国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

表象のポリティックス――グローバル世界における先住民/少数者を焦点に

研究期間:2013.10-2017.3 代表者 窪田幸子

研究プロジェクト一覧

キーワード

先住民/少数者、美術工芸品、新自由主義経済

目的

本研究では、先住民/少数者集団が、彼らを包摂する主流社会において様々に表象されている場面に注目する。彼らが絵画や工芸品、布、衣装などを製作し、それらが市場にのり、時には国際的な注目をあつめる。こうしたモノによって表象されることで、少数者には経済的恩恵がもたらされ、地位の向上につながることがある一方で、彼らを本質化する圧力ともなり、また商品化によって表象が希薄化される場面もある。このような表象のポリティックスの違いは、少数者集団に対する各主流社会の対応と国際社会を背景にしているとともに、グローバリゼーション、ネオリベラルの動きなど多層的な社会的状況の絡み合いの中でおきている。この共同研究では、このような動態の現場に注目することによって、先住民/少数者の生のリアリティに迫り、主流社会と少数者の関係の諸相を具体的な形で明らかにすることをめざす。

研究成果

本共同研究では、各共同研究者が調査をおこなう、先住民/少数者集団が、その主流社会において表象されている場面にモノに注目して、比較検討を行う研究を重ねてきた。それぞれの共同研究者が調査をおこなっている集団で、つくられる絵画、工芸品、布、衣装などの流通、展示、観光などの文脈における、変化やその影響についての報告は多岐にわたった。これらの研究はしかし、共同研究を通じて、いくつかのまとまりに整理できた。
まず、衣装をめぐるテーマである。外に見えやすい、自己を直接的にあらわす衣裳が、作り出され、変容し、そのことが新たなラベルとなっていく動態が各地でみられた。その表象と対象との関係も多様で、他者への表象を目指さないような衣裳の展開も見られ、衣装をめぐる多層的な在り方が見えてきた。また、美術と工芸というテーマも注目されるものであった。美術品として外部から扱われるものが、少数者によってつくられている場合、その評価の変化が少数者の表象そのものを変えることになる事例が複数あった。その一方で、美術品と工芸品との境目の揺らぎそのものの議論が重要であることも明らかになってきた。また、少数者の作るものがどのようなアイデンティティにつながるのか、そのことが少数者自身にどのような影響力を持つのか、という論点も重要である。たとえ流通が少ない場面であって、変化があることも分かってきた。そしてまた、博物館や施設において、どのように表象するのか、ナショナルなまとまりを意図したものであれ、など展示での表象は、個別の衣装や工芸品、美術品とは異なった文脈で理解されるものであった。これらをつなぐもう一つの軸は、手仕事/工業製品という分別である。多くの少数者の作るものは、天然素材の手仕事であった。そこに、工業製品や既製品が入り込み、そのことは表象の在り方も変えていることがわかった。

2016年度

最終年度にあたる本年は、3回の研究会を予定している。第1回は、公開シンポジウムにむけての打ち合わせと、出版に向けての原稿の読み合わせを行う。これまでの研究会を通じ、「ファッション・衣裳」「世界遺産・博物館」「観光と流通」「格差と表象」という4つのまとまりが見えてきている。研究会ではそれぞれを取り上げていく。
第2回は、昨年度、事情により実現できなかったシンポジウムを東京で開催する。東京には、日本民芸館があり、代表者はここの学芸員との別の研究連携がある。これを生かして、公開シンポジウムとしてこれまでの共同研究の成果の一部を公開したい。ユニークな展示を行っている日本民芸館の展示視察もあわせて行う。また、論文集出版にむけての原稿の読みあわせと討議も継続して行う。
そして最終回には、残りの原稿読み合わせの作業を行い、早期の出版につなげる予定である。

