国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

海外における人類学的日本研究の総合的分析

共同研究 代表者 桑山敬己

研究プロジェクト一覧

キーワード

日本研究、海外の人類学、他者としての日本

目的

本共同研究の最大の目的は、海外における人類学的日本研究の実態を把握し、異文化としての日本の表象にまつわる問題を検討することにある。地域的には研究蓄積のもっとも多い英語圏を中心とする。そのため、メンバーの半数以上は英米の大学で日本を研究対象に学位を取得した者であるが、日本を自文化として研究してきた日本民俗学の視点を活用すると同時に、日本が位置する東アジアにおける日本研究との比較も視野に入れる。以下は本共同研究会の具体的目標である。(1)綿密な文献リストおよび文献解題の作成:徹底的な文献調査を行って研究会の基礎資料とする。(2)知的系譜の同定:主要な著作の理論的・民族誌的・政治的背景などを検討して、かの地における日本観の流れを明らかにする。(3)文化研究全般の再検討:自文化が異文化として外部者に描かれたときの問題を通じて、文化研究の在り方そのものを再検討する。(4)対話の場の形成:描かれた者が描いた者といかに対話して、双方に満足のいく文化像を提示するかを考える。

研究成果

3年間半にわたった本共同研究は平成26年3月をもって終了した。メンバー16人という大所帯だったので全員が一堂に会すことは難しく、また研究方向にも多少の修正はあったが、研究会設置の目的は概ね達成された。具体的には、英語圏の人類学的日本研究に関して、昭和期に刊行された古典的著作(エンブリー『須恵村』、ベネディクト『菊と刀』、ビアズレー他『日本の村』など)を今日的観点から読み直し、またジェンダーや捕鯨といった比較的新しいテーマに関する著作も取り上げた。東アジアの人類学的日本研究については、そもそもそのような分野は存在するのかという問題から出発して、韓国と台湾における現状の把握と分析に努めた。中国本土については、研究成果を単行本として刊行する際に改めて検討する。さらに、民俗学については、19世紀半ばイギリスに学会が創設されるやいなや日本が取り上げられていたことが判明し、欧米における語られる対象としての日本の歴史の深さが明らかとなった。
本共同研究は、海外とりわけ英語圏における膨大な人類学的日本研究が、日本ではあまりに知られていないという状況の打破を目的として始まった。メンバーの間には、語られる側としての立場から語る側にフィードバックしたいという思いも強いが、まずは日本人読者に向けて研究成果を単行本として公開する予定である。

2013年度

平成25年度は本共同研究会の4年目で最後の年に当たる。平成24年度は諸般の事情で3回しか会合を持てなかったため、若干名の研究発表が残ってしまった。そのため、平成25年度は最初の会合で全メンバーの発表が終わるようにする。そのうえで、成果公開に向けて研究会の方針を確認し、原稿執筆に取りかかる。そして、原稿ができた順にメール回覧して、詳細な討議を全メンバー臨席のもと行う。会合は計3回を予定している。

【館内研究員】 太田心平
【館外研究員】 岩崎まさみ、太田好信、岡田浩樹、加藤恵津子、川橋範子、James E. Roberson、菅豊、住原則也、泉水英計、竹沢泰子、陳天璽、中西裕二、中牧弘允、沼崎一郎
研究会
2013年7月6日(土)9:30 ~17:00(国立民族学博物館 第4演習室)
太田心平 「韓国における人類学的日本研究の動向」
全体会議 最終年度の活動および出版計画について
2013年7月7日(日)9:30~15:30(国立民族学博物館 第4演習室)
中牧弘允 「谷口シンポ「文明学」の日本研究 その2」
全体討議 英語圏と東アジア圏における学問文化の比較
2014年3月2日(日)10:00~17:00(国立民族学博物館 第3演習室)
全体会議:研究成果の出版に向けて
研究成果

最終年の平成25年度は、予算の都合で2回の研究会開催にとどまった。第1回目の研究会で、太田心平はソウル大学での留学体験を踏まえつつ、複数の韓国の大学における日本関係の授業のシラバスを分析して、誰のどの著作がどのように取り上げられているかを明らかにした。中牧弘允は、かつて初代館長梅棹忠夫の肝いりで行われた谷口シンポジウムにおいて、日本のどの側面が取り上げられたかを論じた。第2回目の研究会では、本共同研究の成果公開のための討議が行われ、単行本として刊行することで合意をみた。タイトルは『日本はどのように語られたか――海外の文化人類学的日本研究』(仮題)を予定している。

