手織機と織物の通文化的研究
キーワード
手織機、織物、織り
目的
本共同研究は、研究代表者である吉本忍が1987年に『国立民族学博物館研究報告』12巻2号で発表した論文「手織機の構造・機能論的分析と分類」にもとづき、吉本をはじめとする共同研究の参加者が、これまでに蓄積してきた世界の諸民族のもとで使用されてきた手織機と、それらの手織機によって織られてきた織物を研究対象として、人類史の中枢技術のひとつとして位置づけられる機織り技術の通文化的、かつ歴史的な展開をあきらかにするとともに、産業革命やIT革命と深くかかわってきた機織り技術の実態をあきらかにすることをおもな目的としている。また、本共同研究においては、産業革命、そしてIT革命によって進展している機械化や大量生産によって、人類が古代から培ってきた手仕事の存続が危ぶまれる今日的な状況を、機織り技術を基軸として精査し、今後のデジタル化時代における手仕事というアナログシステムのあるべき姿を模索することも計画している。
研究成果
平成22年10月から平成26年3月までの3年半にわたってつづけてきた本共同研究のおもな成果は、平成24年9月13日から11月27日まで特別展「世界の織機と織物-織って!みて!織りのカラクリ大発見-」を開催したこと、および特別展関連書籍として『世界の織機と織物』(国立民族学博物館発行)を出版したことや、『季刊民族学』144号(千里文化財団発行)の特集記事「機織りの現場から」を公表したことがあげられる。また、本共同研究を通じては、織物を織るという技術が人類史の中枢技術であり、織りの技術の延長線上には、産業革命のみならず、IT革命があるということをあきらかにしたことや、「織物」とはなにか、「織機」とはなにか、「織る」ということはいかなることかという、これまでにあいまいなままに推移してきた問題について、「織物」を、「張力をかけたタテ糸にヨコ糸を組み合わせたモノ」と定義し、「織る」ということは、「張力をかけたタテ糸にヨコ糸を組み合わせる」こと、「織機」とは、「張力をかけたタテ糸にヨコ糸を組み合わせる仕掛け」と定義したことは、学術的に大きな進展であったと考えている。さらに、本共同研究では、「織る」という技術をはじめとした古くからの手仕事によるモノづくりという生産システムが、産業革命以降、次第に動力で稼働する機械にとって代られて、機械化による大量生産システムが、全世界的に普及していった結果、現代社会は、手仕事によるモノづくりを放棄しつづけるという人類史上未曾有の極めて危機的な状況に立ち至っていると捉えたことから、特別展では「手仕事への回帰」をメッセージとしてかかげ、展示場内では多くの入館者の方々に手仕事としての織りの技術を実体験していただいたことも本共同研究の成果であったと考えている。
2013年度
本共同研究では、共同研究会の研究分担者全員が実行委員を兼務して昨年度の9月から11月にかけて開催した特別展「世界の織機と織物-織って!みて!織りのカラクリ大発見」を開催した。その成果のひとつである図録に収録した学術情報に加えて、研究分担者各自がこれまでに蓄積してきた学術情報をもとに、可能な限り世界の織機と織物の全容をあきらかにするべく、本共同研究の成果の最終的なとりまとめをおこない、「世界織機集成(仮題)」として英文での出版を計画している。
【館内研究員】 | 上羽陽子 |
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【館外研究員】 | 井関和代、板垣順平、内海涼子、大野木啓人、金谷美和、鳥丸知子、ひろいのぶこ、藤井健三、柳悦州、行松啓子 |
研究会
- 2014年3月15日(土)10:00~17:00(国立民族学博物館 第1演習室)
- 研究発表「織機と織物の新発見資料」吉本忍
- 研究発表「織物の組織について」行松啓子
- 2014年3月16日(日)10:00~17:00(国立民族学博物館 第1演習室)
- 総括討論「手織り機と織物研究の総括」(全員)
- 総括討論「手織り機と織物研究の展望」(全員)
研究成果