【館内研究員】 上羽陽子、齋藤玲子、竹沢尚一郎、野林厚志
【館外研究員】 青木恵理子、池本幸生、大村敬一、川崎和也、新本万里子、田村うらら、中谷文美、中村香子、名和克郎、深井晃子、松井健、丸山淳子、宮脇千絵、吉田ゆか子、渡辺文
研究会
2016年7月9日(土)13:00~18:00(国立民族学博物館 第4演習室)
窪田幸子(神戸大学)「ワンロード展のアボリジニ表象を考える」
展示視察
質疑応答、討議
野林厚志(国立民族学博物館)「デザインされる原住民族イメージ:台湾の学生創作ポスター展を事例に」
質疑応答、討議
2016年10月23日(日)13:00~18:00(国立民族学博物館 第4演習室)
これまでの成果とこれからの進め方
宮脇千絵(南山大学) 論文の概要
コメント1&2
渡辺文(同志社大学) 論文の概要
コメント1&2
川崎和也(神戸学院大学) 論文の概要
コメント1&2
2016年11月26日(土)13:00~18:00(国立民族学博物館 第2演習室)
これまでの成果とこれからの進め方
深井晃子 論文の概要
コメント1&2
吉田ゆか子 論文の概要
コメント1&2
新本真理子 論文の概要
コメント1&2
2017年2月13日(月)13:00~18:00(国立民族学博物館 第4演習室)
これまでの成果とこれからの進め方
松井健 論文の概要
コメント1&2
中谷文美 論文の概要
コメント1&2
中村香子 論文の概要
コメント1&2
研究成果

本年度は、共同研究のとりまとめを目指して、それぞれの共同研究者のこの研究にかかわる論文を完成してもらうことを目指した。全体で4回の研究会を持ったが、それぞれの回で、2から3本ずつの論文を全員であらかじめ回覧し、それぞれの論文を担当するコメンテーターを依頼し、議論を行った。まだ全員の論文の完成にはいたっていないが、およそ8割がたの論文が出そろう状況になってきている。各研究会でのコメントを踏まえて、7月までに完成稿を提出してもらう予定でいる。これを取りまとめ、共同研究の出版につなげる予定である。

2015年度

第3年度にあたる今年は、5回の研究会を予定している。初回は、未発表の3名の発表をおこなう。第二回からは、これまでの発表のからみえてきた、「観光と表象」「衣装という表象」「表象概念の再検討」「アートと工芸」などのテーマを設定し、4回の小シンポジウムを開催する。共同研究員をこのシンポジウムに配分する形で、各自二度目となる発表を行い、コメンテーターをつけ、議論を深化させる。研究会は、民博で行うことを基本とするが、最終のシンポジウムを東京で開催する。東京には、日本民芸館があり、代表者はここの学芸員との別の研究連携がある。ユニークな展示をおこなっている日本民芸館との研究連携としてシンポジウムをおこなう。また展示視察もおこないたい。

【館内研究員】 上羽陽子、齋藤玲子、竹沢尚一郎、野林厚志
【館外研究員】 青木恵理子、池本幸生、大村敬一、川崎和也、新本万里子、隅杏奈、田村うらら、中谷文美、中村香子、名和克郎、深井晃子、松井健、丸山淳子、宮脇千絵、吉田ゆか子、渡辺文
研究会
2015年5月10日(日)10:00~18:30(国立民族学博物館 大演習室)
渡辺文「レッド・ウェーヴ・アートにおける個と集合」
深井晃子「ファッションにおける"日本"の表象」
窪田幸子「表象とはなにか?」
全員 今後の共同研究計画について
2015年12月6日(日)9:00~18:00(国立民族学博物館 第4セミナー室)
窪田幸子「ワークショップのねらい」
中村香子「身体をめぐる表象のダイナミズム~ケニアの牧畜民サンブルの身体装飾と身体変工」(仮)
名和克郎「ランにおける伝統服を巡る実践と語りの変遷」(仮)
野林厚志「エスノシティを可視化する:台湾における民族認定と衣装の意匠」
深井晃子「主流社会による少数者表象、絡めとられる少数者要素」
松井健「なぜ、どのようにして、工芸はグローバル・イメージを表象できるのか?」(仮)
コメント・討論
2016年1月30日(土)9:30~18:30(国立民族学博物館 第6セミナー室)
《観光・流通・市場》
吉田ゆか子「民族舞踊からインドネシア諸島舞踊へ―ジャカルタにおけるバリ芸能の展開(仮)」
新本万里子「アベラムになるまで―人類学者・市場・観光の影響(仮)」
川崎和也「誰が「アート」をつくるのか?:アボリジニ・アートの表象をめぐるポリティクス(仮)」
渡辺文「フィジー、土産物売場におけるアートの居場所(仮)」
上羽陽子「「民族」を商品化する-インド西部の刺繍布づくりから(仮)」
討論
2016年1月31日(日)9:30~18:30(国立民族学博物館 第6セミナー室)
《貧困、格差》
池本幸生「コーヒーから見る格差社会の表象のポリティクス」
田村うらら「絨毯の『価値』の語られ方の多面性(仮)」
丸山淳子「「ブッシュマン観光ロッジ」を行き交う人びと(仮)」
大村敬一「イヌイト・アートをめぐるコスメティックの政治:<旅するアート>と<インヴォリューションするアート>のもつれ合い(仮)」
窪田幸子「先住民の美術、工芸品と作り手の立場」
討論
2016年2月11日(木・祝)9:30~18:30(国立民族学博物館 第6セミナー室)
博物館展示、世界遺産、ポリティックス
宮脇千絵(南山大学)「モン衣装の伝統へのまなざしとファッション」
齋藤玲子(国立民族学博物館)「匿名か実名か アイヌ工芸品の銘/記名をめぐって(仮)」
青木恵理子(龍谷大学)「明治日本産業革命」モノ語りに抗する小さな炭鉱モノ語り」
中谷文美(岡山大学)「文化表象のエコノミー:商品としての「文化遺産」(仮)」
総合ディスカッション
研究成果

