アジア・アフリカ諸国における裁判外紛争処理の再編が旧来の多元的法体制に与える影響についての共同研究
目的
今日、司法改革の一環として、様々な裁判外紛争処理(ADRに代表される)を制度面で拡充しようとする動向が、世界各地に広がりつつある。裁判外の様々な紛争処理が従来から運用されてきた地域にとって、またそれらについての事例研究を積み重ねてきた法人類学にとって、今日注目される「オルタナティブ」のどこがどう新しいのかは一見すると不可解である。だが、これまで認められていなかった裁判外の紛争処理の積極的意義と役割が、新たに「公認」されるようになったことで、公式法・司法を頂点とする旧来の多元的法体制(植民地支配に由来する)の制度構造に、これまでにない変化を引き起こす可能性がある。本研究は、このようなオルタナティブ・アプローチの導入または裁判外紛争処理の再編が、旧来の多元的法体制に与える影響について、人類学と法律学の若手がアジア・アフリカ諸国の事例を検討し、「オルタナティブ・ジャスティス」の可能性を理論・実践両面で検討する萌芽的プロジェクトである。
研究成果
本共同研究全体の成果は、2010年度内に単行書(論文集)として出版する予定である。本書は、従来の裁判制度にたいする多様なオルタナティブ・アプローチについて、とくに次のふたつの問題関心を中心に批判的に考察するものになる。第一は、多元的法体制研究から導かれる問題関心である。第二は、ホリスティックな〈社会〉学の手法によって狭義のジャスティス(司法)のみならず広義のジャスティス(正義)をも考察しようとする問題関心である。この点もふくめての研究成果の概要については、2010年10月5日の成果報告会での口頭発表(成果報告会のレジメ)と、『民博通信』129号掲載の記事「オルタナティブ・ジャスティス:法と社会の新たなパラダイム」(石田慎一郎単著)にて報告している。そのほか、本共同研究に関連する成果として既に刊行されているものは次のとおりである。2009年に本共同研究が共催参加した国際ワークショップの成果として『コンフリクトの人文学』2号の特集「移行期社会におけるオルタナティブ・ジャスティス」がすでに刊行されている(石田慎一郎、河村有教、海野るみ、ステファン・パーメンティア、加藤敦典、久保秀雄、高野さやか、馬場淳、クラウディア・イトゥアルテ=リマ共著)。また、角田猛之・石田慎一郎編『グローバル世界の法文化:法学・人類学からのアプローチ』(福村出版、2009年8月)には、石田・河村・久保・薗・馬場が本共同研究に関連する論文を寄稿している。『ノモス』24号(関西大学法学研究所)の特集「インドネシアの多様な法制度と法文化:法人類学と多元的法体制」(全51頁)には、石田・高野が執筆している。このほか、特筆すべき関連業績として、Shin-ichiro Ishida(石田慎一郎), Legal pluralism and human rights in a Kenyan court, in M. O. Hinz ed., In search of justice and peace: Traditional and informal justice systems in Africa, 2010、久保秀雄「司法政策と社会調査」『法の流通』2009年、などがある。
2009年度・2010年度
2008年度は、共同研究会・国際ワークショップを重ね、理論・事例研究をすすめてきた。2009年度は、オルタナティブ・ジャスティスを法人類学・法社会学・法実務の観点から総合的に検討する和文論文集ならびに英文論文集の刊行にむけた共同研究会を実施する。10月開催の研究会では、第1稿の読み合わせを1泊2日で集中的に実施する。11月開催の研究会では、加筆修正の確認と最終原稿にむけた意見交換をおこなう。1月開催の研究会では、論文集出版のための編集打ち合わせをおこなう。以上の論文集出版の準備作業のほかにも、4月開催、7月開催、11月開催の研究会では、(1)開発法学(安田理論)、(2)先住民の知的財産権、(3)専門家証人をめぐる人類学と法実務の接点を各回の主要テーマに定め、これらをオルタナティブ・ジャスティス研究の視点から検討する。これらの成果は、論文集刊行に加えて、国立民族学博物館研究報告等の査読制学術雑誌への投稿論文として公開することを目指す。
【共同研究員】 | 河村有教、久保秀雄、薗巳晴、高野さやか |
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研究会
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2009年4月18日(土)13:30~18:30(国立民族学博物館 第3セミナー室)
