健康・医療・身体・生殖に関する医療人類学の応用学的研究
目的
医療人類学に対する医療の現場からの、研究成果への期待は多様でかつ大きい。その背景として、先進工業国においては高齢化や慢性疾患の増加が医療費を増大させ、社会的政治的問題として顕在していること、患者が医療に期待する内容は多様化しており、医療は「死」をも対象としなければならなくなっていることなど、絶え間なく社会的文化的要因によって、その活動と目的に変更を迫られている。一方、医療後進地域においてはHIV・AIDSをはじめとする新たな感染症の脅威に常にさらされ、階層格差は健康の格差として常に存在する。医学の進歩は必ずしも人間の幸福につながらずWHOの目指すところにはなかなか到達できないのが現状である。本研究は医療の実践家をメンバーに含み、またゲスト・スピーカーとして議論に参加してもらい、文化人類学の立場からの医療人類学と、医療の実践者の立場からの医療人類学との接点を明らかにし、それからさらには新たな研究の理論と方法を開拓する目的と意義を持つものである。
研究成果
研究成果は『国立民族学博物館調査報告(SER):健康・医療・身体・生殖に関する医療人類学の応用学的研究』として平成20年度に刊行される。また、外部機関との連携・共同主催による外部の研究者や医療・保健の実務者を迎えて行った博物館外での「サテライトシンポジウム」のうち、第2回の「エスノグラフィーの実践:医学・医療における医療人類学の可能性」(東京武蔵病院での公開シンポジウム)の報告は多文化間精神医学会の機関誌『こころと文化』4巻2号(2005年10月刊)に掲載された(88~129ページ)。また、第3回の「生殖のストラテジー」(国立青少年総合センターでの公開シンポジウム)は、お茶の水女子大学21世紀COE、F-GENS Publication Series14『性と生殖・国家の政策』に掲載された(2006年3月刊、125~203ページ)。さらに、研究会で中心的に議論された「フィールド」あるいは「現場」における応用と実践、その方法論と問題点については日本文化人類学会第41回研究大会(名古屋大学)において分科会「<現場>への挑戦/<現場>からの挑戦―応用・実践を目指した文化人類学の再検討」(代表:松岡悦子)を行い、2年半におよぶ研究会の成果の一部を報告した。研究成果の中で最も中心的な議論となったのは次の点である。
- 応用・実践の場合、応用をする場や実践者の目的、計画や実践の速度、成果に対する評価のあり方と応用学を目指す研究者との間に存在するズレを把握し、またその解消するための実践上の方法論。
- 応用・実践の「場(現場)」と文化人類学者にとっての「場(現場・フィールド)」の違いに見られる文化人類学における理論。
こうした議論は発展させられ、順次著書として刊行されることが検討されている。
2007年度
研究成果とりまとめのため延長(1年間)
【館内研究員】 | 田村克己 |
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【館外研究員】 | 小田博志、加賀谷真梨、新福尚隆、仲川裕里、波平恵美子、星野晋、松岡悦子、道信良子、宮下克也 |
研究会
-
2007年5月19日(土)10:00~18:00
2007年5月20日(日)10:00~13:00 - @北海道大学東京オフィス(東京駅八重洲北口、サピアタワー10階)
- 全員「出版社(春秋社)の担当編集者も含めての編集会議」
-
2007年9月29日(土)13:00~17:00
2007年9月30日(日)9:00~12:00 - @国立民族学博物館(第3演習室)
- 報告書の成果とりまとめについて(全員)
- 2008年3月1日(土)13:00~18:00(国立民族学博物館 第2演習室))
- テーマ:「応用人類学、実践人類学の今後の課題」
- 発表者:全員
研究成果
平成19年度の研究成果のうち重要なものは次の2点である。
- 研究目的である医療人類学の応用的研究において、本共同研究メンバーそれぞれが取り組んでいる具体的なテーマに即して必要とされる理論について議論を重ねたこと。即ち、予防医療における教育プログラム、地域医療、生殖、老人福祉、家族計画等の研究において、応用人類学、実践人類学という枠組みにおける理論的特徴を明らかにすることであり、議論の一端を平成19年度の日本文化人類学会研究大会の分科会(代表者・松岡悦子)において報告した。
