グローバル時代における「寛容性/非寛容性」をめぐるナラティヴ・ポリティクス
キーワード
寛容性、ナラティヴ、異人
目的
急激にグローバル化が進展し、人間の移動が激しさを増すとともに、多文化的状況が今後さらに進展することが予想される。西欧の列強と呼ばれた国々では、かつての植民地から大量の移民が流れ込み、ある意味では予想外の、だが、ある意味では、必然の結果とも言うべき、皮肉な現象が起きている。こうした地球規模の社会環境の変容に加えて、従来の口承性や書承性を超越するメディア環境の変容の影響下で、文化的他者認識としての「異人」を迎える側の経験は、その質と量において、かつての「異人論」が想定していた状況とは比べものにならない規模となっている。さらに、この大量移動の時代は、程度の差こそあれ、誰もが自らも異人となる経験を持つことが当たりとなっている。問題は、こうした状況において、大小さまざまなコンフリクトが発生し、「不寛容」社会が出現しつつある点である。
本研究では、こうした状況を解明し、これに応答するために手がかりとするのが、「異人論」である。文化人類学及び民俗学の学問的伝統においては、外部から訪れる他者、すなわち「異人」に対する歓待や排除、蔑視あるいは畏怖や憧れなどの観念や行動をめぐって、「異人論」と称される研究の蓄積がある。本研究では、「異人論」という視点や方法を再考し、鍛えなおすことで、人文科学の立場から現代的問題の解決の糸口を探ることを目的とする。
2020年度
2020年度は、引き続き各メンバーの調査研究対象である事例の発表、あるいは異人論に関連する理論に関する発表を順次に行い、全員が検討を加える。異人をめぐる説話・民話などの物語、現代的な新しい形態のナラティヴと現代的問題との関係、いわば物語と現実社会との関係について、さらに現代的な「異人問題」との関係性も視野に入れて集中的に検討を加えていく。そこでは、異人を排除する物語の論理を見極め、異人との間の相互的均衡的な関係性を打ち立てるような、ナラティヴがもつ潜在的な可能性について検討していく。対面的あるいは微視的なコミュニケーションの次元から、文学作品や映画など広く社会的に影響をもつ芸術作品における異人をめぐるナラティヴが共通の関心から検討する。
【館内研究員】 | 西尾哲夫、韓敏、河合尚洋 |
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【館外研究員】 | 鵜野祐介、及川祥平、小川伸彦、カルディルチャーナ、川島秀一、川松あかり、君野隆久、國弘暁子、小松和彦、竹原新、村井まや子、横道誠、岩本通弥、小長谷有紀 |
研究会
- 2020年10月31日(土)13:00~17:00(ウェブ会議)
- 村井まや子(神奈川大学)「新しい皮――おとぎ話のなかの毛皮と現代アート」
- カルディ ルチャーナ(大阪大学)「異人としての狐――20世紀~21世紀のアメリカ文学における日本の民話の受容」
- 2020年11月28日(土)13:00~17:00(ウェブ会議)
- 河合洋尚(国立民族学博物館)「異人から客家へ――清末・民国期、広東の「客」をめぐるナラティブ・ポリティクス」(仮)
- 小川伸彦(奈良女子大学)「Corona-rative?―寛容性/非寛容性の実験場」
- 2021年1月23日(土)13:00~17:00(ウェブ会議)
- 横道誠(京都府立大学)「異人についてのエスノグラフィー 発達障害自助グループ・当事者研究会のナラティヴ・ポリティクス」
- 全成坤(翰林大学)「災害をめぐる経験とナラティヴの間」
2019年度
2019年度は、異人論を構成する基本概念である「異人」、「異類」、「他者」などをめぐり、これらに関連する説話・民話を取り上げて、それらの物語が語られている社会状況を視野に入れて、各地の文化人類学的・民俗学的研究調査の成果と関連づけながら検討していく。「異人」をめぐる排除、あるいは歓待や包摂をめぐる物語の構造・論理を析出し、さらにそれを支える社会的状況に着目しながら検討を加えていくことは、説話・民話などの物語のテキスト内部の分析に終始することなく、つねに社会との関わりのなかで、物語を捉えていくという本研究の基本的な立場であり、研究メンバーに共通の認識として周知していく。持ち回りで、各メンバーの調査研究対象である事例の発表、あるいは異人論に関連する理論に関する発表を順次に行い、全員が検討を加える。従来的な説話・民話にとどまらず、新たなメディア環境・物語表現のなかでの異人をめぐる表象や、大量の難民や移民と受け入れ先の社会との間で発生している現代的な「異人問題」との関係性も視野に入れていく。
【館内研究員】 | 西尾哲夫、韓敏、河合尚洋 |
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【館外研究員】 | 鵜野祐介、及川祥平、小川伸彦、カルディルチャーナ、川島秀一、川松あかり、君野隆久、國弘暁子、小松和彦、竹原新、村井まや子、横道誠、岩本通弥、小長谷有紀 |
研究会
- 2019年6月8日(土)13:00~17:00(国立民族学博物館 第2演習室)
- 郭莉萍(北京大学)「中国におけるナラティブ・メディスン研究」
- 関谷雄一(東京大学)「震災復興の公共人類学――災害と向き合う協働研究」
- 2019年6月9日(日)9:00~13:00(国立民族学博物館 第2演習室)
- 川島秀一(東北大学)「『寄りもの』と災害伝承」
- 王鑫(北京大学)「中国の天狗伝承」
- 2019年11月2日(土)14:00~18:00(国立民族学博物館 第1演習室)
