国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

宇宙開発に関する文化人類学からの接近

研究期間:2015.10-2019.3 代表者 岡田浩樹

研究プロジェクト一覧

キーワード

宇宙開発、科学技術、宇宙人類学

目的

本研究の目的は、宇宙開発を対象にした人類学的研究の可能性を探り「先端科学技術」の人類学という新しいテーマに接近するための方法論的検討をおこなうことにある。20世紀後半から宇宙開発に関わる科学技術の進展、宇宙空間の利用が本格化し、宇宙は単に科学技術の研究対象に留まるだけではなく、国際的に展開する政治的かつ経済的な背景やローカルな社会文化的な基盤や生活文化とも密接に関わる問題領域となりつつある。本プロジェクトは、(1)想定される宇宙に関する具体的なトピック(宇宙産業、ツーリズム、人間の身体的かつ認知的変容など)に対する従来の概念の有効性や方法論を検討する。(2)は、科研費によるJAXAとの共同調査プロジェクトと併行して行われ、宇宙開発技術者に対するインタビュー調査データの検討・解釈作業を進める。本研究は最終的に近代科学技術の検討を射程に入れた「宇宙人類学」という総合的な主題を設定した研究領域の確立を目指す。

研究成果

本共同研究会は、宇宙開発を対象とした文化人類学的研究の可能性、現代の先端的科学技術を主たる研究対象、フィールドとする場合の人類学のアプローチを検討することにあった。すなわち、先端科学技術の知識が世界観の一部となっている現代社会の様相を実証的・多角的に明らかにし、特に現代日本社会において先端科学技術と社会・文化が織りなす人々のリアリティに着目し、これについて人類学がいかにアプローチするかの検討を研究会の課題の中心に据えた。そこで、研究会では、本共同研究会と連動して行っている研究プロジェクト(学術振興会科学研究費等補助金平成27年度-28年度挑戦的萌芽研究「宇宙開発技術者に関するオーラルヒストリー調査」、平成29年度-32年度基盤研究(B)(特設分野研究)「先端科学技術をめぐるオラリティに関する複合的研究-日本の宇宙開発を中心として-」)の調査研究で得られた資料、データを共同研究会で検討した。宇宙開発に直接関わってきた技術者のオーラルストーリー、集合的記憶、技術の口頭伝承などに焦点をあてることにより、先端科学技術(宇宙開発)に関する多層的な社会・文化的次元の様態が明らかになり、先端科学科(技術)が生成・継承される現場(フィールド)の人類学的アプローチの可能性を示すことができた。また宇宙開発技術に関わる技術者コミュニティ、部品を製造する中小企業、および職工、宇宙関連施設周辺の地域住民におけるオラリティの多相性と、公的な記録、技術計画書、メディアの報道におけるリテラシーを比較検討し、先端科学技術と社会・文化の間の緊張・対立関係、接合関係を考察した。その上で、共同研究会には自然科学系の専門家、JAXAの有人宇宙開発関係者、技術者をゲストスピーカーとして招聘し、必要とされる専門的知識を研究会メンバーで共有するともに、研究者・専門家との議論を行った。加えて、共同研究会館外開催を兵庫県立大学天文台、国立天文台などで行うことにより、実際の設備、機材等について専門家の解説と質疑応答を行い、宇宙開発の最前線の状況について検討を行った。

2018年度

平成29年度の研究計画を踏まえ、最終年度の平成30年度は具体的な研究成果を上げるために、共同研究員の研究成果発表、特別講師として科学系他分野研究者を招聘した研究会をそれぞれ1回開催する計画(合計2回)をたてている。重点的に扱うトピックは前年度に引き続き、「宇宙空間における身体・認知能力の変容」「グローバリゼーションと宇宙ツーリズム」「宇宙関連施設開発と地域社会」「宇宙空間におけるコミュニケーション」である。また、研究会の研究成果としての出版編集方針などを具体的に検討する予定である。

【館内研究員】 飯田卓、上羽陽子、山本泰則
【館外研究員】 磯部洋明、岩田陽子、岩谷洋史、大村敬一、川村清志、木村大治、後藤明、佐藤知久、篠原正典、住原則也、水谷裕佳
研究会
2019年1月14日(月・祝)14:00~19:00(国立天文台 三鷹キャンパス)
岡田浩樹(神戸大学大学院)「宇宙人類学の射程」
日下部展彦(自然科学研究機構アストロバイオロジーセンター)「アストロバイオロジーについて」
成果出版の打ち合わせ
2019年1月15日(火)9:00~12:00(国立天文台 三鷹キャンパス)
国立天文台の施設視察
研究成果

