国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

19世紀における日本在外博物学・民族学標本コレクションの実態調査(2002-2005)

科学研究費補助金による研究プロジェクト|特定領域研究(2) 代表者 近藤雅樹

研究プロジェクト一覧

目的・内容

この研究は、研究代表者らが1980年以来ボン大学日本研究所と連携して実施してきた調査の延長上で、前年度に引き続き、欧米の諸博物館・海外研究協力者および海外諸博物館等と連携している研究協力者とともに、わが国の近代の黎明期における科学・産業技術資料を多数包含する在外博物学・民族学標本コレクションのデータベース化をはかり、国際的な学術情報ネットワークを構築するために一翼を担って人文諸科学の発展に貢献しようとするものである。
データベース構築の基礎とする在外コレクションの所在と、その調査研究に従事する班員の分担は以下のとおり。
(1)シーボルト・コレクション等、ドイツ語圏を中心にヨーロッパ方面15カ国に所在する大型コレクション:近藤・熊倉・宮坂。
(2)ペリー艦隊による蒐集資料、モース・コレクション等、アメリカ合衆国内に所在する大型コレクション:宇野。
各コレクションの全容を把握・分析して得られる最終的な研究成果は、当時のわが国における科学・産業技術の水準が、産業革命勃興記の欧米社会に比肩する成熟段階に達していたことを証明し、ともすればわが国の近代化が欧米科学技術の一方的な受容により進行したと考えられがちな従来の認識をただすために公刊する。また在外コレクション所蔵各館と連携して特別展示を立案企画し、国内外を巡回して広く公開することにより、当該コレクションが有する学術上の意義と重要性の周知につとめる。

活動内容

2005年度活動報告

2006年8月まで期間延長。

2004年度活動報告

イギリス・ドイツ・ギリシャ・イタリア・ロシア・アメリカ各国において、民族学・科学技術系博物館等が所蔵する日本資料コレクションの調査を実施した。クンスト・カメラ(人類学博物館・サンクトペテルブルグ)では18世紀に日本の工人に発注された総ガラス絵の望遠鏡多数を確認する等多くの成果を得た。江戸時代における輸出用工芸品の種類と技術力の高さを端的に示すこれらのガラス絵は、日本国内には残存例がないであろう。同館では、作風不明の画家とされている森雄仙の作品(掛軸・洛外月次風景)数点を発見したことも特筆される。ヴァチカン美術館・アジア博物館(コルフ島・ギリシャ)が各々所蔵する日本コレクション調査でも、前者では明治期の等身大生人形や初期キリシタン関係資料を、また後者では長崎唐蘭館絵巻等の風俗画類を確認したが、いずれも未紹介の資料である。ペリー艦隊資料の調査を主眼としたアメリカでは、米国議会図書館より日米交渉資料リストを入手し、ノイズコレクション中の浮世絵・絵本類の収蔵状況も確認した。スミソニアン自然史博物館ではホーチンス氏のArtifacts of diplomacyを入手。メトロポリタン美術館等でも鍋島焼・平戸焼コレクションを調査した。ピーボディー・エセックス博物館のモースコレクション中に見出した都市在住木地師が使用していた製作用具(明治初期)は東京教育博物館から寄贈されたものと思われるが、日本国内にほとんど類例がなく貴重である。
この調査と連携して、海外研究協力者が中心になり組織した在欧博物館のメンバーによる国際シンポジウム(開催地プラハ)に、複数の班員が招待され出席した。そして、近藤が博物館資料の電子情報媒体の共有化に関して国立民族学博物館のデータベースの現状と将来展望の概要を報告した。あわせてシンポジウムに参加した在欧諸博物館の研究者との間で、最新の日本コレクションの所在状況につき情報の収集につとめた。

