国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

西アフリカにおける感染症対策と生権力の複数性に関する人類学的研究(2015-2018)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|若手研究(A) 代表者 浜田明範

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究の目的は、「生権力の複数性」という発想を手掛かりに、西アフリカにおける感染症対策が人々の生に影響を与える過程を明らかにすることにある。ガーナ共和国南部のカカオ農村地帯を対象に、マラリア対策、オンコセルカ対策、エボラ出血熱対策の三つに焦点を当てながら、感染症対策において(1)どのような統治実践がどのように互いに干渉・調整しながら展開しているのか、(2)それぞれの統治実践が世界規模での市場や科学技術、政策とどのように関係しているのか、(3)どのように「生かすべき者」と「死ぬに任せる者」を結果的に選別しているのか、の三点について明らかにする。
この作業を通じて、同時に複数の方向に人々を導いており、また、異なる立場の人々に異なる働きかけを同時に行っている、西アフリカの生権力の複雑な作動形態を具体的な事例に基づいて明らかにすることが本研究の目的である。

活動内容

◆ 2016年4月より転出

2015年度活動報告

初年度である2015年度は、(1)アフリカの生物医療に関する国際シンポジウム" How Do Biomedicines Shape Life, Sociality and Landscape?" を主催するとともに、(2)ガーナ南部の農村地帯におけるオンコセルカ対策プログラムに関する現地調査を実施した。
国際シンポでは、オスロ大学からウェンゼル・ガイスラー教授とルース・プリンス准教授を招聘したほか、国内から10名の研究報告者の参加もあり、サハラ砂漠以南アフリカにおいて、生物医療が人々の生活、社会性、景観をどのように変容させているのかを各地からの事例に基づいて検討した。その結果、アフリカにおける生物医療について考える際に、複数の時間性や空間性について検討することの有効性が明らかになった。
現地調査とそれを通じた思索の具体的な成果としては、以下の諸点が明らかになった。(1)従来の薬剤の人類学では、薬剤の入手可能な地域の空間的な広がりに焦点が当たっていたが、とりわけ医療従事者による実践においては、むしろ薬剤摂取のタイミングを整序することに焦点が当たっている、(2)薬剤摂取のタイミングは、病気と薬剤、それに人間の身体の関係性の特性に由来しており、病気や薬剤の種類によって、摂取の間隔や許容されるタイミングのズレが大きく異なる(例えば、結核対策は一日毎に厳密に摂取することが求められるが、オンコセルカ対策では半年に一度の摂取でよく、ときに数か月のずれが許容される)、(3)オンコセルカ症対策は、半年から一年に一度の摂取が求められるという例外的に長い周期性を持っており、また、摂取のタイミングは純粋に医学的な論理だけでなく、人々の生活に関する民族誌的な知識に基づいても決定されている。
これらの成果については、2016年度に研究論文として発表する予定である。