国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

音楽と身体に関する民族美学的研究

共同研究 代表者 山田陽一(客員)

研究プロジェクト一覧

音楽は、指先や口元だけで生みだされるのではないし、聴覚だけをとおして受けとめられるわけでもない。音楽を生成し、受容するのは、さまざまな感覚が連動する場としての身体にほかならない。本研究は、この音楽と身体の本質的な関わりあいについて、諸民族固有の美意識や身体感覚を追究する民族美学の観点から解明することを目的としている。

音楽と身体とが、きわめて密接な関係にあるにもかかわらず、音楽学ではこれまで、身体に着目したアプローチは稀であった。また、音楽に関する美意識や身体感覚をクローズアップする民族美学的アプローチも、ほとんど試みられてはいない。それゆえ、民族音楽学、音楽美学、音楽史学、舞踊学、文化人類学のスペシャリストによっておこなわれる本研究は、音楽学の研究パラダイムにたいして、根本的な変換をせまることになるだろう。

2005年度

【館内研究員】 寺田吉孝、福岡正太、南真木人
【館外研究員】 伊東信宏、岡田暁生、小林正佳、椎名亮輔、柴田佳子、卜田隆嗣、中川真、増田聡、渡辺裕
研究会
2005年7月9日(土)10:00~(第7セミナー室)
山田陽一「音楽する身体の美学」
小林正佳「硬い身体と柔らかい身体」
2005年11月6日(日)10:00~(第6セミナー室)
増田聡「テクノ音楽の美学-音楽・機械・身体性」
ト田隆嗣「音楽的身体を語ること」
2006年1月28日(土)10:00~(第4セミナー室)
伊東信宏「ヴァイオリンを弾く身体」
中川真「これはダンスか?」
2006年2月11日(土)10:00~(第6セミナー室)
椎名亮輔「音楽の現象学―演奏の審級」
岡田暁生「西洋音楽の身体はなぜ学問対象になりにくいのか」
2006年3月10日(金)10:00~(第6セミナー室)
寺田吉孝「南インド音楽における手の動きについて」
柴田佳子「ジャマイカにみるやわらかな身体と音の響宴─音で紡ぐ宗教儀礼の諸相から」
研究成果

本年度は、3年計画の最終年度にあたるため、成果公表にむけて、すべて共同研究員による研究発表をおこない、それらをもとに、個別討論と総括討論を積み重ねていった。本年度に取り上げられた研究テーマは次のとおりである。「身体的快楽発生装置としての音楽」(山田)、「踊る身体の脈絡」(小林)、「テクノにおける身体性」(増田)、「社会的に構築される音楽的身体」(卜田)、「身体の動きと音の動き」(伊東)、「障害ある人たちの即興パフォーマンスにおける身体性」(中川)、「音楽的美的経験と身体の現象学」(椎名)、「作品音楽への身体論的アプローチ」(岡田)、「リズムの身体化」(寺田)、「儀礼における身体性と身体知」(柴田)。いずれのテーマも、各共同研究員が、個々の専門領域から身体へと果敢に切り込んでいった成果であり、それらが交錯しあい、重なりあうことによって、音楽と身体の豊穣な関係はかなり解きほぐされてきたといえる。

共同研究会に関連した公表実績

山田陽一 2005a「音楽する身体の地平」『民博通信』111:2-3。
山田陽一 2005b「響きあう声・身体・パトス」『民博通信』111:13-15。
山田陽一、岡田暁生、伊東信宏、中川真 2005c「リーディング・ガイド」『民博通信』111:16-17。
岡田暁生 2005「練習曲の思想と均質化する指たち」『民博通信』111:4-6。
伊東信宏 2005「ロマの楽師になる」『民博通信』111:7-9。
中川真 2005「サウンドアートと耳─表層の聴取へ」『民博通信』111:10-12。

