークを通して商業流通を行っているか、さらにその資源の社会的な分配や商業流通が先住民の社会・経済生活にいかなる影響を及ぼしているかを、政治生態学的な視点から比較検討し、新たな資源管理の方法を提案することである。再生可能な水産資源は地球全体の共有資源であり、その持続的な利用と管理の方法の模索は、現代の人類社会にとって重要な研究課題である。さらにこの研究の成果は世界各地において水産資源の管理に応用することができる点に、学問的のみならず応用的な意義がある。
【館内研究員】 | 飯田卓 |
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【館外研究員】 | 赤嶺淳、井上敏昭、岩崎まさみ、大島稔、大曲佳世、大村敬一、鹿熊信一郎、北村也寸志、スチュアート・ヘンリ、竹川大介、谷本一之(客員)、手塚薫、出利葉浩司、橋村修、浜口尚、細川弘明、松本博之、家中茂、渡部裕 |
研究会
- 2003年6月7日(土)13:00~(第1演習室)
- 川辺みどり「インドネシア・シドアルジョ県の伝統的エビ養殖と「エコシュリンプ」」
- 阿部嘉治「インドネシア・アル諸島のフカヒレ漁」
- 2003年6月8日(日)9:00~(第1演習室)
- 馬場治「タイ国におけるエビ養殖業の実態」
- 2003年7月5日(土)13:30~(第1演習室)
- 北窓時男「西アフリカのマングローブ生態系における水産資源管理 ─ セネガル・サルームデルタの場合」
- ウイリアム・春水・ヨハネス「日本沿岸漁業における資源管理 ─ 宮城県牡鹿半島寄磯浜・前網浜を中心に」
- 2003年7月6日(日)9:30~(第1演習室)
- 岸上伸啓「海洋資源の利用と管理、流通に関する人類学的研究」
- 2003年10月25日(土)13:00~(第1演習室)
- 池口明子「ベトナムハノイにおける鮮魚流通と露天商の取引ネットワーク」
- 鹿熊信一郎「フィリピン・ネグロス島カディアスにおける沿岸水産資源・生態資源系共同管理」
- 井上敏明「グイッチン社会におけるシェアリングとポトラッチの関係について」
- 2003年10月26(日)9:30~(第1演習室)
- 大島稔「カムチャッカにおける先住民漁業権の問題について」
- 小野林太郎「マレー多島海域における海洋資源利用-民族考古学的視点から-」
- 「総合討論」
- 2003年11月15日(土)13:00~(第1演習室)
- 浜口尚「セント・ヴィンセントおよびグレナディーン諸島国における鯨類資源の利用、管理、流通について」
- 竹川大介「バヌアツのポリネシアンアウトライヤー・フツナ島民の海洋資源利用と食物禁忌」
- 2003年11月16日(日)9:30~(第1演習室)
- 手塚薫「(アラスカ州)コディアック島のサーモン漁」
- 「全体討論」
- 2004年1月10日(土)13:00~(第2演習室)
- 「総論」
- 馬場治・堀美菜「日本の沿岸漁業における水揚プール制の実態とその経済的意味」
- 渡辺裕「カムチャッカ先住民社会の現状と海洋資源の利用」
- 鹿熊信一郎「フィジーにおける沿岸水産資源・生態系の共同管理」
- 山本成「コメント」
- 2004年1月11日(日)9:30~(第2演習室)
- 橋村修「移動漁業集団の海洋資源利用にみる紛争と漁業権 ─ 近世の九州西岸を事例に ─」
- 北村也寸志「「流通」の消失した海 ─ 西宮浜調査中間報告」
研究成果
共同研究会では、水産資源の保全管理と流通との関係を環太平洋地域および極北地域の事例を中心に比較検討した。結論は次の通りである。国内外の市場から需要があり商品価値が高いために広域に流通する水産資源を保全し、持続的に利用するためには、当該資源の市場への流通や資源需要を制御するような要素を取り入れる必要があるといえる。すなわち、末端の生産者である漁民から流通網を経てもう一方の末端に位置する消費者までを視野に入れた資源の管理が必要である。一方、市場価値は低いが先住民(利用者)が必要とするような資源の場合には、国家と利用者による資源の共同管理や地域社会における主体的な資源管理の制度を構築し、運用する方がより有効である。
岸上伸啓編 2003 『海洋資源の利用と管理に関する人類学的研究』(SER46号)大阪:国立民族学博物館
2002年度
