生活用品から見たライフスタイルの近代化とその国別差異の研究
キーワード
生活用品、ライフスタイル、近代化
目的
本研究は、世界各地の衣食住にかかわる生活必需品の調査を通じて、その変化が伝統的生活様式から近代的生活様式への変化にいかに連動し、またその近代的生活様式が世界的な共通性を示しつつ、なお国ごとの差異をどのような面で保持しているかを検証し、近代化の一般性と国ごとの個別性およびその要因を考察することを目的とする。国家制度や生業経済の近代化は、住民生活のレベルでは生活様式の変化として経験される。生活様式の近代化は、衣類や台所用品、また家具や部屋の間取りの刷新と連動している。そうした生活用品の変化という物質文化研究を切り口に、生活様式が近代化に伴っていかに変化したかをあぶりだそうとするのが本研究の狙いである。生活の近代化には世界規模での画一性が認められる一方、衣食住の伝統慣行に由来する国ごとの差異も予測され、近代化の過程に文化的差異が関与していることを示唆している。本研究ではそうした「近代化」の一般理論についても物質文化の観点から検討を加える。
研究成果
2年半にわたる共同研究会で計8回の研究会を開催し、日本、台湾、インドネシア、タイ、インド、トルコ、イタリア、オランダ、ペルー、西アフリカといった地域での収集資料から、各地域の家庭が保有する生活用品の多様性と共通性を比較検討し、そこから推し量られる各地の生活様式とその変化、また生活用品調査がもたらす異文化研究の新たな視点の可能性について検討した。本研究の先行研究である「消費様式から見た国民文化形成の文化人類学的研究:インドネシア等の生活用品調査から」(科研基盤(B)、平成23〜27年度、研究代表者:鏡味治也)にもとづくインドネシアからの報告が十分なデータに裏付けられたものだったのに対し、それ以外の地域からの報告は、報告者各自がそれぞれの研究調査地で試行的に試みた資料収集による暫定的な報告であり、本格的な比較研究にまで至らなかった点は、本共同研究会があくまでも本格的な調査研究の準備のためのものとして企画したこともあり、当初から予測されていた。しかしインドネシアでの先行研究の枠組みを利用しつつ、その意義を汲み取って研究会参加者が試行的にでも資料収集を行い、成果を報告して世界規模で生活用品を比較検討する機会がもてたことは、本共同研究会の最大の成果である。生活用品の比較のための調査項目や必要なデータの種類・内容、また何に焦点を当てて比較するか等について、先行研究からの修正は行ったものの、確定するまで至らなかったことは残念だが、むしろ生活用品調査は文化の理解の新たな視点に気づくための発見的な手法として活用できるのではと考えている。そのひとつが不必要、過剰とも思える品物の保有で、なぜそのようなものが家庭にしまわれているのかは、その地域の文化的特性を端的に表すものではないかと考え、その着想を『民博通信』154号で報告し、今後もいくつかの媒体で発信していく予定である。
2016年度
専攻して実施したインドネシアでの科研調査の際に使用した生活用品リストは、他の地域ではなかなか使いにくいことがこれまでの研究発表において指摘されたので、そうした生活用品を必要としている生活様式をあぶり出すために本研究会で試作した質問表を用いて、さらに参加者それぞれの調査地での試行調査を実施し発表してもらうとともに、質問表の修正を随時ほどこし、より汎用的な質問表の作成をめざす。あわせて、共同研究会最終年度として、これまでの検討結果をもとに、国別、地域別の生活様式と生活用品の比較を試みる。研究会には随時メンバー以外の参加者も特別講師として招き、試行調査の結果を報告してもらう。
【館内研究員】 | 宇田川妙子、笹原亮二、関雄二、野林厚志 |
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【館外研究員】 | 阿良田麻里子、金子正徳、田村うらら、中谷純江、西本陽一、古本嘉章、松村恵里 |
研究会
- 2016年5月7日(土)14:00~17:30(国立民族学博物館 大演習室)
- 古谷嘉章(九州大学)「生活用品の物質性」
- 鏡味治也(金沢大学)「生活用品調査で目指すこと」
- 出席者全員・全体討論
- 2016年11月5日(土)14:00~17:30(国立民族学博物館 第3演習室)
- 笹原亮二(国立民族学博物館)「量の可能性・再々説――民博所蔵大村しげコレクションを中心に」
- 特別展見学
- 出席者全員・全体討論
- 2016年12月11日(日)14:00~18:00(国立民族学博物館 第3演習室)
- 加賀谷真梨(特別講師・新潟大学)「波照間島における台所用品」
- 質疑
- 野林厚志(国立民族学博物館)「同化の手段としての近代化――台湾における「山胞」の生活改善の施策」
- 質疑・全体討論
研究成果
本年度第1回研究会では、前年度までの世界各地域での予備的調査を踏まえ、生活用品研究の位置づけと目的を再検討した。第2回研究会では生活用具についてすでに蓄積のある日本の事例の中でも個性的な大村しげコレクションを素材に、その生活用品の示すものを検討した。第3回研究会では前年度に引き続き沖縄と台湾の事例を紹介し、とくにその変化の方向性とそれが意味するものについて検討した。最終年度としての総括の機会はとくに設けず、生活用品調査をきっかけとして種々の議論が展開できる可能性を確認し、本格的なデータ収集の構想を練りながらその機会を待つことで共同研究会を終えた。
