国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

「サケ神話」の脱構築――クワクワカワクゥ社会におけるサケの位置づけとその特権化(2003-2005)

科学研究費補助金による研究プロジェクト|特別研究員奨励費 代表者 立川陽仁

研究プロジェクト一覧

活動内容

◆ 2004年10月より三重大学へ転出

2004年度実施計画

日本国内では、本年度執筆する予定である博士論文の場を借りて、クワクワカワクゥの現代の経済活動に関する民族誌を作成するなかで、サケ神話が生成された政治的かつ歴史的な要因の分析と、現在サケ神話が日常実践に作用するようになった事態の民族誌的な分析をおこなっていく。また、これらのテーマについて個別に論文を作成したいとも考えている。
また、博士論文の執筆ならびに上述のサケ神話に関する分析の論文化に際して、放送大学、東京都立大学、東北大学、北方民族博物館などに赴いて、資料を収集し、同様のテーマに精通した研究者と議論を重ねるつもりである。
本年度は1回あるいは2回の海外調査を計画している。いずれの調査もカナダのキャンベル・リバー市を拠点におこなうものである。1つの調査の目的は、サケが共同体のなかで分配、共食される場であるポトラッチに参加することである。主催者の計画により日程が変わるだろうが、おそらくは夏場の1~2週間程度の滞在になると思われる。2つ目の調査は、サケ神話の生成と日常実践への影響を分析する上で必要となる資料と文献を入手するためのものである。後者の調査は9月頃を予定している。

2003年度活動報告

本年度はクワクワカワクゥの日常生活の領域におけるサケの社会・経済的意義を分析し、それによってサケに関する言説の「神話化」された状況を明るみに出すことを具体的な目標とした。
2003年10月に現地調査に行くまでの期間には、以前おこなった調査(2000年自費により実施)で得たデータをもとに、次の6点について研究と分析をすすめた。それらの論点とは、1.先住民にとってのサケの重要性に関する言説の意味、2.漁師によるサケの管理、3.サケ漁の技術的問題、4.サケ養殖業が漁業に及ぼす影響、5.サケが集合的に消費されるポトラッチという儀式の現代的意味、6.漁業の経済的役割である。これらの成果は、それぞれ1'「先住民とサケの語り」、2'「海上におけるサケの管理」、3'「カナダ太平洋沿岸のサケ漁」、4'「クワクワカワクゥ漁師と養殖業」、5'「〈意味〉と〈型〉」、6'「カナダ・北西海岸先住民社会における漁業の経済的位置づけ」として発表した(1'、4'、6'は口頭発表、2'、3'、5'は論考)。
また、2003年10月から12月にかけてはクワクワカワクゥの生活圏であるバンクーバー島北東部において現地調査をおこなった。この調査では、秋のシロザケ漁に同行し、多くサケをとるための戦略、その知識や技能の学習方法についてのデータを収集した。サケ漁シーズンが終了してからは、養殖場労働に従事するクワクワカワクゥとともに養殖場で参与観察調査を実施した。その結果、2000年の調査時以降に起こった大きな変化について調査をすることができた。また、2つの市町村においてそこに住むクワクワカワクゥたちにサケの消費、管理、養殖業の漁業に対する影響などに関して聞き取り調査をおこなった。
帰国後は、これまでに現地調査で得たデータに基づいて、クワクワカワクゥの日常生活の領域におけるサケの社会・経済的意義を総合的に研究し、サケに関する諸言説が神話化されている可能性を提示する論文の作成を行った。この論文は現在投稿中である。