- 文化人類学の成果でもあり、中心的方法論でもある「フィールドワーク」「エスノグラフィー」についての応用人類学における議論を深め、今後の刊行について検討した。
2006年度
本年度の研究活動は大きく2つある。一つには本年度(平成18年度)は研究の最終年度に当たるため、是までの研究によって得られたものをそれぞれのメンバーがまとめ発表し、議論を通して研究のレベルを高めることを目指す。また、その成果を刊行することを目的とし、全体としての研究成果の検討を始める。二つには、初年度、及び昨年度に引き続き、サテライト研究会であると同時に公開シンポジュウムを福岡市において開催する。福岡市には、九州大学、西南学院大学を初めとして、多くの文化人類学の研究者が活動しており、日本文化人類学会の下部組織でもある九州人類学研究会の根拠地でもある。福岡市におけるサテライト研究会において、メンバーの研究成果を広く公表すると共に、多くの意見を得てより研究レベルを挙げる機会としたいと考えている。
【館内研究員】 | 田村克己 |
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【館外研究員】 | 江口重幸、小田博志、加賀谷真梨、新福尚隆、仲川裕里、星野晋、松岡悦子、道信良子、宮下克也 |
研究会
- 2006年5月13日(土)14:00~ / 14日(日)9:00~(第4演習室)
- 仲川裕里「韓国における学校性教育の現状と課題」
- 宮下克也「沖縄における親族と地域による子育て支援」
- 2006年7月8日(土)10:00~ / 9日(日)9:00~(第3演習室)
- 星野晋「地域保健・医療の今後について~医療人類学からの提言~」
- 2006年9月30日(土)10:00~ / 10月1日(日)9:00~(第4演習室)
- 星野晋「地域の健康力~高齢化する地域社会における新しい保健・医療環境の創造に向けて~」
- 全員「星野へのコメント、及び、今後の研究打ち合わせ」
- 2006年10月28日(土)10:00~ / 29日(日)9:00~(第4演習室)
- 宮下克也「沖縄社会における子育て支援の諸相」
- 全員「宮下へのコメント、及び、今後の研究打ち合わせ」
- 2006年11月25日(土)10:00~(宇部市文化会館)
- 公開共同研究会「「地域の健康力」 ~ 地域の健康づくりを専門家と市民で考えるシンポジウム ~」
- 2006年11月26日(日)9:00~(宇部市文化会館)
- 全員「成果とりまとめについての打ち合わせ」
- 2007年3月17日(土)10:00~(第3演習室)
- 道信良子「企業におけるHIV/AIDS対策に関する保健医療政策分析」
- 小田博志「コメント」
- 全員「成果とりまとめについての打ち合わせ」
- 2007年3月18日(日)9:00~(第3演習室)
- 全員「成果とりまとめについての打ち合わせ」
研究成果
平成18年度の研究成果のうち重要なものは次の2点である。
- 研究目的である医療人類学の応用的研究において、本共同研究メンバーそれぞれが取り組んでいる具体的なテーマに即して必要とされる理論について議論を重ねたこと。即ち、予防医療における教育プログラム、地域医療、生殖、老人福祉、家族計画等の研究において、応用人類学、実践人類学という枠組みにおける理論的特徴を明らかにすることであり、議論の一端を平成19年度の日本文化人類学会研究大会の分科会(代表者・松岡悦子)において報告する。
- 山口県宇部市における宇部市医師会、山口県宇部健康福祉センター、山口医療環境学研究会との共同開催による公開シンポジウムにおいては、地域医療、保健に直接携わる人々が直面する諸問題が、医療人類学の研究視点によってある程度解決したり、解決のヒントを実践者に与えることが可能であることが確認された。この成果については、平成19年度刊行の民博報告書に発表する。
2005年度
【館内研究員】 | 田村克己 |
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【館外研究員】 | 江口重幸、小田博志、加賀谷真梨、新福尚隆、仲川裕里、星野晋、松岡悦子、道信良子、宮下克也 |
研究会
- 2005年5月20日(金)15:00~(札幌医科大学記念ホール)
- 星野晋「生活者、患者、医療者:それぞれの『病い』の語り」
