オセアニアにおける独立期以降の<紛争>に関する比較民族誌的研究
キーワード
紛争、暴力、オセアニア
目的
冷戦以降の第三世界における民族紛争の増加や、低強度紛争という新たな戦争形態の出現という近年の変化と、応用研究に対する関心の高まりと相即して、広い意味での紛争に関する人類学的研究は、増加傾向で、人間の安全保障、平和構築などの新たな視点からの理論構築や事例分析がなされている。本研究では、こうした理論的な先行研究を踏まえた上で、オセアニア地域研究という視点から紛争に関する比較民族誌的な考察を行いたい。ことにオセアニアにおいては、植民地時代の政治闘争以降の政治的に安定した時期を経て独立をはさみ、1990年代後半から暴動から民族紛争、クーデタまでさまざまな政治的問題が起きている。しかし、オセアニア地域の政治的不安定性に関わる諸問題をどう理解するか、あるいはそれらをどう記述・分析するかに関して総合的な見地からの研究は不足している。そこで、本研究ではそうした諸問題をひろく<紛争>としてとらえ、<紛争>とその処理及び常態への回復の様態について、比較民族誌的に検討することを通じて総合的な見地から見直しをはかると同時に、記述する側と対象社会の関係をも視野に組み込んだ新たな<紛争>の民族誌を案出することを目的としている。
研究成果
3年半の共同研究会のあいだに、合計11の研究会を開催し、20名による発表を行った。
研究成果としては、共同研究会の参加メンバー6人とそれ以外のメンバー3人よる原稿を集めて編著(丹羽典生・石森大知(編)『現代オセアニアの〈紛争〉――脱植民地期以降のフィールドから』 昭和堂)を刊行した。本書を通じて、現代のオセアニアにおいて、どのような政治的問題が起きているのかについて、独立以降という歴史的視角から、見取り図を描いた。
それ以外にも、本研究会と関係するシンポジウム及びワークショップを、それぞれ1回開催している。ひとつめが、地域研究コンソーシアムによるワークショップ「現代の紛争をめぐる地域間比較研究に向けて――アフリカとオセアニアの事例から考える」(2012年12月9日、国立民族学博物館、代表:藤井真一)である。このシンポジウムを通じて、本共同研究会の成果を、アフリカという紛争研究の中心地と比較することで、オセアニアから紛争を考える際の示唆を得ることができた。もうひとつが、研究代表者が主催した国際シンポジウム「グローバル化における紛争と宗教的社会運動――オセアニアにおける共生の技法」(2013年1月26日、国立民族学博物館)である。海外からの第一線の研究者を招いて、現代の紛争と植民地期に生起した宗教的社会運動との、連続性と差異に関する議論を行った。本シンポの結果、両者をつなぐ視点としての「希望」や「感情」の重要性、分析する際にジェンダー差についてさらに配慮する必要性などがあきらかとなった。
2012年度
本年度は、昨年度まで開催した研究会の成果を踏まえつつ、また、各人の発表以降の<紛争>の動向にも注意しつつ、議論を重ねることで、研究成果の公開に向けた作業を行う。<紛争>にかかわる理論という一般的な軸と、オセアニアという具体的な地域的枠をかけることがみえてくる個別的な要因とが交叉するなかでみえてくる、特性をあきらかにしたい。そのために、共同研究会を2回開催することを予定している。
【館内研究員】 | 須藤健一 |
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【館外研究員】 | 石森大知、岩本洋光、小柏葉子、風間計博、行木敬、比嘉夏子、深川宏樹、深山直子、三田貴、宮澤優子、山本真鳥、吉岡政德 |
研究会
- 2012年11月17日(土)13:30~19:15(国立民族学博物館 第1演習室)
- 全員「成果とりまとめと出版について」
- 2012年12月26日(水)13:30~19:15(国立民族学博物館 第4演習室)
- 参加者「成果とりまとめと出版について」
研究成果
本年度は、昨年度まで開催した研究会の成果を踏まえつつ、また、各人の発表以降の<紛争>の動向にも注意しつつ、議論を重ねることで、研究成果の公開に向けた作業を行った。研究会を2回開催することで、<紛争>にかかわる理論という一般的な軸と、オセアニアという具体的な地域的枠をかけることがみえてくる、一般的な特徴と個別的な要因が交叉する現状がみえてきた。また、共同研究終了後の研究計画の立案に向けた話し合いも行った。