本年度の共同研究では、昨年度末に本共同研究の成果として刊行した『世界の織機と織物』につづく研究成果として、共同研究員や共同研究の特別講師の執筆による「特集 機織りの現場から」を本年度4月に『季刊民族学』144号の記事(千里文化財団刊)として公表した。また、年度末の3月に開催した本共同研究の最後となる共同研究会では、織物と織機の新発見資料の紹介や織物の組織図の有効性についての討論をおこなった。さらに、3年半にわたって継続してきた共同研究を終了するにあたって、これまでの共同研究を総括するとともに、今後における織機と織物に係る通文化的研究の展望についても討議した。
2012年度
本共同研究では、研究分担者各自がこれまでに蓄積してきた学術情報を開示し、相互に情報交換をおこないながら、多種多様な手織機の諸型式や織物を精査し、それらの通文化的、かつ歴史的な展開をあきらかにしていく計画である。また、多くの研究会では、その都度、研究分担者以外にも特別講師を招聘し、共同研究への協力を仰いで研究成果の向上に努めたいと考えている。
【館内研究員】 | 上羽陽子 |
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【館外研究員】 | 井関和代、内海涼子、大野木啓人、金谷美和、ひろいのぶこ、藤井健三、柳悦州 |
研究会
- 2012年4月14日(土)10:00~17:00(国立民族学博物館 第2演習室)
- 研究発表 鳥丸知子「中国・貴州省のカード織り新発見について」
- 研究討論 全員「特別展の展示に関する研究討論」
- 研究討論 全員「特別展の展示解説とカタログ、および特別展関連事業について」
- 2012年6月2日(土)10:00~17:00(国立民族学博物館 第2演習室)
- 研究討論「特別展の展示に関する研究討論」全員
- 研究討論「特別展の展示解説とカタログ、および特別展関連事業について」全員
- 2012年6月3日(日)10:00~13:00(国立民族学博物館 第2演習室)
- 研究討論「糸素材と織構造の関係性について」全員
- 2012年6月23日(土)10:00~17:00(国立民族学博物館 第2演習室)
- 研究討論「民博所蔵の織物資料に関する研究討論―1」全員
- 研究討論「特別展の展示解説とカタログについて」全員
- 2012年6月24日(日)10:00~17:00(国立民族学博物館 第2演習室)
- 研究討論「民博所蔵の織物資料に関する研究討論―2」全員
- 研究討論「体験型展示のアクティビティに関して」全員
- 2013年1月14日(月)10:00~17:00(国立民族学博物館 第1演習室)
- 吉本忍「織りの定義と織機の分類について」
- 上羽陽子「染織文化とものづくりワークショップについて」
- 全員「来年度の成果報告について」
- 2013年3月27日(水)10:00~17:00(国立民族学博物館 第1演習室)
- 吉本忍「成果報告に関する打ち合わせ」
- 行松啓子「日本と東南アジアの絹の現状について」
- 「総合討論」全員
- 2013年3月28日(木)10:00~17:00(国立民族学博物館 第1演習室)
- ひろいのぶこ「韓国とウズベキスタンの細幅織物用織機」
- 上羽陽子「ラバーリーのからだ機について」
- 「総合討論」全員
研究成果
本共同研究では、共同研究員が実行委員として2012年秋の特別展「世界の織機と織物-織って!みて!織のカラクリ大発見」を9月13日から11月27日まで開催し、会期中に特別展示場内で織りの体験展示をおこなうとともに、共同研究員や研究協力者ほかが講師として、特別展関連イベントとしてのみんぱくゼミナール(3回)、みんぱくウィークエンド・サロン-研究者と話そう(9回)、ワークショップ(9回)、ミニレクチャー(15回)、機織りの実演(5回)をおこなった。また、特別展関連書籍として『世界の織機と織物』を出版した。
2011年度
本年度は、6回の研究会(民博4回、館外2回)の開催を予定しており、昨年度に引き続き研究分担者各自がこれまでに蓄積してきた織機や織物や織り技術にかかわる学術情報を開示し、相互に情報交換や討論をおこないながら織機や織物の通文化的、かつ歴史的な展開を徐々にあきらかにしていく計画である。また、民博で開催する4回の研究会のうち、3回の研究会では特別講師を招聘し、本研究への協力を仰いで研究成果の向上に努めたいと考えている。さらに、本年度中に民博で開催する4回の研究会では、来年度の9月からの開催を予定している特別展「世界の織機と織物」の展示計画についても協議し、民博、その他の国内の機関、あるいは個人が収蔵している織機や織物の選定も開始する。