先住民が生業活動によって獲得し、自家消費用や儀礼用に利用する水産資源と、商業目的に捕獲し、社会内外に現金と引き替えに流通させる水産資源とでは、管理のあり方やその有効性が大いに異なることが予想される。共同研究会の目的は、極北地域および環太平洋地域の先住民が水産資源を捕獲した後、どのように社会内で分配したり、どのような社会・経済的ネットワークを通して商業流通を行っているか、さらにその資源の社会的な分配や商業流通が先住民の社会・経済生活にいかなる影響を及ぼしているかを、政治生態学的な視点から比較検討し、新たな資源管理の方法を提案することである。再生可能な水産資源は地球全体の共有資源であり、その持続的な利用と管理の方法の模索は、現代の人類社会にとって重要な研究課題である。さらにこの研究の成果は世界各地において水産資源の管理に応用することができる点に、学問的のみならず応用的な意義がある。
【館内研究員】 | 飯田卓、池谷和信、印東道子、橋村修、大島稔(客員)、谷本一之(客員) |
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【館外研究員】 | 赤嶺淳、井上敏昭、岩崎まさみ、大曲佳世、大村敬一、鹿熊信一郎、北村也寸志、スチュアート・ヘンリ、竹川大介、手塚薫、出利葉浩司、細川弘明、松本博之、渡部裕 |
研究会
- 2002年6月22日(土)13:00~(第2演習室)
- 荒井信雄「市場経済への移行期のロシア極東における水産資源の利用・流通と地域経済」
- 渡辺裕「カムチャッカの商業的水産資源利用における日本人漁民の位置づけ」
- 2002年6月23日(日)13:00~(第2演習室)
- 岸上伸啓「狩猟採集民の食物分配について:諸理論の紹介と検討」
- 浜口尚「コメント」
- 2002年7月13日(土)13:30~(第1演習室)
- 水野紀一「北西九州沿海および奄美・沖縄の石干見漁労」
- 岩淵聡文「フランス西部、レ島およびオレロン島における石干見」
- 矢野敬生「沖縄の石干見調査からみえてきたこと ─ 小浜島の石干見を中心として」
- 2002年7月14日(日)10:00~(第1演習室)
- 田和正孝「澎湖列島における石滬の漁業的利用と文化的利用 ─ 伝統漁業の系譜と新たな意味の付与」
- 家中茂、浜口尚「コメント」
- 2002年12月2日(月)10:00~(第1演習室/第4セミナー室)
- 岸上伸啓「総論:海洋資源の利用と管理」
- 鹿熊信一郎「沖縄、フィリピン、サモアにおける漁業資源の共同管理に関する比較研究」
- 家中茂「コメント」
- 2002年12月3日(火)10:00~(第1演習室/第4セミナー室)
- 浜口尚「ベクエイにおけるザトウクジラの利用と管理」
- 岸上伸啓「カナダ・ヌナヴィク地域におけるシロイルカの利用と管理」
- 大曲佳世「エコ・ポィティクスの資源としての鯨」
- スチュアート・ヘンリ「ネツリク社会における漁労」
- 2002年12月4日(水)10:00~(第1演習室/第4セミナー室)
- 飯田卓「マラガシサンゴ礁域における農民漁労従事者の過去と現在」
- 竹川大介「食物分配から貨幣流通へ:イルカの肉と歯の分布の違い」
- 赤嶺淳「熱帯海域における乾燥ナマコ交易の歴史的概観」
- 2002年12月5日(木)10:00~(第1演習室/第4セミナー室)
- 大村敬一「資源管理における伝統的生態学的知識の利用をめぐる諸問題」
- 岩崎まさみ「アイヌによる野生生物資源利用の復興」
- 家中茂「全体についてのコメント」
- 斉藤玲子「コメント」
- 2003年1月12日(日)10:00~(第2演習室)
- 木村和男「カヌーとビーヴァーの帝国:カナダの毛皮交易」
- 岸上伸啓「国際シンポの成果の検討と今後の研究計画」
研究成果
本年度は、水産資源の保全と商業流通との間にみられる諸関係をカナダ、ロシアおよび太平洋地域の事例を用いて検討した。太平洋地域のナマコやハタ類、ロシア極東やアラスカのサケ、カナダやアラスカの毛皮獣の減少や枯渇化は国際市場の需要と密接に関係していることが指摘された。一方、先住民がおもに食用や自家用に捕獲している海洋資源については、他の人々と資源利用や捕獲において競合していない場合には、それら資源の保全管理が比較的効果的に機能していることが判明した。しかし、先住民社会における貨幣経済の浸透や職業の社会内分化のために、シロイルカなど希少な資源はコミュニティー全体では分配されなくなりつつあるという問題が存在していることが判明した。