第3年度にあたる今年は、4回の研究会を行った。一回目は積み残しの各氏の発表をいただき、今年の計画について共有した。その後、4つのテーマを設定し、ワークショップのかたちでテーマごとにある程度のまとまりをもつ研究会を開催した。こうして、「衣装という表象」「アートと工芸」「観光と表象」「伝統、遺産とポリティックス」という4つのテーマごとのまとまりがうまれ、表象のポリティックスという問題を、研究員がそれぞれの立場から議論した。これによって新たな論点がみえてきたとともに、来年度のとりまとめのそれぞれの山が出来上がった。各研究員は、議論を踏まえ、来年度夏ごろまでに論文執筆をおこなうこととした。

2014年度

第2年度にあたる本年は、5回の研究会を開催する予定である。今年度の中頃までに全員の発表を一巡させ、先住民/少数者のアイデンティティ、モノの流通と転化、美術と工芸などのいくつかの研究のまとまりを見出し、後半からの研究会を小シンポジウム形式で行う。シンポジウム形式の研究会ではテーマごとに分担者を配分し、各自二度目となる発表をそれぞれのテーマに沿う形で行う。シンポジウムではコメンテーターをつけ、議論を深化させる。研究会は、民博で行うことを基本とする。

【館内研究員】 上羽陽子、齋藤玲子、竹沢尚一郎、野林厚志、吉田ゆか子
【館外研究員】 青木恵理子、池本幸生、大村敬一、川崎和也、新本万里子、隅杏奈、田村うらら、中谷文美、中村香子、名和克郎、深井晃子、松井健、丸山淳子、宮脇千絵、渡辺文
研究会
2014年4月12日(土)9:30~18:00(国立民族学博物館 第4演習室)
窪田幸子 前回までの研究会の論点の整理
宮脇千絵「中国雲南省におけるモン衣装の変化と継承にみる自他意識」
上羽陽子「インド、ラバーリーの刺繍布をめぐる自己と他者」
吉田ゆか子「バリの障害者の演劇活動にみる表象のポリティクス-笑いとインペアメントの視点から」
2014年5月22日(日)13:30~16:00(国立民族学博物館 第7セミナー室)
ハワード・モーフィー(オーストラリア国立大学)Living Collections: researching Australian Aboriginal art and material material culture.
2014年7月19日(土)9:30~18:00(国立民族学博物館 大演習室)
窪田幸子 前回研究会の論点の整理
緒方しらべ「「アート」の語りのポリティックス―ナイジェリア南西部の都市で生きる「アーティスト」の事例から」
川崎和也「アボリジニの美術工芸品と経済生活:オーストラリア北部、ティウィの事例から」
青木恵理子「布とフェティシズム」
2014年10月11日(土)13:00~18:00(岡山大学文学部)
窪田幸子 前回研究会の論点の整理
中谷文美「バリ島の手織り布のファッション化・文化遺産化をめぐって」
松井健「布の経済的転位と付加価値」(仮題)
2014年10月12日(日)9:30~12:00(岡山大学文学部)
窪田幸子「表象研究の課題と展望」
討議と意見交換
2014年12月20日(土)9:30~18:00(国立民族学博物館 第2演習室)
窪田幸子 前回研究会の論点の整理
名和克郎「「ネパール、ランにおける自己 表象の近年の展開?民族運動から写真展まで」(仮)」
中谷和人「「表象から出来事へ――「生態学的」視角からみた知的障害者のアート活動」」
大村敬一「旅するアート/インヴォリューションするアート:美の様式をめぐる人類学を目指して(仮)」
全体討議
2015年2月1日(日)13:30~18:00(国立民族学博物館 大演習室)
窪田幸子 前回研究会の論点の整理
齋藤玲子「アイヌの木彫と表象――松前藩献上品から経産省の伝統的工芸品指定まで」
丸山淳子「ブッシュマンの観光と表象(仮)」
研究成果