- 2005年7月9日(土)9:00~ / 10日(日)(第3演習室)
- 白浜雅司「1700人の村の診療所医師として働いて」
- 星野晋「地域保健と文化人類学の接点:保健師は人類学者をどのように活用しうるか」
- 新福尚隆「臨床におけるヒアリングとエスノグラフィーの接点」
- 白浜喜恵子「コメント」
- 2005年8月24日(水)13:30~(立命館大学衣笠キャンパス創思館カンファレンスルーム)
- 江口重幸「医療人類学と日本におけるヘルスケア思想の変容」
- 星野晋「保健士の地域活動」
- 松岡悦子「コメント」
- 2005年10月16日(日)9:00~(国立オリンピック記念青少年総合:東京・代々木)
- 国立民族学博物館&お茶の水女子大学21世紀COEプログラム ジェンダー研究のフロンティア主催公開シンポジウム「生殖のストラテジー:日本、韓国、沖縄の比較を通して」
- 発表者:荻野美穂、佐藤龍三郎、山地久美子、松本綾子
- コメンテーター:中川祐里、宮下克也
- 2005年12月17日(土)10:00~ / 18日(日)9:00~(第4演習室)
- 萱場一則「地域住民を対象とした脳卒中予防 ─ 理論と実践、および成果 ─」
- 江口重幸「MitchellのRest Cure:神経衰弱症・フェミニズム・力動精神医学」
- 2006年3月4日(土)14:00~ / 5日(日)9:00~(第4演習室)
- 波平恵美子「医療人類学と他領域とを繋ぐ方法論について」
研究成果の概要
平成17年度の研究成果は大きく二点ある。一つには、日本における地域医療の現状の把握とそれが抱える問題点を明らかにし、医療人類学の理論が専ら医療後進国における医療の状況を基礎資料として発展してきたが、日本のような医療先進国が抱える地域医療の問題点を明らかにし、その解決のための方策について提示する必要性とその方策の一部を明らかにできたことである。二つには、人口学やジェンダー研究の領域における「少産化現象と社会の対応」の論議において、「生殖」観に対して、医療人類学の領域からより広い文脈での議論の可能性を発見できたことにある。
共同研究会に関連した公表実績
- 出版:『F-GENSPublication Series14 性と生殖・国家の政策』
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公開シンポジウム:平成17年10月16日(日)
「生殖のストラテジー 日本、韓国、沖縄の比較を通して」
(於:代々木オリンピック記念青少年総合センター センター棟 310号室)
2004年度
【館内研究員】 | 田村克己 |
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【館外研究員】 | 江口重幸、小田博志、新福尚隆、仲川裕里、星野晋、松岡悦子、道信良子、宮下克也 |
研究会
- 2004年10月16日(土)13:00~ / 17日(日)9:00~(第4演習室)
- 星野晋、松岡悦子、江口重幸、道信良子「健康・医療・身体・生殖に関する医療人類学の応用学的研究に向けて」
- 加賀屋真梨「沖縄県における性教育の地域差と歴史的な変遷」
- 2004年11月13日(土)10:00~(東京武蔵野病院)
- 野田文隆・横尾京子・丸井英二・小田博志・星野晋・松岡悦子・道信良子「エスノグラフィーの実践 ─ 医学・医療における医療人類学の可能性」
- 2005年1月29日(土)13:00~ / 30日(日)9:00~(第4演習室)
- 新福尚隆「国際保健の優先課題と医療人類学」
- 松岡悦子「マテニティーブルーは文化結合症候群か?」
- 2005年3月5日(土)13:00~ / 6日(日)9:00~(第4演習室)
- 小田博志「エスノグラフィーの教科書に関する素案」
- 田村克己「エスノグラフィー『ド・カモ』を読む」
研究成果
各研究会において活発に議論された点は、文化人類学的知見が医療・健康・病気・身体・生殖に関わる諸問題にどのように理論的貢献を為し得るかであった。さらに、議論の内容をふまえて、教科書の作成の可能性を探り、文化人類学の応用学的側面と文化人類学にとってのエスノグラフィーの位置づけ、及びその意味についての議論を深めた。特に、公衆衛生・海外医療援助の場において、医療人類学的知見の必要性とそれへの対応の実践可能性の具体的議論は実りの多いものであり、いずれ研究成果として公表される予定である。