博物館施設にみる日系移民社会の形成と変容および文化の創造に関する文化人類学的研究(2003-2005)
目的・内容
本研究の目的は、主としてハワイとロサンゼルスの博物館施設における展示、および施設内外での諸活動の分析から、日系移民達の集団形成と文化の創出の変遷過程と現況を明らかにすることである。まず、展示内容や展示方法等の比較をし、日系移民の社会と文化の生成過程の相違点と共通点について検討する。つぎに、博物館施設の設立背景および館内外での活動に関するフィールドワークをおこない、調査結果の分析から移民社会と地域社会、そして出身地等との関係性について検証する。さらに、日系の博物館施設を相対化させるため、日系移民をとりあげた移住先の非日系組織による展示、および日本の博物館施設との対比もおこなう。
活動内容
◆ 2005年10月より大分県立芸術文化短期大学へ転出
2005年度活動報告
今年度の目標は、前年度末までにある程度出来上がっていた博士論文を完成させ、その成果をできるだけ多くの研究会や学会などで発表すること、そして本研究の目標に照らして博士論文では不充分だった部分を補足しつつ、研究を完成させることであった。
まず、博士論文については「中国の国民形成と少数民族」という標題で9月に完成させ、九州大学大学院文学研究科に提出して9月22日付で博士号を取得した。この博士論文は来年度の出版を目指し、現在出版社(風響社)と交渉中である。学会発表としては、5月に「雲南省徳宏州における漢族文化の位相」をテーマに日本文化人類学会で、6月に「「ダイ族」としての徳宏タイ族」をテーマに東南アジア史学会で、9月には「中国における「原始宗教」の輪郭」をテーマに日本宗教学会で、研究会としては5月14日に博士論文の概略を宗教社会学の会で発表した。また、2006年2月には水かけ祭り関連の補足調査を実施し、同じく水かけ祭り比較研究のためタイ人によるタイ語論文講読翻訳および語学指導を受け、これらの成果を加味して論文「表象のなかの地域と民族――徳宏タイ族の水かけ祭り――」を執筆した。この論文は塚田誠之先生の共同研究「中国における民族表象のポリティクス」の成果として出版される本に掲載される予定であり、出版予定の書籍にも組み込む予定である。
これまでの研究により、中国における国民形成およびその延長としての文化政策の現状、そうした政策下にある少数民族の人々の日常生活、そして特に経済面におけるグローバルな影響などが明らかになり、それらの相関関係としての現実について包括的な報告が可能になった。もちろん現実は刻々と動いていくものであり、今後の継続的調査の必要性も感じているが、これらの成果を以って、本科研の研究課題は一応の完成をみたと考える。
2004年度活動報告
下記のとおり調査・研究をおこない、これまでに得られたデータをもとに、以下の口頭発表にて、成果の一部を報告した。
1.日本文化人類学会第38回研究大会(6月6日、東京外国語大学)にて、口頭発表「ミュージアムにみる日系・沖縄系移民の『ミグリチュードmigritude』:転地・転置から展示へ」をおこなった。
2.JICA海外移住資料館における調査(6月7日) 館の運営状況等に関して、資料館関係者より聞取り調査等
3.アメリカ合衆国 カリフォルニア州 ロサンゼルス、ガーデナにおける調査(8月4-8月9日) 全米日系人博物館における常設展示およびスミソニアン博物館からの巡回展「September 11: Bearing Witness to History」、関連ワークショップ「9066 to 9/11 Film Screening and Discussion」(8/5)および「Voices of Healing: Spirit and Unity after 9/11 in the Asian American and Pacific Islander Community」(8/6)に関する調査;Okinawa Association of America会館内の展示室、館内外の諸活動等に関する調査(8/5);第二次世界大戦に参戦した日系兵士の記念碑「Go For Broke Monument」と退役軍人の案内人の調査(8/7AM);「第64回二世週日本祭(Nisei Week Japanese Festival)」における展示、クイーン・コンテスト、Taiko Gathering、Grand Parade等の調査(8/7-8/8)