- 國弘暁子(早稲田大学)「現代インドにおける異人のゆくえ――グジャラートのヒジュラとサバルタン問題に関する考察の事例から」
- 岩本通弥(東京大学)「『迷惑』と非寛容――家族に異人が入ること(仮)」
- 2019年11月3日(日)10:00~13:00(国立民族学博物館 第1演習室)
- 周星(愛知大学)「異人としての留学生グループ――寛容性/非寛容性の観点から」
- 今後のスケジュールと進め方
- 2019年12月7日(土)13:00~17:00(国立民族学博物館 第1演習室)
- 館内展示の見学
- 島村恭則(関西学院大学)「民俗学・ヴァナキュラー・ナラティヴの権利―民俗学的視角とはいかなるものか―」
- Kim Jinah(Université Sorbonne Nouvelle - Paris 3)
- 2019年12月8日(日)10:00~13:00(国立民族学博物館 第1演習室)
- 及川祥平(成城大学)「末裔の組織における差異化と排除」(仮)
- 鵜野祐介(立命館大学)「在日コリアンの説話伝承とパンソリ」
- 2020年1月25日(土)13:00~17:00(国立民族学博物館 第3演習室)
- 足立重和(追手門学院大学)「語りはなぜ社会学の問題になるのか」
- 川松あかり(東京大学)「『異人による町』としての炭鉱町とその『記憶』:旧産炭地筑豊における調査事例から(仮)」
- 2020年1月26日(日)10:00~13:00(国立民族学博物館 第3演習室)
- 竹原新(大阪大学)「現代イランの祭り」
- 君野隆久(京都造形芸術大学)「『捨身の仏教:日本における菩薩本生譚』をめぐりて」
研究成果
2019年度は、異人論を構成する基本概念である「異人」、「異類」、「他者」などをめぐり、これらに関連する説話・民話を取り上げて、それらの物語が語られている社会状況を視野に入れて、各地の文化人類学的・民俗学的研究調査の成果と関連づけながら検討したく。「異人」をめぐる排除、あるいは歓待や包摂をめぐる物語の構造・論理を析出し、さらにそれを支える社会的状況に着目しながら検討を加えていくことは、説話・民話などの物語のテキスト内部の分析に終始することなく、つねに社会との関わりのなかで、物語を捉えていくという本研究の基本的な立場であり、研究メンバーに共通の認識として周知を試みた。持ち回りで、各メンバーの調査研究対象である事例の発表を実施した。海外から「ナラティブ・メディスン」の研究者を迎えて際研究会を実施したのが特筆すべき成果である。「語り」に関する社会学理論、「ナラティヴの権利」に関する民俗学の最新の研究などについてもゲストを迎えて研究会を実施し、従来的な説話・民話にとどまらず、新たなメディア環境・物語表現のなかでの異人をめぐる表象や、大量の難民や移民と受け入れ先の社会との間で発生している現代的な「異人問題」との関係性も視野に入れて検討をした。
2018年度
2018年度は、本共同研究が複数分野の研究者による学際的研究であるため、本研究の趣旨と基本方針を全員が確認したのち、ともすれば重要な用語・概念が分野によって異なった意味やニュアンスで用いられているため、岡正雄、山口昌男、小松和彦らの異人論にかかる研究を再検討し最新の研究動向も把握して、関連用語・概念を整理し共通認識を得る。
【館内研究員】 | 西尾哲夫 |
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【館外研究員】 | 鵜野祐介、及川祥平、小川伸彦、カルディルチャーナ、川島秀一、川松あかり、君野隆久、國弘暁子、小松和彦、竹原新、村井まや子、横道誠 |
研究会
- 2018年11月10日(土)13:00~17:00(国立民族学博物館 第2演習室)
- 山泰幸(関西学院大学)「共同研究会の趣旨説明」
- 参加者全員「各自の研究紹介と今後の予定について」
- 2018年11月11日(日)10:00~13:00(国立民族学博物館 第2演習室)
- 西尾哲夫(国立民族学博物館)「アラビアンナイトからシャイロック、そして異人学にむけて――女嫌い・反セム主義・イスラモフォビア」(仮)
- 2019年2月9日(土)13:00~17:00(国立民族学博物館 第4セミナー室)
- 西尾哲夫(国立民族学博物館)「中世から近代におけるアラブ民衆文学の中国表象――アラビアンナイト異本の比較分析から」
- 色音(中国社会科学院民族学與人類学研究所)「中日馬娘婚姻物語の比較的考察」
- 村井まや子(神奈川大学)「日本の現代美術をとおしてみる野生動物駆除の現状と民話的動物表象の変容」
- 杜谆(天津工业大学马克思主义学院)「作为人文资源的伏羲神话」
- 2019年2月10日(日)10:00~12:00(国立民族学博物館 第4セミナー室)
- 鵜野祐介(立命館大学)「説話伝承とダイバーシティ――手話による絵本よみ語りの活動を通して―」
- 郑筱筠(中国社会科学院世界宗教研究所)「中国における仏本生物語について」
- 君野隆久(京都造形芸術大学)「日本における薩埵(サッタ)王子本生譚」
研究成果
初年度の2018年度は、第1回目の研究会では、研究代表者の山から共同研究の趣旨の説明と、館内代表者の西尾から自身の研究をもとに共同研究の理論的枠組みや狙いについて報告がなされた。第2回目は、関西学院大学シルクロード研究センターと共催で、同センターが招聘した中国社会科学院民族学與人類学研究所、中国社会科学院世界宗教研究所、天津工业大学马克思主义学院の人類学者、民族学者など関連分野の研究者の参加を得て、「シルクロードと文化交流-人の移動、表象、物語-」をテーマに、国際シンポジウム形式で実施した。刺激的かつ有意義な機会となった。さらに研究交流を進めることになった。