2012年度

平成24年度は本共同研究会の3年目に当たる。当初、2年目と3年目は年5回の開催を予定していたが、1年目の実績を基にメンバーと話し合った結果、年4回の開催が現実的であるとの結論に至った。運営方法は過去2年と基本的に同じである。つまり、各回の研究会は土曜日と日曜日の連続2日開催を原則とし、メンバーおよび特別講師による発表・講演を2本または3本行う。特別講師は必要に応じて海外から来日中の研究者(日本国籍者を含む)に依頼する。招聘の主目的は最新の海外情報を得ることだが、日本人だけの議論による欠点や弱点を防ぐ効果も狙う。また、メンバーの多くは例年海外の学会で発表しているので、当地で得た情報を共有するための時間を適宜設ける。本共同研究会は次世代の研究者育成も目指しているので、発表はメンバーの推薦を受けた大学院生にも公開する。

【館内研究員】 太田心平、陳天璽、中牧弘允
【館外研究員】 岩崎まさみ、太田好信、岡田浩樹、加藤恵津子、川橋範子、James E. Roberson、菅豊、住原則也、泉水英計、竹沢泰子、中西裕二、沼崎一郎
研究会
2012年5月19日(土)10:00~18:00(国立民族学博物館 第3演習室)
全員:今年度の打ち合わせ
太田好信 「『菊と刀』に内在する文化理論の限界とその可能性―リベラリズムと文化概念との齟齬を超えて」
全員:討論
2012年5月20日(日)10:00~15:00(国立民族学博物館 第3演習室)
岡田浩樹 「韓国人類学から見た日本社会」
全員:討論
2012年10月21日(日)10:00~18:00(国立民族学博物館 第4演習室)
全員:研究の進捗状況の報告
J.ローバーソン「英語圏における沖縄の民族誌について」
全員:討論
2013年1月26日(土)10:00~18:00(国立民族学博物館 第3演習室)
全体会議(今年度の総括と来年度に向けて)
中牧弘允「谷口シンポ「文明学」の日本研究」
全体討議:民博資料回覧
2013年1月27日(日)10:00~18:00(国立民族学博物館 第3演習室)
陳天璽「近年の日本人類学研究の傾向:アメリカ人類学会を事例として」
菅豊「民俗学の世界史的展望」
全体討議
研究成果

前年度(2011年度)に引き続き、メンバーの個人発表を主な活動とした。特別な事情のある一部のメンバーを除いて、これで個人発表はほぼ終了したことになる。共同研究会発足当初の計画では、海外における人類学的日本研究の知的系譜を辿ることを一つの目的としたが、メンバー間の話し合いの結果、漫然と研究史をまとめるより、後世に影響を及ぼした主要な作品を中心に据えて、今日的観点から振り返ることで合意を見た。太田好信がベネディクトの『菊と刀』を取り上げたり、桑山敬己がエンブリーのSuye Muraとビアズレー他Village Japanに焦点を当てて『民博通信』第139号に「第2次世界大戦前後のアメリカ人研究者による日本村落の研究」を寄稿したりしたのも、そうした合意の反映である。その一方で、主要作品を特定しにくい分野や国もあるので、当初の計画の骨格は生かされている。

2011年度

平成23年度は本共同研究会の2年目に当たる。当初、2年目と3年目は年5回の開催を予定していたが、1年目の実績を基にメンバーと話し合った結果、年4回の開催が現実的であるとの結論に至った。運営方法は昨年度と基本的に同じである。つまり、各回の研究会は土曜日と日曜日の連続2日開催を原則とし、メンバーおよび特別講師による発表・講演(ともにコメンテーター付き)を2本または3本行う。特別講師は必要に応じて海外から来日中の研究者(日本国籍者を含む)に依頼する。招聘の主目的は最新の海外情報を得ることだが、日本人だけの議論による欠点や弱点を防ぐ効果も狙う。また、メンバーの多くは例年海外の学会で発表しているので、当地で得た情報を共有するための時間を適宜設ける。本共同研究会は次世代の研究者育成も目指しているので、発表はメンバーの推薦を受けた大学院生にも公開する。