2004年度

【館内研究員】 寺田吉孝、福岡正太、南真木人
【館外研究員】 伊東信宏、岡田暁生、小林正佳、椎名亮輔、柴田佳子、卜田隆嗣、中川真、増田聡、渡辺裕
研究会
2004年6月19日(土)10:00~(第6セミナー室)
岡田暁生「ピアニストになりたい!─音楽する身体の機械化と十九世紀」
近藤秀樹「テクネーとテクノロジー ─ 身体論的音楽論への助走として」
2004年7月24日(土)10:00~(第3セミナー室)
中川真・佐久間新「ジャワ式身体 ─ 舞踊と音楽」
三輪真弘「”またりさま”における文化とからだ」
2004年10月16日(土)10:00~(第7セミナー室)
寺田吉孝「アジア系アメリカ音楽における身体性について」
谷正人「イラン音楽における「手癖」と「即興演奏」」
2004年11月27日(土)10:00~(第1セミナー室)
柴田佳子「ダンスホールの"slackness"とリヴァイヴァリストのトランスにみるリズム・音・身体」
米山知子「フィールド報告:トルコ・アレヴィーの儀礼ジェムにおける身体性」
2005年12月25日(土)10:00~(第7セミナー室)
竹村嘉晃「実践する身体、「モノ」としての身体-南インド・ケーララ州の儀礼パフォーマンスを取り巻く現代的状況へのアプローチ」
大里俊晴「声の諸相」
研究成果

本年度におこなわれた10本の研究発表で論じられたテーマは、「19世紀のピアノ演奏技術の習得法」「演奏の『技術』とは何か」「ジャワのコスモロジーの身体的表象としての舞踊、およびその音楽との関係」「逆シミュレーション音楽における身体」「イランの楽器サントゥールの即興演奏における身体感覚」「日系アメリカ人による太鼓演奏およびフィリピン系アメリカ人によるクリンタン音楽における身体の意味」「ダンスホール・レゲエおよびリヴァイヴァリストの儀礼における音・リズム・身体」「南インドの儀礼パフォーマンスにおける身体の意味の変遷」「多様な声にみられる肌理と直接性」といったぐあいに、その対象とする音やパフォーマンスは非常に多岐にわたっており、それゆえ、音楽と身体の関わり方について通文化的な理論化をおこなうための格好の材料となった。

2003年度

【館内研究員】 寺田吉孝、福岡正太、南真木人
【館外研究員】 伊東信宏、岡田暁生、小林正佳、椎名亮輔、柴田佳子、卜田隆嗣、中川真、増田聡、渡辺裕
研究会
2003年5月10日(土)10:00~(第6セミナー室)
山田陽一「研究会の進め方について」
伊藤信宏「分析が語らなかった身体」
2003年6月28日(土)10:00~(第6セミナー室)
椎名亮輔「アルジェリアのライ」
大里俊晴「ロックと身体」
2003年7月25日(金)10:00~(第6セミナー室)
増田聡「非=身体的な音楽? ─ クラブ・ミュージック、グルーヴ、編集される身体性」
慶田勝彦「音楽と旅する文化 ─ アフリカ音楽の真正性についての覚書き」
2003年10月11日(土)10:00~(第4セミナー室)
鈴木裕之「アビジャン・ラップとストリート・ダンス:現代アフリカのマス・コミュニケーション空間で生成される<身体性>と<音楽性>」
小林正佳「言葉による動きの分節」
2003年12月20日(土)13:30~(第4セミナー室)
ト田隆嗣「クダ・クパンとその身体性の越境」
石橋純「境界を超えたラテンアメリカ民衆音楽 ─ 周縁的「美」「身体」「言語」とグローバルな感性」
2004年1月31日(土)10:00~(第7セミナー室)
大久保賢「『現代音楽』の身体性 ─ 身体技法から20世紀前衛音楽を読む」
クリストフ・シャルル「"Undirected": pratiques de la (de)composition/アンディレクテッド:(非)作曲の方法」
研究成果

2003年度は初年度にあたり、計6回の研究会を開催した。そこで議論のたたき台として提示された音楽は、アルジェリアのライ、ケニアの憑依音楽、コートジボワールのストリート・ミュージック、ドミニカのバチャータとコロンビアのパジェナート、マレーシアの芸能クダ・クパン、岩手の山伏神楽、UKとUSAのロック、日本と欧米のクラブ・ミュージック、ルーマニア人作曲家G・クルターグの作品、ヨーロッパの現代音楽ときわめて多岐にわたっており、それらの音楽と身体との関わりについて多角的な議論をおこなった。