2018年度は共同研究会の最終年度として、その成果発表に向けた打ち合わせなどを中心に共同研究会を実施した。本共同研究会は、関連して行われている研究プロジェクト(学術振興会科学研究費補助金特設分野B「オラリティと社会」)による調査研究と連動して実施されており、各研究分担者の個別の調査研究の成果を共同研究会において報告し、検討を行うとともに、成果物の発表スケジュール、その議論の成果の一部は、木村(2018)の著書などとして公表されている。また、国立天文台での共同研究会を実施し、アストロバイオロジー研究員日下部展彦氏)という新しい宇宙関連分野について、ゲストスピーカー(自然科学研究機構アストロバイオロジーセンターによる報告を通し、在進展中の宇宙開発に関連する自然科学の展開をメンバーで共有した。加えて、国立天文台の研究員による解説および施設見学、関係者からのヒアリングと議論を行い、宇宙に関する知識の社会的共有の問題についての議論、先端科学技術と社会煮関する知識人類学の問題について検討を行った。

2017年度

平成28年度の研究計画を踏まえ、平成29年度以降は具体的な研究成果を上げるために、共同研究者を追加し、共同研究員の研究成果発表、研究者だけでなく有人宇宙飛行関係者(科学系他分野研究者含む)を招いた研究会を3回程度、開催する計画をたてている。重点的に扱うトピックは「宇宙空間における身体・認知能力の変容」「グローバリゼーションと宇宙ツーリズム」「宇宙関連施設開発と地域社会」「宇宙空間におけるコミュニケーション」である。また、研究会の研究成果として中間成果および最終成果公開に向けた出版社(2社)との交渉に入っており、編集方針などを具体的に検討する予定である。

【館内研究員】 飯田卓、上羽陽子、山本泰則
【館外研究員】 磯部洋明、岩田陽子、岩谷洋史、大村敬一、川村清志、木村大治、後藤明、佐藤知久、篠原正典、住原則也、水谷裕佳
研究会
2017年7月22日(土)14:00~19:00(国立民族学博物館 第1演習室)
岡田浩樹(神戸大学)「宇宙人類学の現状と課題」
メンバー各自の研究計画の発表
2017年7月23日(日)10:30~16:00(国立民族学博物館 第1演習室)
メンバー各自の研究計画の発表
出版論文の編集会議、および今後の活動方向の打ち合わせ
2017年12月9日(土)13:00~00:00(兵庫県立大学西はりま天文台)
Contact JAPAN「Contact Japanについて」、鳴沢真也(兵庫県立大学)「SETIについて」
なゆた望遠鏡での観望
2017年12月10日(日)9:00~12:00(兵庫県立大学西はりま天文台)
観測(コンタクト・シミュレーション)の実施
2018年2月18日(日)10:00~17:00(国立民族学博物館 第3演習室)
篠原正典(帝京科学大学)「ドレークの方程式の”L”にイルカの行動学者が悩む」
渡辺謙仁(北海道大学大学院)「野火的な超小型衛星開発のエスノグラフィー――ソーシャルメディア衛星開発プロジェクトSOMESATを中心として」
次年度の研究会活動の打ち合わせ
研究成果

2017年度は、2018年度以降の研究成果の公刊に向け、メンバーの研究活動の報告および招聘研究者による発表、そして学外での宇宙関連施設(兵庫県立大学東はりま天文台)での研究会を実施した。日本の宇宙開発を対象とした人類学的研究の可能性を探るという点から、研究会のメンバー以外の多様なテーマに取り組む研究者を招聘し、宇宙開発に関するトピックの視野を広げることができた。西はりま天文台で研究会では、NASAおよび世界的に展開しているSETI project(Search for Extra Terrestrial Intelligence:地球外高度知的生命探査)に関する発表および、知的生命体とのファーストコンタクトをシュミレーションする国際民間研究グループの日本支部(Contact Japan)のワークショップに参加した。人類学において一つのテーマである「異文化の接触」の知見を応用し、人類学的研究の仮想的未来における有効性を検討する際の可能性と課題が明確になった。加えて2017年度は研究成果の前提となる研究調査を実施するために、学術振興会科学研究費補助金特設分野(オラリティ)に「先端科学技術をめぐるオラリティに関する複合的研究」というテーマで申請し、採択された。これにより、研究成果の公表の前提となる研究調査の実施が可能になり、研究会が有機的に運営できるようになっただけでなく、国内外の研究者を広く招聘し、「宇宙人類学」という研究領域の確立に向けて進展があった。

2016年度

平成28年度では、研究会を3回程度、開催する計画をたてている。共同研究の各メンバーと招聘した特別講師の発表、および意見交換を中心に、宇宙開発を人類学的に研究する際の課題を検討する。扱うトピックは「宇宙空間における身体・認知能力の変容」、「グローバリゼーションと宇宙ツーリズム」、「宇宙関連施設開発と地域社会」、「宇宙空間におけるコミュニケーション」である。また、今年度終了翌年度(平成29年度)に予定している学術的な成果『宇宙人類学の展開』に向けた議論を開始する。

