法・会計・文化融合型の公共政策国際比較研究――チャリティ制度を事例に(2015-2016)
目的・内容
英国のチャリティ(民間非営利公益団体のことをいう)法が2006年に大改正がなされたことをはじめとして、各国で「民間による公益活動」が重視され、さらにそれを担う非営利・公益団体への政策が「奨励及び規制」の両面から急展開している。日本でも、民間公益活動を担う公益法人制度が110年ぶりに改革され、新しく「公益認定等委員会」という独立機関が設置された。
海外では、チャリティ委員会及びチャリティに係る分野融合的な研究を行う「チャリティーズ・スタディーズ」が形成されつつあり、国際比較研究も萌芽的に開始されている。本計画では、こうした現実の政策に呼応して国内の公益法人及び公益認定等委員会方式についての研究を実施するとともに国際比較研究を実施する。方法論としては、法・会計・文化の研究者が相互のディシプリンを融合させながら、新しい公共政策研究の地平を拓くことを目的とする。
活動内容
2016年度活動報告
「民間による公益活動」が重視され、さらにそれを担う非営利公益団体への政策が急展開している。日本では、民間公益活動を担う公益法人制度が2006年に110年ぶりに改革され、新たに公益認定等委員会が2007年に設置された。この時期の非営利政策の改革は我が国ばかりではなく、例えば、ニュージーランド(2005年に新機関設置)、英国(2006年のチャリティ法大改正)、オーストラリア(2012年に新機関設置)など、他の国でも同様に行われた。海外では、分野融合的な民間公益組織の政策や活動に関する「チャリティーズ・スタディーズ」が形成されつつあり、国際比較研究も萌芽的に開始されている。本研究ではかかる国際的研究動向を踏まえつつ、法・会計・文化の研究者が相互のディシプリンを融合させながら、公益法人の認定・監督に関する萌芽的な研究を実施した。具体的には、「政策の現場」(以下「領域」と呼ぶ)で必要とされている研究分野の研究者を集めて、学問的な総合化を行おうとする方法論(「領域設定総合化法」と呼ぶ)を用い、日本の公益認定等委員会を中心に、それに相当する海外の機関であるチャリティ委員会(イングランド&ウェールズ)、チャリティーズ・サービス(ニュージーランド)、非営利チャリティ委員会(オーストラリア)を比較対象として、法・会計・文化融合型の政策研究を実施した。
本研究の結果、他国では当然に見られる中小規模法人に対する会計規制上の緩和措置、すなわち、現金主義会計を認めるなどの措置に対して、日本では財務報告会計の要請を一律的に適用した結果、会計規制が法規制を上回る形で、法人活動に重くのしかかっていることを明らかにした。とりわけ、「意図せざる規制強化の現象」が指摘でき、本研究ではそれを「クリープ現象」という新しい概念を提示することによって明らかにするなどの研究成果を得ることができた。
2015年度活動報告
1.領域設定総合化法による法・会計・文化の融合
本年度は、法・会計・文化融合研究の「領域設定総合化法」という方法論に則り、連携研究者及び海外の研究協力者とともに、法学、会計学、文化の研究者による国際シンポジウムを公開で実施(COMPARING CHARITY COMMISSIONS IN NEW ZEALAND, UK, AND JAPAN, 8月23日)することができた。特に、英国で新しい法人制度となったCIOに対する議論が展開できた。ニュージーランドではCIOに相当する法制度が100年前に誕生したことが明らかになり、今後注目していきたい。また、ニュージーランドの非営利会計が規模別に分かれており、小規模法人には現金主義が適用されていることも明らかになった。
2.研究上の貢献:新概念の創出
研究の過程で、意図せざる解釈の差異から生じる政策の微動を「クリープ現象」という新概念によって説明することができた。また、東日本大震災後の公益法人への活動に関して、従来研究者がCause-Related Marketing(CRM)と呼んでいたものが、Service-Relatedphilanthropy(SRP)と呼ぶべき内容であることを明らかにした。