2011年度
本年度は、オセアニアの<紛争>の具体的状況について、各メンバーから事例研究に基づく発表を4回予定している。特別講師を含めて毎回2名程度の発表者に依頼し、<紛争>が起きた特殊個別的な要因を事例から探る。発表はおおむね、地域やテーマにそった形で実施していきたい。具体的には、紛争と地域機構との関係(地域協力機構、介入の問題)、ソロモン諸島(開発、平和構築)、パプアニューギニア(選挙制度、都市問題)、メラネシア(フィジーの地方分離主義、ヴァヌアツの宗教的社会運動、ニューカレドニアの暴動)となる予定である。
【館内研究員】 | 須藤健一 |
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【館外研究員】 | 石森大知、岩本洋光、小柏葉子、風間計博、関根久雄、行木敬、比嘉夏子、深山直子、三田貴、宮澤優子、山本真鳥、吉岡政德 |
研究会
- 2011年7月2日(土)13:30~19:00(国立民族学博物館 第1演習室)
- 綾部真雄(首都大学東京)「時事人類学の試み――タイ政変の輪郭を点描する」
- 藤井真一(大阪大学)「『エスニック・テンション』とは何であったのか―ソロモン諸島における民族間関係を理解するために」
- 総合討論
- 2011年11月26日(土)13:00~19:15(国立民族学博物館 第3演習室)
- 小柏葉子(広島大学)「フィジー紛争をめぐる地域的安全保障協力――太平洋諸島フォーラムにおける求心力と遠心力の動態」
- 深川宏樹(筑波大学)「ニューギニア高地における争いの拡大の論理――クラン間の敵対関係と友好関係の並存」
- 田所聖志(東京大学)「パプアニューギニア・ガルフ州における液化天然ガス資源の開発による現地社会への影響」
- 2011年12月17日(土)13:30~19:15(国立民族学博物館 第3演習室)
- 岩本洋光(JICAパプアニューギニア事務所)「パプアニューギニアの現代政治への考察 2007年~2012年」
- 丹羽典生(国立民族学博物館)「統合と分裂のはざま――フィジー西部地方の分離独立問題」
- 市川哲(立教大学)「パプアニューギニアにおける都市暴動と中国系住民」
- 2012年3月10日(土)13:30~19:15(国立民族学博物館 第3演習室)
- 石森大知(東京外国語大学アジアアフリカ言語文化研究所)「「民族紛争」とカストム復興-ガダルカナル島北東部の人びとの経験」
- 宮澤優子(インテック・ジャパン)「ブーゲンビル――10年内戦と若者たち」
- 深川宏樹(筑波大学)「ニューギニア高地エンガ州における鉱山開発と土地問題」
研究成果
本年度は、オセアニアの<紛争>の具体的状況について、各メンバーから理論研究と事例研究に基づく発表を4回行った。初回においては時事人類学という切り口から、人類学において時事的な話題をいかに取り扱について挑戦的な議論が提示された。それ以外の発表は、オセアニアにおいて<紛争>が語られる時の中心的事例となるメラネシアのパプアニューギニア、フィジー、ソロモン諸島から、各人の調査データに基づく発表がなされた。今年度の研究会を通じて、いまオセアニアにおいて<紛争>が問題とされるとき、何が議論されているのかについて、事例研究を通じて見通しを立てることができた。
2010年度
本年度は、オセアニアの<紛争>の具体的状況について、各メンバーから理論研究と事例研究に基づく発表を4回予定している。特別講師を含めて毎回2名程度の発表者に依頼し、<紛争>にかかわる理論研究と同時に<紛争>の起きる特殊個別的な要因を事例から探ることで地域的特性の理解を試みる。事例についての発表はおおむね、地域ごとにそった形で実施していきたい。
【館内研究員】 | 須藤健一 |
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【館外研究員】 | 石森大知、岩本洋光、小柏葉子、風間計博、関根久雄、行木敬、比嘉夏子、深山直子、三田貴、宮澤優子、山本真鳥、吉岡政徳 |
研究会
- 2010年10月9日(土)13:30~19:00(国立民族学博物館 第2演習室)
- 比嘉夏子「人々の『民主主義観』の変容――暴動後のトンガ王国、国内メディアの事例から」
- 小林誠「ツバル離島部における〈紛争〉と首長」(仮)
- 2010年11月27日(土)13:30~19:00(国立民族学博物館 第2演習室)