2009年4月19日(日)9:30~12:00(国立民族学博物館 第3セミナー室) - 現代法における多元的法体制(論)の意義と安田理論の所在――「オルタナティブ・ジャスティス」の理論と実践の構想に向けた緒言:薗巳晴
- パプアニューギニアにおけるオルタナティヴ・ジャスティスの模索――ブーゲンヴィル紛争後の修復的プロセスを事例に:馬場淳(特別講師)
- 日本の裁判外紛争解決と時間:荒井里佳(特別講師)
- 平成21年度の共同研究会の開催計画について:全員
- 第3回研究会(4/18-4/19)のプログラムと報告要旨
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2009年7月4日(土)13:30~18:30(国立民族学博物館 第7セミナー室)
2009年7月5日(日)9:30~12:00(国立民族学博物館 第7セミナー室) - Legal Mechanisms for Environmental Justice and Intellectual Property Governance: Claudia Ituarte-Lima(クラウディア・イトゥアルテ-リマ)
- Space for Alternative Justice: Locating Academia in Alternative Dispute Resolution: Toru Yamada(山田亨)=特別講師
- 研究成果のとりまとめにむけて:全員
- 第4回研究会(7/5-7/6)のプログラムと報告要旨
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2009年10月24日(土)13:30~18:30(国立民族学博物館 第1セミナー室)
2009年10月25日(日)9:30~15:30(国立民族学博物館 第1セミナー室) - 石田慎一郎「思想としてのオルタナティブ・ジャスティス」「ケニア中央高地ニャンベネ地方における義兄弟の役割」
- 河村有教「中国の刑事和解に係る一考察」
- 久保秀雄「ローカルな社会契約の創出:コミュニティ・ジャスティスへの挑戦」
- 高野さやか「インドネシアの司法改革における法とそのオルタナティブ:ADR論の展開とアダットの位置」
- 荒井里佳(特別講師)「日本における紛争解決の分析と展望:日本型ADRと調停手続における弁護士の役割」
- 海野るみ(特別講師)「南アフリカの伝統的指導者議会と慣習法」「真実と和解の記憶」
- 加藤敦典(特別講師)「『義』のない風景:ベトナムの和解組を支える関係志向イデオロギーの解体にむけて」
- 馬場淳(特別講師)「パプアニューギニアからオルタナティブ・ジャスティスを考える:ブーゲンビル紛争の修復的プロセスを事例に」
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2009年11月28日(土)13:30~19:00(国立民族学博物館 第1セミナー室)
2009年11月29日(日)9:30~15:00(国立民族学博物館 第1セミナー室) - 朴艶紅「労災紛争からみた現代中国の紛争処理と法:1990年代に宝安・龍崗両地でおきた事例を中心に」
- 赤尾光春「ユダヤ教超正統派神学生の麻薬所持裁判をめぐる一考察」
- 石田慎一郎・荒井里佳・馬場淳・山田亨「専門家証人における人類学と法実務の接点」
- 山田亨「裁判外紛争処理における法の正義のゆくえ:バイオ特許紛争に見られる裁判外紛争処理の問題点」
- 研究成果のとりまとめにむけて:全員
- 2010年1月23日(土)13:30~19:00(国立民族学博物館 第1セミナー室)
- 成果報告論集取りまとめに関する打合せ
- 2010年7月3日(土)13:30~17:00(国立民族学博物館 第3セミナー室)
- 前回までの研究課題総括および成果報告論集の編集会議
研究成果
2009年に本共同研究が共催参加した国際ワークショップの成果として『コンフリクトの人文学』2号の特集「移行期社会におけるオルタナティブ・ジャスティス」がすでに刊行されている(石田慎一郎、河村有教、海野るみ、ステファン・パーメンティア、加藤敦典、久保秀雄、高野さやか、馬場淳、クラウディア・イトゥアルテ=リマ共著)。本共同研究全体の成果は、2010年度内に単行書(論文集)として出版する予定である。これら研究成果の概要は『民博通信』129号掲載の記事「オルタナティブ・ジャスティス:法と社会の新たなパラダイム」(石田慎一郎単著)にて詳述している。このほか、特筆すべき関連業績として、Shin-ichiro Ishida(石田慎一郎), Legal pluralism and human rights in a Kenyan court, in M. O. Hinz ed., In search of justice and peace: Traditional and informal justice systems in Africa, 2010、久保秀雄「司法政策と社会調査」『法の流通』2009年。