【館内研究員】 飯田卓、上羽陽子
【館外研究員】 磯部洋明、岩田陽子、岩谷洋史、大村敬一、川村清志、木村大治、佐藤知久、篠原正典
研究会
2016年6月25日(土)13:30~18:00(国立民族学博物館 第4演習室)
長谷川義幸(JAXA)「日本の有人宇宙開発」
2016年6月26日(日)10:30~17:00(国立民族学博物館 第4演習室)
水谷裕佳(上智大学)「宇宙研究と北米先住民社会のかかわり」
成果出版、および今後の活動方向の打ち合わせ
2016年12月3日(土)14:00~18:00(国立民族学博物館 第3演習室)
宮嶋宏行(国際医療福祉大学)「宇宙居住や生命維持システムに関する研究」
意見交換
2016年12月4日(日)10:30~12:00(国立民族学博物館 第3演習室)
成果出版、および今後の活動方向の打ち合わせ
2017年2月18日(土)14:00~18:00(国立民族学博物館 第1演習室)
鳴沢真也(兵庫県立大学)「地球外知的生命探査論」
2017年2月19日(日)10:00~18:00(国立民族学博物館 第1演習室)
成果出版、および今後の活動方向の打ち合わせ
菅浩二(國學院大學)「冥王星と宇宙葬」
研究成果

本年度は、主に科学系分野を中心とした他分野の外部講師を招き、宇宙開発に関する様々なトピックについて、人類学的接近の可能性を探り、議論を深めることができた。まず、宇宙関連施設と地域住民の関係については、「科学人類学」「技術人類学」の課題として重要なフィル土であることが明らかになった。すなわち、現代の最先端科学技術の知識と科学的世界観、論理が一般市民、地域住民や先住民に受容され、理解されているかの問題であり、同時に、開発と地域社会、先住民との関係という古典的テーマが交錯するフィールドである。次に、閉鎖実験棟における生命維持システムの問題は、住環境や環境認識、さらには文化としての居住空間という人類学的問題と接続することが明らかになった。そして地球外生命体との交信の問題(NASAのSETI Project)は、異文明、異文化とのコンタクトの問題やコミュニケーションの問題という重要な議論に展開しうる。宇宙開発技術者に関するインタビューデータについては、日本の有人宇宙開発の中心的役割を担ったJAXAの長谷川氏の講演および質疑応答を通して、今後の研究方針を明確にすることができた。

2015年度

研究会を2回開催し、目指される研究枠組みについて、各参加メンバーと方向確認、意見交換をはかる。また、宇宙開発技術者のオーラルヒストリー研究の方法論的検討も行う。なお、平成28年度末に出版予定の一般向けの書籍『宇宙人類学への招待』の構成、分担についての議論をおこなう。
また平成27年度に収集した宇宙開発技術者オーラルヒストリーの公表『JAXA report』のための検討を行う(平成27年年度末発行、以下、平成29年まで継続)。

【館内研究員】 上羽陽子、飯田卓
【館外研究員】 磯部洋明、岩谷洋史、岩田陽子、大村敬一、川村清志、木村大治、佐藤知久、篠原正典
研究会
2015年12月26日(土)13:30~18:00(国立民族学博物館 第1演習室)
岡田浩樹(神戸大学大学院)「宇宙開発の文化人類学的研究の可能性」
質疑応答
参加者全員「各自の研究の紹介および今後の予定の検討」
2015年12月27日(日)10:30~17:00(国立民族学博物館 第1演習室)
佐藤知久(京都文教大学)「Japan space exploration oral history project(JSE project)について」
大関恭彦「日本の宇宙開発に関する専門的知識の提供」
全員「宇宙開発に関わる資料の検討」
2016年2月20日(土)13:30~18:00(国立民族学博物館 第1演習室)
研究成果物編集会議、および今後の活動の打ち合わせ(参加者全員)
2016年2月21日(日)10:30~17:00(国立民族学博物館 第7セミナー室)
岸本統久(JAXA)「衛星ナヴィゲーションについて」
後藤明(南山大学)「人類学と天文学:スカイロア/スカイスケープ人類学の系譜と可能性」
全体討論
研究成果

第一回研究会では、宇宙開発に関する人類学的研究の可能性と課題について、共同研究会に先立つ日本文化人類学会研究課題懇談会「宇宙人類学研究会」の活動について報告、参加者による検討と議論を行った。議論を通し、今後の研究会については、1.日本の有人宇宙開発に関わったスピーカーを招聘、参加者による議論を行う事、2.宇宙開発の現在的状況と文化人類学の接点を探るために様々な分野の研究者を招聘することを決定した。翌日はJAXAの大関恭彦氏による日本の宇宙開発の歴史と現状についての発表、これに対する議論を行った。第二回研究会では、JAXAの岸本明氏による衛星ナビゲーションシステムの現状についての報告、後藤明氏の天文人類学についての報告について討議した。第一回、第二回の議論を通し、(1)宇宙開発が人類学者の様々なフィールドに影響を与えつつあることの共通理解、(2)宇宙開発が直面する諸課題あるいは今後の課題について、これまでの人類学的知識が寄与しうる可能性の確認、(3)人類学の「伝統的手法」インタビュー調査(オーラルヒストリー)、フィールドワークの有効性と科学技術人類学のへの展開の可能性が明らかになった。