研究第二年度にあたる本年は、6回の研究会を開催した。後二人の発表を残し、ほぼ全員の発表を一巡することができた。先住民/少数者のアイデンティティにかかわり、モノの流通、モノの転化、美術と工芸というカテゴリー、表象の粘着度、などのいくつかの研究のまとまりを見出すことができてきた。次年度予定しているシンポジウム形式の研究会で、それぞれのテーマごとに分担者を配分する作業を次の研究会で行う予定である。この作業によって、研究の視座の多層性が全員に共有される見通しができてきた。

2013年度

初年度は3回、2年度以降は各5回程度の研究会を開催する予定である。最初の5回程度は、代表者と分担者のそれぞれの専門領域についての発表を行い、コメンテーターを含めて全員で議論を行う形ですすめる。一回の研究会で、4人程度の発表を予定している。

【館内研究員】 野林厚志、竹沢尚一郎、上羽陽子、齋藤玲子、吉田ゆか子
【館外研究員】 中谷文美、丸山淳子、大村敬一、名和克郎、松井健、池本幸生、深井晃子、青木恵理子、中村香子、宮脇千絵、川崎和也、新本万里子、田村うらら、隅杏奈、渡辺文
研究会
2013年10月20日(日)10:00~18:00(国立民族学博物館 第6セミナー室)
窪田幸子(神戸大学)「表象のポリテックス」共同研究のめざすところ
出席者全員 共同研究員自己紹介、および各個研究計画について
松井健(東京大学)「ものからみるマイノリティ文化の再評価―柳宗悦の場合」
今後の研究会についての打ち合わせ
2014年1月11日(土)9:30~18:30(国立民族学博物館 第4演習室)
新本万里子「セピックスタイルという戦略―パプアニューギニア東セピック州出身者の網袋販売をめぐって」
田村うらら「「他者」の志向と向き合うートルコ絨毯の流通・修繕・加工の現状と考察」
野林厚志「台湾原住民族の「正名運動」における物質文化の位置づけ」
次回研究会の打ち合わせ
2014年2月22日(土)14:00~17:00(岩立フォークテキスタイルミュージアム)
岩立広子「岩立フォークテキスタイルミュージアムについての解説」
2014年2月23日(日)9:30~18:00(東京大学東洋文化研究所)
窪田幸子「これまでの研究会についての整理」
中村香子「『伝統』を演出する『戦士』たち~ケニアの牧畜民サンブルのビーズ装飾」
深井晃子「日本ファッションの表象性―Future Beauty展の現場から」
池本幸生「表象のポリティクス:ベトナムの少数民族の場」
研究成果

2013年の10月から開始した本共同研究は、これまでに予定通り、3回の研究会を開催した。初回は、代表者の問題意識を共有してもらうことを大きな目的としたが、2回目以降、最初の5回程度の研究会(第二年次の中ごろまで)で、共同研究者のそれぞれの専門領域についての個別発表を行い、世界各地の広いひろがりのなかに、少数者/先住民のモノの表象をめぐる現状、問題、それぞれのポリテイックスの状況についての情報を共有しようとしている。そのうえで、例えば、「アイデンティティと表象」、「モノの流通と転化」、「美術と工芸の対立」、「衣装と表象」など、いくつかの研究のまとまりを見出す予定で、研究会を重ねている。第三回目は、この時期に開催されていた岩立フォークテキスタイルミュージアム見学を行うことを目的として、東京で開催した。岩立さんによる解説をうけ、ファッションという非常に身体に近いモノによる表象という興味深い論点も現れた。