2015年度
先行的にインドネシアでの資料収集のために作成した生活用品リストを、それ以外の世界各地で使えるように品目や構成を修正し、各地での生活様式をあぶり出すことができるような質問項目と用品リストの作成をめざす。その手だてとして、ひとまずインドネシア用に作ったリストを使って、研究会参加者がそれぞれ自分の研究フィールドで生活用品調査を実施してみる。本年度の研究会は、その試行調査の報告と、それにもとづく質問項目・用品リストの修正についての意見交換に時間を割きたい。研究会メンバーのほか、メンバーでカバーしきれない地域なども考慮して、随時メンバー以外に研究者にも試行調査を依頼し、特別講師として調査報告をしてもらう。
【館内研究員】 | 宇田川妙子、笹原亮二、関雄二、野林厚志、浜田明範 |
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【館外研究員】 | 阿良田麻里子、金子正徳、田村うらら、中谷純江、西本陽一、古谷嘉章、松村恵里 |
研究会
- 2015年5月9日(土)14:00~17:30(国立民族学博物館 大演習室)
- 関雄二「ペルーでの生活用品試行調査」
- 浜田明範「アフリカでの生活用品試行調査」
- 出席者全員・意見交換
- 2015年11月14日(土)14:00~17:30(金沢大学サテライトプラザ 2階講義室)
- 松村恵里「インドでの生活用品試行調査」
- 田村うらら「トルコでの生活用品試行調査」
- 金沢大学大学院生「中国およびタイでの生活用品試行調査」
- 全体討論
- 2015年12月12日(土)14:00~17:30(国立民族学博物館 大演習室)
- 宇田川妙子「イタリアでの生活用品試行調査」
- 中谷純江「北インドでの生活用品試行調査」
- 出席者全員・意見交換
研究成果
本年度は参加各員のそれぞれの調査地での試行的なデータ収集の報告と、それを踏まえての生活用品リストや生活様態質問表の問題点指摘を行った。報告地域は南米、西アフリカ、東南アジア、インド、近東、南ヨーロッパにまたがり、それぞれの地域の特徴とともに汎世界的な共通性をうかがわせる生活用品の具体例が示された。とりわけそれぞれの地域の人びとのこだわりを示す用品が千差万別である点が興味深い。具体例の提示とともに、用品リストよりも生活様態問表の方が聞き取りの際により有効であり、期待する答えを引き出しやすいこと、またこうした用品調査はフィールドを知る第一歩としての手段としても有効であることを確認した。さらにヨーロッパの事例から、先行したインドネシアでの「伝統から近代への変化」という調査枠組みについて疑義が出され、用品の変化が示すものが何かについて問題提起され、今後の検討課題とすることにした。
2014年度
2014年度は2回の研究会を行い、代表者による問題提起と、本研究の前身となったインドネシアでの生活用品調査のこれまでの実績・経験を報告し、議論の土台を確認するとともに、他地域研究者からのコメントを聴取する。
【館内研究員】 | 宇田川妙子、加賀谷真梨、笹原亮二、関雄二、野林厚志、浜田明範、古谷嘉章 |
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【館外研究員】 | 阿良田麻里子、金子正徳、中谷純江、古谷嘉章、松村恵里 |
研究会
- 2014年11月22日(土)14:00~18:00(国立民族学博物館 第3演習室)
- 鏡味治也「参加者紹介、趣旨説明」
- 金子正徳「コトとモノの移ろいにみる消費と共有/共用――インドネシアを中心とする生活用品の事例から」
- 阿良田麻里子「インドネシアでの資料収集方法」
- 2014年12月13日(土)14:00~18:00(国立民族学博物館 大演習室)
- 鏡味治也「今回の研究会趣旨説明」
- 中谷文美「家事の文化――オランダの事例から」
- 出席者全員「生活用品資料収集上の問題点の検討」
研究成果
本年度は、平成23年度から実施している科研基盤研究(B)「消費様式から見た国民文化形成の文化人類学的研究:インドネシア等の生活用品調査から」(研究代表者:鏡味治也)のこれまでの資料収集実績を、その科研の分担者・協力者でもある金子正徳・阿良田麻里子両氏から報告してもらい、本研究会参加者への情報提供と引き継ぎをはかった。また生活用品と密接に関わる「家事」領域の生成発展について、中谷文美氏を特別講師として招きオランダにおける家事文化について話していただいた。その上で、本研究会がめざす生活用品の全世界的な資料収集に向けて、これまでインドネシアでの資料収集で用いた生活用品リストや情報収集方法の問題点や修正が必要な点について、参加者の間で意見を交換した。それを受けて新たに「生活用品質問表」をとりまとめ、従来の生活用品リストと合わせて資料収集を行えるよう整えた。