【館内研究員】 | 上羽陽子 |
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【館外研究員】 | 井関和代、内海涼子、大野木啓人、金谷美和、ひろいのぶこ、藤井健三、柳悦州 |
研究会
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2011年5月23日(月)10:00~17:00(西陣織会館)
2011年5月24日(火)10:00~17:00(京都造形芸術大学) - 藤井健三「西陣の織機と織物」
- ひろいのぶこ「伊豫コレクションの織機について」
- 内海涼子「ベトナムと中国の壮族が伝える『天工開物』型腰機」
- 鳥丸貞恵「中国貴州省の苗族の織機と織物」
- 大野木啓人「入館者参加型展示について」
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2011年7月23日(土)10:00~17:00(国立民族学博物館 第2演習室)
2011年7月24日(日)10:00~17:00(国立民族学博物館 第2演習室) - 《7月23日》
- 吉本忍・上羽陽子「民博収蔵の織機と織物-1」
- 「特別展展示に関する研究討論」全員
- 「共同研究成果報告に関する打ち合わせ」全員
- 《7月24日》
- 吉本忍・上羽陽子「民博収蔵の織機と織物-2」
- 大高亨・仁尾敬二「織りに関わる展示コラボレーションについて」
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2011年9月24日(土)10:00~17:00(国立民族学博物館 第2演習室)
2011年9月25日(日)10:00~17:00(国立民族学博物館 第2演習室) - 《9月24日》
- 吉本忍「特別展の織機と織物」
- 全員「特別展の展示に関する研究討論」
- 鳥丸知子「中国をはじめとするアジアのカード織機」
- 《9月25日》
- 日下部啓子「カード織機の型式と製織技術」
- 全員「織機、織物、織の技術、織物の素材に関する研究討論」
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2011年12月3日(土)10:00~17:00(国立民族学博物館 第1演習室)
2011年12月4日(日)10:00~17:00(国立民族学博物館 第1演習室) - 《12月3日(土)》
- 吉本忍「みけしの里 織と染の資料館旧蔵資料について」(資料紹介)
- 全員「特別展の展示に関する研究討論」(研究討論)
- 新井正直「『写真織』コレクション(仮題)」(研究発表)
- 《12月4日(日)》
- 全員「織物の組織に関する研究討論」(研究討論)
- 全員「織機の定義、その他に関する研究討論」(研究討論)
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2012年1月28日(土)10:00~17:00(国立民族学博物館 第2演習室)
2012年1月29日(日)10:00~17:00(国立民族学博物館 第2演習室) - 《1月28日(土)》
- 吉本忍《研究発表》「新発見資料:竹富島の芯機」
- 吉本忍《研究発表》「タテ糸の張力の保持方式による織機の分類」
- 全員《研究討論》「特別展関連プロジェクトについて」
- 《1月29日(日)》
- 全員《研究討論》「織物素材の展示にかかわる討議」
- 全員《研究発表》「特別展と共同研究成果報告資料集成の織機資料にかかわる討議」
- 2012年3月11日(土)10:00~17:00(国立民族学博物館 第2演習室)
- ひろいのぶこ、金谷美和「織物の糸素材について」(研究討論)
- 全員「特別展の展示に関する研究討論」(研究討論)
- 全員「特別展の展示解説とカタログ、および特別展関連事業について」(研究討論)
研究成果