2003年度活動報告

ドイツ(ミュンヘン・ハイデルベルグ等)、イギリス(ロンドン等)、アイルランド(ダブリン等)、オランダ(アムステルダム等)、スイス(チューリヒ)、アメリカ(ワシントン・デトロイト等)各地の民族学系博物館および科学博物館等が所蔵する日本資料コレクションの調査を実施した。特筆すべき調査成果は次の通り。(1)ミュンヘン民族学博物館において相当数の和製銃器、出島より輸出された清国製陶板画を嵌め込んだ漆塗円卓の他、父シーボルトが収集した「金銀山并金銀鋳造之図」「城郭之図(縄張図)」等きわめて重要な巻子類の発見。(2)ドイツミュージアムにおいて手漉和紙製造具一式と各種和製楽器(展示公開中)以外に、京都町屋を撮影した初期の立体写真器等多数の非公開所蔵資料の所在を確認。(3)スミソニアン博物館における松本喜三郎作の生人形(男性裸像)の発見等である。成果は近く前年度分と併せて読売新聞紙上に紹介する(10回連載)。また研究協力者が所属する大阪歴史博物館や江戸東京博物館等において、これらの資料を含むコレクションを紹介する展覧会を1908年前後に開催するべく企画の具体化を進めている。
在欧日本資料コレクションの所蔵状況を把握するため海外共同研究者Josef Kreiner(ボン大学日本研究所長・教授)と諮り、ヨーロッパ各国の諸博物館に国際シンポジウムの開催を提案し、トヨタ財団の支援を得て15国55人のキュレーターが報告するボン大学主催シンポジウムの開催を実現し、日本からも15人が参加した。現在英文報告書を印刷中であり、一年後の和訳報告書の刊行をめざして総括班と諮り準備を進めている。
ハイデルベルグ大学東アジア地域研究所が着手した、ドイツ国内の中小規模博物館が所蔵する日本資料コレクション調査の現況を視察した結果、同国内にはまだ80館以上の調査対象館が所在することが判明した。今後は同研究所とも連携を密にして研究の遂行にあたる。

2002年度活動報告

オランダ・ドイツ・チェコ・スペイン・ポルトガル・アメリカ合衆国の主要民族学系博物館を中心に日本の博物学・民族学関係資料の所蔵状況ならびに資料情報のコンピュータ処理・運用状況等を調査した。近藤・熊倉・宮坂と研究協力者小林淳一等が川原慶賀作彩色人物画百葉(ミュンヘン)の紹介を『週刊朝日百科』に連載中。
所蔵状況調査では、漢方医術に関する薬用標本・器具・模型・文献類、ガラス乾板コレクション等日本の近代科学・産業技術の解明に有益な資料を各地で多数確認した。ガラス乾板の大半は劣化が危惧され被写体の確認が切望される。明治初期の蝋管コレクション(ベルリン)はデジタル音声化する置換作業が進行中である。海外博物館(ブレーメン)では江戸時代に収集された大量の未登録資料を確認、舶載船名等も判明し追跡調査が可能。ハンブルグ市立民族博物館では近年屋根裏から1万点余の日本関係資料が発見され、約百年ぶりに開梱整理中。ともに全容解明と展示企画実現に向け協議している。アメリカ合衆国ではスミソニアン博物館(ワシントン)所蔵のペリーコレクションを中心に、調査研究の推進と日米欧における展示公開について協議し準備に着手した。各国の小規模博物館が所蔵する未紹介コレクションに関する有益な所在情報も種々獲得した。
所蔵資料情報のコンピュータ処理・運用状況については、ライデン・ベルリン両国立民族学博物館を中心にナープルスティク博物館(プラハ)等が参画して進行中のインターネットによるデジタル情報共有化の実現に向けた開発の実情を調査、本科研「江戸のモノづくり」が参画する体制つくりを協議している。しかし現段階では翻訳・国ごとに異なる既存システムの調整・版権保護等に関する課題の克服が困難な状況にあり、日本としても国際社会と連携して取り組むプロジェクトの構築が急務である。