国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

食生活から考える持続可能な社会――「主食」の形成と展開

研究期間:2019.10-2022.3 代表者 野林厚志

研究プロジェクト一覧

キーワード

主食、食生活、持続可能社会

目的

本研究の目的は、人類の食生活を生態、文化、社会、歴史の観点から検証し、持続可能な社会を実現するための食生活のありかたを探究することである。そのための作業概念として「主食」を採用する。「主食」に相当する語彙や概念は普遍的ではなく、時代や地域によって多様であるが、「人を肉体的・精神的に養ううえで、中心的役割を果たす食べもの」という一定の定義を与えることで、具体的な食生活中の「主食」の諸相から、対象とする社会や集団における食のあり方とその背景をより端的に浮かび上がらせることが可能となる。
食生活とは、食品の生産、加工、流通、消費、調理、廃棄の過程であり、自然環境、価値観、教条、法律や制度、経済条件、身体的な欲求や生理的条件、個人的な嗜好などが、人間の営みを通して密接に関連しあっている。それらの関連性を「主食」という作業概念にそって整理し、考察することにより、地球規模で人間が引き起こしている食の問題を明らかにする。そのうえで、人類学を中心に、歴史学、調理学、体育学などの食生活を理解するうえで核となる諸分野による学際的な議論を通して、人類の食生活のあるべき姿を検証したい。

2020年度

2020年度は、合計3回の研究会合を実施する予定である。研究計画参加者による研究報告を2020年度の共同研究の主要な課題とする。具体的な内容としては、1)農産物以外の食料資源の獲得が主要な生業となってきた社会における主食のありかたに関して、狩猟採集社会(池谷)、牧畜社会(大石)、水産資源(濵田)の報告を、2)主食が社会的な規範やガバナンスにどのように関わるかについて、国民食の形成と家庭食(宇田川)、主食を含めた食の宗教的権威性(菅瀬)、先住民族社会の主食の変容(野林)を予定している(開催順不同)。また、上記の内容を補完する研究報告を、ゲストスピーカーを招聘して実施することも検討する。具体的には、水産資源については内水面漁労が行われる内陸部の事例(神奈川大学・安室知教授)、主食生産の歴史的検討(京都大学・米家泰作准教授)等を想定している。

【館内研究員】 池谷和信、宇田川妙子、大石侑香、菅瀬晶子
【館外研究員】 梅崎昌裕、木内敦詞、佐藤廉也、中澤弥子、那須浩郎、濱田信吾
研究会
2020年7月31日(金)15:00~17:00(国立民族学博物館 第3セミナー室 ウェブ会議併用)
大石侑香(国立民族学博物館)「シベリア先住民の主食の取り入れ方とその過程」(仮)
質疑応答と全体討論
2020年9月14日(月)15:00~17:00(国立民族学博物館 第6セミナー室 ウェブ会議併用)
野林厚志(国立民族学博物館)「主食にあらわれるエスニシティ:台湾原住民族の事例を中心に」
質疑応答と全体討論
2020年10月2日(金)10:00~12:00(国立民族学博物館 第6セミナー室 ウェブ会議併用)
菅瀬晶子(国立民族学博物館)「中東における主食概念とアブラハム一神教:東地中海地域の事例を中心に」
質疑応答と全体討論
2020年11月5日(木)15:00~17:00(国立民族学博物館 第6セミナー室 ウェブ会議併用)
宇田川妙子(国立民族学博物館)「イタリアのパン・小麦から考える「主食」(仮)
質疑応答と全体討論

2019年度

2019年度は、合計2回の研究会合を実施する予定である。本共同研究が採択された場合には、キックオフのための研究会合を早期に実施し、代表者の野林が本研究の趣旨と研究遂行の大筋を説明する。その上で、共同研究員全員で研究会の具体的な進め方について検討するとともに、個々の研究発表の見通しを確認する。第2回目の研究会合をもって研究発表と討議を主体とした研究会合を本格的にスタートさせる。

【館内研究員】 池谷和信、宇田川妙子、大石侑香、菅瀬晶子
【館外研究員】 梅崎昌裕、木内敦詞、佐藤廉也、中澤弥子、那須浩郎、濱田信吾
研究会
2019年10月14日(月)10:00~16:00(国立民族学博物館 第4演習室)
野林厚志(国立民族学博物館)「主食研究の趣旨と全体の構想」
参加者の研究の構想
2020年1月13日(月・祝)10:00~18:00(国立民族学博物館 第3演習室)
次年度発表に関する懇談(次年度発表予定者)
先住民族の生活文化に関する展示見学(全員)
野林厚志(国立民族学博物館)「第2回研究会の趣旨説明」
那須浩郎(岡山理科大学)「農耕のはじまりと主食の形成」
佐藤廉也(大阪大学)「根栽農耕とイモ食」
総合討論
研究成果

本年度は当初の研究計画にしたがい、代表者からの研究全体の見通しと構想、共同研究員による研究の展望と貢献の計画について議論を行ったうえで(第1回目)、人間が主食としてきた主要な作物である穀類、豆類、根栽類について、人類史的なスケールもあわせた利用の歴史や社会的な位置づけに関する発表をえた。発表を受けての総合議論では、主食という存在が農耕と不可分の関係にあるのか、穀物と根栽の属性の違い(植物としての性質―保存性、生産量、キャリング・キャパシティ、季節性、自然環境との調和性、文化的観点からの性質-小象徴生、料理への適用、副菜との組み合わせ、歴史的観点からの性質―ドメスティケーションの過程、税)といった諸点について検討を行なった(第2回目)。主食という概念が通文化的に適用できるかどうか、また、その概念がさす具体象の多様性や時代変化等、次年度以降の研究発表や議論に組み込んでいく内容について深化させた。