グローバル化時代における「観光化/脱-観光化」のダイナミズムに関する研究
キーワード
観光、脱-観光化、グローバル化
目的
本研究は、多様化し拡大する観光現象を文化人類学的に捉え、新たな理論的転回を図ることを目的とする。
1980年代以降、文化人類学は観光という現象に着目するようになった。しかし、観光社会学ではJ.アーリやS. ラッシュらのグローバル論と関連付けながら新たな理論的展開を遂げたのに対し、人類学内部ではその現状をうまく捉えきれず、2000年代以降、観光研究は停滞しつつある。
そして現在、観光の形態はさらに多様化している。それは戦争など負の歴史を次世代へと伝え(ダークツーリズム)、移住を検討させ(移住観光)、自然と人間の共存を教育し(エコツーリズム)、アニメ作品などのファンと交流を図り(コンテンツツーリズム)、衰退した地域社会を再興させるものである(地域文化観光)。つまりこれまでまったく別々の文化現象だったものが、「観光」という文脈に包含されつつあるといえる。
他方、これまで観光の文脈で語られてきたものが、環境破壊や地域住民と観光客とのコンフリクトの増加などにより、制限され、文脈をずらされるという現象も起きている。 本研究ではこれらの過程を「観光化」「脱-観光化」と概念化し、考察を深める。具体的には、①国内外の諸事例がいかにして「観光」の文脈に包含され/「観光」の文脈からずらされていったのか、その詳細を実証的に検討し、②グローバル化の議論を批判的に参照しつつ、人類学全体を見据えた新たな視座の構築を目指す。
2020年度
本年度は4回の共同研究会を民博館内で実施する。メンバーは、全員が最低一度ずつ共同研究会での報告を行い、各自の事例と本共同研究のテーマである「観光化」と「脱観光化」との関係について検討する。また4回のうち2回の研究会では、特別講師をそれぞれ2名ずつ招聘する。特別講師は、観光研究にかかわる他分野(観光社会学、観光経営学を予定)の近年の理論的な動向について研究報告を行い、本研究会の個別事例や理論的課題との対話を行う。また、4回の研究会の中で2回ほど、少数メンバーによる理論的検討のためのミーティングの時間を取り、次年度以降の成果報告に向けて全体の枠組みを検討する。そのほか、国際会議や国内の学会・研究会、また可能であればシンポジウムなどの機会を設け、共同研究会の中間成果を公開する場を設ける。加え、各メンバーは国内外の学術雑誌や学会・研究会で本研究における各自の中間成果を公表する。
【館内研究員】 | 奈良雅史 |
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【館外研究員】 | 岡本健、越智郁乃、紺屋あかり、鈴木佑記、中村香子、福井栄二郎、藤野陽平 |
研究会
- 2021年2月5日(金)14:30~18:00(ウェブ会議)
- 中村香子(東洋大学)「ケニアのマサイ民族文化観光における脱-観光化(仮)」
- 鈴木佑記(国士館大学)「海民村落比較研究事始:タイ領アンダマン海域における「観光化/脱-観光化」(仮)」
- 全員「観光化と脱観光化とは?――発表2事例をふまえて」
- 2021年3月5日(金)14:30~18:00(ウェブ会議)
- 紺屋あかり(明治学院大学)「コロナ禍のパラオにおける脱観光化(仮)」
- 岡本健(近畿大学)「ポスト・コロナの新たな観光様式(仮)」
- 全員「ポスト・コロナの観光化と脱観光化――発表2事例をふまえて」
2019年度
本研究は、9人のメンバーによる個別事例の検討と、それを踏まえた理論構築を目指す。総論と各論は常にフィードバックできるよう、各自のメンバーは双方を念頭に置いた研究を行い、全体としての統一感を保持できるようにする。
初年度は、研究会全体の方向性を確認する。とくに「観光化/脱-観光化」という概念について議論を深める。また学会での分科会、出版、シンポジウム等の実現可能性についても話し合う。
【館内研究員】 | 奈良雅史 |
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【館外研究員】 | 岡本健、越智郁乃、紺屋あかり、鈴木佑記、中村香子、福井栄二郎、藤野陽平 |
研究会
- 2019年12月14日(土)13:30~18:00(国立民族学博物館 第1演習室)
- 東賢太朗(名古屋大学)「共同研究の概要と枠組みに関するプレゼン」
- 全員「各メンバーの研究紹介と共同研究会での役割」
- 2019年12月15日(日)10:00~12:00(国立民族学博物館 第1演習室)
- 全員「今後のスケジュールと進め方、特別講師招聘について」
- 2020年2月1日(土)13:30~18:00(国立民族学博物館 第3演習室)
- 遠藤英樹(立命館大学)「モバイル=デジタル時代の観光――観光を「脱構築」する」
- 須藤廣(跡見学園女子大学)「観光学の近代・ポスト近代」
- 2020年2月2日(日)10:30~12:00(国立民族学博物館 第3演習室)
- 全員「招聘講師発表の振り返りと次年度に向けての計画打ち合わせ」
研究成果
初年度は、2回の共同研究会を開催した。第1回研究会では、メンバー全員が各自のこれまでの研究の紹介と本共同研究内での役割について報告を行った。また、本共同研究の鍵概念である「観光化」と「脱-観光化」について、メンバー間での理解を深め共有するために各自の事例をもとに議論を行った。課題として、観光社会学の知見をどのように取り入れ、またどのように差異化すべきかという点が明らかになった。 その課題をふまえ、第2回研究会では観光社会学の研究者2名を特別講師として招いた。モビリティ社会とポスト近代における観光に関する発表をもとに、近年の観光社会学の研究動向について議論を行った。また「観光化」と「脱-観光化」概念についても、それらの動向に位置付け直し再検討した。その結果、両概念は相反するものではなく、双方が現代社会における観光の変容を反映した動きであることが明らかになった。