4.ボリビア サンタ・クルス州 沖縄移住地における調査(8月10日-8月21日) オキナワ・ボリビア歴史資料館の落成式(8/14)、資料館創設の経緯、展示内容等に関する調査、資料提供者へのインタヴュー;「コロニア・オキナワ入植50周年記念祭典」の関連行事(記念パレード、前夜祭、慰霊祭、記念式典等)(8/14-8/15)の調査
5.ブラジル サンパウロ州における調査(8月21日-9月1日) ブラジル日本移民史料館の展示、収蔵資料、館内の諸活動、ニュースレター等に関する調査、館の関係者・来館者へのインタヴュー(8/24-8/26, 8/31-9/1);サンパウロ州立移民博物館の展示内容、関係者との面談・聞取り調査(8/27);サン・ベルナルド市の日本祭におけるパフォーマンスおよび展示の調査(8/29PM);ブラジル沖縄県人会館内の「移民資料館」の展示内容、館内の諸活動の調査(8/23、8/31);ブラジル沖縄文化センター内のブラジル沖縄文化史料館の展示内容の調査、関係者へのインタヴュー;カンピーナス沖縄会館(8/28)およびビラカロン沖縄会館(8/29AM)における諸活動に関する調査
2003年度活動報告
下記の通り調査を行い、得られたデータをもとに以下の口頭および活字発表にて成果の一部を報告した。
1.沖縄調査(6月26日~7月2日)
移民送出側で、どのように移民の歴史が取り扱われてきているか、以下の施設を調査した。南風原文化センター(6/26、27PM、28、7/1)、宜野湾市立博物館(6/27AM)、大里村役場「大里村史移民編発刊記念『移民展』」(6/27PM)、琉球大学にて日本移民学会大3回年次大会シンポジウム「沖縄移民と世代の継承」(6/28PM)、沖縄県立図書館(6/30)、宜野座村立博物館(7/1AM)、沖縄県庁行政情報センター(7/2)
2.ハワイ調査8月27日~9月9日
ハワイ全体をとりあげた展示施設、日系移民そして沖縄系移民自身による移民に関する展示内容を調査し、展示制作関係者、展示案内ドーセント、来館者等に展示に関するインタビューを次の通り行った。海外移住資料館展示協力者への聞取り調査(8/28)、ハワイ日本文化センター展示案内調査(8/29)、ハワイ沖縄フェスティバルの文化展示(8/30、31)、the 1st Worldwide Uchinanchu Conference(9/1、2)、Hawaii's Plantation Village、ドーセントと教育担当者へ聞取り(9/3AM)、海外移住資料館協力者宅訪問、聞取り(9/3PM)、Lanakila Multi Propose Senior Center、プログラム・ディレクターと面談(9/4AM)、Bishop Museum(上席特別研究員篠遠喜彦氏)インタビュー(9/4PM)、Hawaii Sates Arts Museum(9/4PM)、U.S. Army Museum of Hawaii(9/6)
3.The 1st Worldwide Uchinanchu Conference(East-West Center: 9/1)にて口頭発表"Presenting and Preserving Experiences of Okinawan Migration: Museums in Okinawa, Osaka, Yokohama, Bolivia and Hawaii"を行った。
4.海外移住資料館(横浜)調査10月4日-10月5日
開館一周年特別講演会「日本人と新世界」(講師:梅棹忠夫顧問、聞き手:中牧弘允教授)に参加(10/4)。館の運営状況等について聞取り調査等を行った。(10/4)
5.山口県における移民関連展示施設の調査10月5日-10月7日 東和町役場、国指定文化財(周防大島東部の生産用具)東和町収蔵庫収蔵展示(移民が帰郷の際に携行した鞄類等)の調査(10/6)、沖家室の蛯子神社(移民がおくった寄進札、送金で建った玉垣や石灯籠の基礎石等)泊清寺(鐘桜)、ハワイ移民がおくったピアノ等の調査、聞取り(10/6、7)、久賀町歴史民俗資料館(監修宮本常一)の「ハワイ移民」展示の調査(10/7AM)、大島町立「日本ハワイ移民資料館」の調査(10/7PM)
6.活字発表「ハワイの日系・沖縄系移民社会の歩みと動き:博物館にみる生活文化の過去、現在、未来」後藤明・松原好次・塩谷享編『ハワイ研究への招待』関西学院大学出版会、2004年、137-154頁。