本年度の共同研究では、世界各地のさまざまな手織機と織物、および織りの技術の概況について、あらたな報告があり、さらに、これまでにはほとんど知られることのなかった芯機をはじめとする新発見資料の報告があった。また、共同研究参加メンバー全員による討議によって、あらたな織物の定義やあらたな織物組織を確定させることができた。さらに、共同研究の中間的な成果報告の場として、本年度9月13日~11月27日にかけて開催を予定している特別展「世界の織機と織物‐織って!みて!織りのカラクリ大発見」の展示計画についても討論を重ね、展示計画の具体化が図られた。
2010年度
本共同研究では、研究分担者各自がこれまでに蓄積してきた学術情報を開示し、相互に情報交換をおこないながら、多種多様な手織機の諸型式や織物を精査し、それらの通文化的、かつ歴史的な展開をあきらかにしていく計画である。また、多くの研究会では、その都度、研究分担者以外にも特別講師を招聘し、共同研究への協力を仰いで研究成果の向上に努めたいと考えている。
共同研究会の多くは民博で開催し、演習室その他での研究発表や討議とともに、収蔵庫において、これまでに民博で収集されている手織機や織物を実際に見ながら、あるいは手に取りながら、それらの資料の整理と分析も併行しておこなう計画である。また、1年次と2年次においては、沖縄県立芸術大学、京都造形芸術大学、西陣織物館などの研究分担者が所属する館外の機関で研究会を開催し、それぞれの機関に収蔵されている資料を手掛かりとした研究発表や討議もおこなう計画であり、それらの研究会においては、学生や一般人を対象とした公開研究会の開催も考えている。
1年次(平成22年10月~平成23年3月)研究会3回(沖縄県立芸術大学で1回開催予定)
【館内研究員】 | 上羽陽子 |
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【館外研究員】 | 井関和代、内海涼子、大野木啓人、金谷美和、ひろいのぶこ、藤井健三、柳悦州 |
研究会
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2010年10月2日(土)10:00~17:00(国立民族学博物館 第4演習室)
2010年10月3日(日)10:00~17:00(国立民族学博物館 第4演習室) - 吉本忍(国立民族学博物館)「全体の研究構想について主旨説明」
- 全員「各自の研究紹介」
- 全員「研究構想についての討論」
- 吉本忍(国立民族学博物館)「織物と織機」
- 全員「総合討論」
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2010年12月18日(土)13:00~18:00(沖縄県立芸術大学附属研究所(那覇市))
2010年12月19日(日)9:00~16:00(南風原文化センター(南風原町)/まゆ織工房(南風原町)) - 《12月18日》
- 柳悦州「沖縄の複式綜絖腰機の復元」
- 吉本忍「恵庭市出土の縄文時代の編布」
- 《12月19日》
- 南風原町収蔵の織物と織機の見学と討論(南風原文化センター)
- あげずば織り見学と討論(まゆ工房)
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2011年3月5日(土)13:00~18:00(国立民族学博物館 第1演習室)
2011年3月6日(日)10:00~18:00(国立民族学博物館 第1演習室) - 《3月5日》
- 藤井健三「平織りから綾織、そして繻子織(中筒機構の織機による組織展開の考察)」
- 大野木啓人「展示と社会連携」
- 《3月6日》
- 井関和代「バンツゥー系民族によるラフィア機」
- 全員「国内で所蔵されている織機と織物」
研究成果
本年度の共同研究では、世界各地の手織機と織物、および織りの技術の概況について、共同研究参加メンバーの共通理解をはかるとともに、日本やアフリカの織機と織物と織り技術、世界各地の異形の織物とその織り技術、東アジアと東南アジアにおけるゴザやムシロなどを織る織機と織り技術など、過去にはほとんど注目すらされていなかった幾多の課題が浮き彫りにされ、さまざまな問題提起がおこなわれた。また、本共同研究の成果の一端として、平成24年度に開催を予定している特別展「世界の織機と織物(仮称)」の展示計画についても討論を重ねており、次第に展示計画が具体化しつつある。