- 風間計博「他者をつくる/自己をつくる―周縁的バナバ人によるエスニシティ構築の試み」
- 深山直子「マオリに対する「戦士」観に関する試論」
- 2011年1月22日(土)13:30~19:00(国立民族学博物館 第1演習室)
- 三田貴「パラオにおける新コンパクト体制と社会の不安定化」
- 行木敬「身体と集団-ニューギニア高地中央部、オクサプミンにおける<紛争>の語り方」
- 2011年3月12日(土)13:00~18:30(法政大学市ヶ谷校舎ボアソナードタワー19F経済学部資料室内会議室)
- ※東北地方太平洋沖地震の影響により中止と決定いたしました。
- 石森大知「「民族紛争」とカストム復興-ガダルカナル島北東部の人びとの経験」
- 宮澤優子「ブーゲンビル――10年紛争と若者(仮)」
研究成果
本年度は、オセアニアの<紛争>の具体的状況について、各メンバーから理論研究と事例研究に基づく発表を4回予定していた。しかし東北地方太平洋沖地震の影響により、実際の開催は3回となった。初回はポリネシアの地域から、ツバルとトンガの事例に基づく発表がなされた。二回目は、暴力論という理論的視点から、オセアニアにおける<紛争>観を検討する発表がなされた。事例としてはフィジーにおける少数民族であるバナバ人と、ニュージーランドの先住民のマオリである。そして、三回目にミクロネシアのパラオとパプアニューギニア高地を事例にそれぞれ国レベルの経済政策と<紛争>・(要人の暗殺)の関係、呪術的世界観とローカル社会の関係について発表と議論が重ねられた。今年度は、<紛争>観に関わる論点として暴力という切り口を軸に理論的な議論を深めることができた。また、<紛争>に関わる事例についても、従来のオセアニアの<紛争>中心地とされるメラネシア以外の地域を中心に積み重ねていった。
2009年度
研究会を2回開催する。初回は研究代表者の丹羽が研究会の趣旨とオセアニアにおける<紛争>の概況を説明する。また目指される研究枠組みについて、平成19年オセアニア学会分科会「現代オセアニアにおける政治的混乱と都市暴動」で確認された方向性に基づいて、各参加メンバーと方向確認・意見交換を図る。第2回目は、オセアニアにおいて<紛争>を論じることの意義を、グローバリズムの視角や、独立期以降の開発の進展との関係から各メンバーに報告して頂く。初年度は以上の活動を通じて翌年以降の研究会の土台作りを行う。
【館内研究員】 | 須藤健一 |
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【館外研究員】 | 石森大知、岩本洋光、小柏葉子、風間計博、関根久雄、行木敬、深山直子、三田貴、宮澤優子、山本真鳥、吉岡政徳 |
研究会
- 2009年12月19日(土)14:00~19:00(国立民族学博物館 第2演習室)
- オセアニアの<紛争>
- 丹羽典生「イノセンスの終焉にて――独立期以降のオセアニアにおける<紛争>の比較民族誌的研究にむけて」
- 2010年2月13日(土)13:30~19:00(国立民族学博物館 第2演習室)
- 福武慎太郎「国民和解を想像する――東ティモールの紛争はどのように理解されたか」
- 豊平豪「カイ・ロマ、フィジーのパートユーロピアン――政治動態の多面的理解へ向けて」
研究成果
研究会を2回開催した。初回は研究代表者の丹羽が研究会の趣旨とオセアニアにおける<紛争>の概況を説明した。オセアニアと政治的安定性にかかわるデータを整理しオセアニアの<紛争>に関する比較研究に資するデータを提示すると同時に、その際、目指される研究枠組みについて、平成19年オセアニア学会分科会「現代オセアニアにおける政治的混乱と都市暴動」で確認された方向性に基づいて、各参加メンバーと方向確認・意見交換を図った。第2回目は、オセアニアにおいて<紛争>を論じることの意義を、グローバリズムの視角や、独立期以降の開発の進展との関係から各メンバーに報告して頂いた。オセアニア地域と隣接しつつ、オーストラリアと地政学的な関係が深く、紛争とその後の先進的な平和構築の試みが行われていることで知られる東ティモールの事例についての紹介がなされた。また、1980年代後半以降政情不安が絶えないフィジーのなかにおかれた少数民族の視点から政治的動態を見直す発表がなされた。初年度は以上の活動を通じて翌年以降の研究会の土台作りを行った。