【館内研究員】 太田心平、陳天璽、中牧弘允
【館外研究員】 岩崎まさみ、太田好信、岡田浩樹、加藤恵津子、川橋範子、菅豊、住原則也、泉水英計、竹沢泰子、中西裕二、沼崎一郎、J. E. Roberson
研究会
2011年5月14日(土)13:00~18:30(国立民族学博物館 第6セミナー室)
2011年5月15日(日)10:30~15:00(国立民族学博物館 第6セミナー室)
《5月14日》
会議開催・事務連絡など
前年度の総括と今年度に向けての討論
研究発表:岩崎まさみ(北海学園大学)「人類学が果たす役割:小型沿岸捕鯨の事例から」および討論(全員)
総合討論
《5月15日》
研究発表:泉水英計(神奈川大学)「アメリカ人類学による沖縄研究」および討論(全員)
総合討論
2011年9月9日(金)9:00~19:00(国立民族学博物館 第6セミナー室)
研究方針について(桑山・中牧・沼崎・陳・太田心平)
住原則也「海外における日本の会社文化の研究」
桑山敬己「戦後アメリカ人類学による日本の共同体概念」
総合討論(全員)
2012年1月21日(土)10:00~18:00(国立民族学博物館 第1演習室)
2012年1月22日(日)10:00~15:30(国立民族学博物館 第1演習室)
《1月21日(土)》
研究会の今後の進め方について(全員)
川橋範子「ネイティヴのフェミニスト・エスノグラファーとして書くこと」(仮題)
泉水英計「須恵村を訪れて」(仮題)
《1月22日(日)》
研究発表 沼崎一郎「台湾人による日本論を読む:謝雅梅の著作を例として」(仮題)
総合討論(全員)
2012年3月3日(土)10:00~18:00(国立民族学博物館 第4演習室)
研究成果の執筆・刊行について(全員)
研究発表:中西裕二「日本の宗教研究と人類学」(仮題)
総合討論(全員)
研究成果

2011年度(平成23年度)は本格的に本共同研究会が始動した年であった。開催数は4回、研究発表は上記の報告にあるように合計8本で、毎回参加者全員による総合討論を行った。第2回目の2011年9月の会合では、民博で行われた Association for East Asian Anthropology の会議とも相互乗り入れ、海外の研究者との交流を図った。また、第4回目の2012年1月の会合では、まだ時期的には早いが研究成果をどのように出版するかについて具体的に話し合った。年度中、1人のメンバーから特別講師を呼ぶ提案があったが、日程上の都合で実現しなかったことが惜しまれる。2012年度はまだ個人発表を終えていないメンバーを中心に進める予定である。

2010年度

各回の研究会は土曜日と日曜日の連続2日開催を原則とし、メンバーおよび特別講師による発表・講演(ともにコメンテーター付き)を2本または3本行う。特別講師は必要に応じて海外から来日中の研究者(日本国籍者を含む)に依頼する。招聘の主目的は最新の海外情報を得ることだが、日本人だけの議論による欠点や弱点を防ぐ効果も狙う。また、メンバーの多くは例年海外の学会で発表しているので、当地で得た情報を共有するための時間を適宜設ける。以下は年度毎の具体的な計画である。

第1年目(平成22年10月から半年間):開催回数は3を予定。第1回目は総合的打ち合わせを行い、本共同研究会の趣旨と各メンバーの課題を確認する。メンバーには既に成果を部分的に公表している者がいるので、第1回目から積極的に研究発表を行う。各メンバーは自らのテーマに関する最重要文献リストを作成して、早い段階から基本情報の共有を図る。

【館内研究員】 太田心平、陳天璽、中牧弘允
【館外研究員】 岩崎まさみ、太田好信、加藤恵津子、川橋範子、James E.Roberson、菅豊、住原則也、泉水英計、竹沢泰子、中西裕二、沼崎一郎
研究会
2010年10月17日(日)11:00~17:00(国立民族学博物館 第2セミナー室)
研究会の構想および趣旨の説明(桑山敬己)
メンバー自己紹介(全員)
研究会の構想について討論(全員)
2010年12月4日(土)13:00~18:30(国立民族学博物館 第3セミナー室)
2010年12月5日(日)10:30~15:00(国立民族学博物館 第3セミナー室)
研究発表(桑山敬己)および討論(全員)
研究発表(加藤恵津子)および討論(全員)
研究発表(沼崎一郎)および討論(全員)
海外学会情報(太田好信)
研究成果

海外の人類学的研究をどのように分析するかについて、大まかな方針を立てることができた。具体的には、特定の分野(たとえば家族研究)を年代順に追うのではなく、各々のメンバーが領域横断的に設定したテーマ(たとえば日本社会の家族主義的構造)を、現在との関係で検討することにした。そうした方針に基づいて、第2回研究会で桑山は日本的集団主義の一類型としてのイエ言説について発表し、沼崎は台湾における民間日本研究について発表し、加藤恵津子は北米における日本女性の表象について発表した。初年度の平成22年度は研究会を3回開催する予定でいたが、諸般の事情で見送ることとなった。