2008年度
本共同研究は、2年間の研究実施期間であることを考慮して研究対象を積極的に限定したが(裁判外紛争処理の再編が旧来の多元的法体制に与える影響を研究する)、オルタナティブ・ジャスティスの世界的動向をより広範囲に研究対象とする大阪大学グローバルCOEコンフリクトの人文学国際研究教育拠点による共同研究プロジェクト(オルタナティブ・ジャスティスの世界的動向に関する共同研究)と緊密に連携(資料と知見の共有)することで、理論・事例研究を補強することができる。 本共同研究は、国立民族学博物館において各年度5回の共同研究会を実施する。公開研究会と非公開研究会とを組み合わせることにより、緻密な討議と幅広い成果公開とを円滑にすすめたい。また、平成21年2月には大阪大学グローバルCOEによる上記共同研究において国際ワークショップを開催する予定であり、本共同研究との共催により、充実した研究交流事業に発展させることを検討したい。
【共同研究員】 | 河村有教、久保秀雄、薗巳晴、高野さやか |
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研究会
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2008年12月6日(土)13:30~18:30(国立民族学博物館 第6セミナー室)
2008年12月7日(日)9:30~12:00(国立民族学博物館 第6セミナー室) - 趣旨説明:石田慎一郎
- 司法政策と社会調査――ADR運動の歴史的展開をめぐって:久保秀雄
- 中国における刑事和解と法文化:河村有教
- 「真実」の行方――南アフリカの真実和解委員会とその後:海野るみ(特別講師)
- 海外研究文献講読会:全員
- 第1回研究会(12/6-7)のプログラムと報告要旨
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2009年1月24日(土)13:30~18:30(国立民族学博物館 第3セミナー室)
2009年1月25日(日)9:30~12:00(国立民族学博物館 第3セミナー室) - 海外研究文献紹介:石田慎一郎、河村有教、高野さやか、海野るみ、Claudia Ituarte-Lima(以上、担当者5名)
- 研究打ち合わせ:全員
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2009年2月7日(土)13:00~17:30(大阪大学人間科学研究科東館106講義室)
2009年2月8日(日)10:00~12:30(大阪大学人間科学研究科東館106講義室) - 国際ワークショップ「Understanding Alternative Justice in Transitional Societies: Truth and Reconciliation Commissions and Beyond」への共催参加
- 第1回国際ワークショッププログラム
研究成果
本共同研究の成果は、2年計画の2年目にとりまとめ、単行書(論文集)として出版する予定である。また、本共同研究が共催参加した国際ワークショップの成果は、『コンフリクトの人文学』2号の特集「移行期社会におけるオルタナティブ・ジャスティス」(本特集のみで全123頁)として刊行されることがきまっており、ここには石田・河村・久保・薗・高野のほか、海野るみ(特別講師)・加藤敦典(特別講師)・馬場淳(特別講師)が執筆している。ほかにも、本共同研究に関連する論文を、角田猛之・石田慎一郎編『グローバル世界の法文化:法学・人類学からのアプローチ』(福村出版、2009年8月)に石田・河村・久保・薗・馬場が、『ノモス』24号(関西大学法学研究所)の特集「インドネシアの多様な法制度と法文化:法人類学と多元的法体制」(全51頁)に石田・高野が執筆している。出版予定の論文集(上述)には、以上の若手研究者に加えて、特別講師として参加した山田亨とクラウディア・イトゥアルテ=リマを含む全関係者の論文を所収予定である。