国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

パナマ東部先住民エンベラにおける「共同体企業」の実践に関する人類学的研究(2015-2017)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|若手研究(B) 代表者 近藤宏

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究ではパナマ東部地方の熱帯林地帯に居住する先住民、エンベラによる、近年の自然資源利用・管理プロジェクトへの参加に関する人類学的研究である。対象とするプロジェクトは、商業的な森林伐採を念頭においた「共同体企業(empresa communal, community company)」の設立・運営である。エンベラのもとでは2005 年から、こうした取り組みが開始された。企業体という新しい組織形式を通じた森林資源の利用が、先住民の生活様式のなかで育まれてきた従来の社会関係、そして「自然」との関わり方と、どのように通約可能であり、また齟齬をきたているか。この問いに対し現地調査を通じて考察することが研究の目的である。

活動内容

◆ 2016年4月より転出
◆ 2015年4月より転入

2015年度活動報告

今年度は、本研究計画の初年度にあたる。2015年8月~9月にかけてパナマ共和国にて、エンベラが設立した共同体企業について現地調査を行った。この企業が実施する森林伐採事業は、パナマ南東部のエンベラ=ウォウナン特別区内に位置する。一方で、当該企業の幹部は都市部に居住している。また、森林伐採事業に許可を与える省庁の事務所は、また別の行政区にある。そこで3つの地区で、聞き取り調査や参与観察を行った。文書も含め基本的な情報を収集できた。また、パナマ共和国滞在中にパナマ大学人文学部で発表を行った。現地の研究者と交流を翌年度以降の研究に生かすことができる。
現地調査を通じて、森林伐採事業の導入の経緯に、中米先住民社会の代表者たちも参加した国際会議があったことが明らかになった。その会議で議論されていた枠組みが、今日のエンベラの事業のおおもとになっているという。それはメキシコでの住民参加の林業をモデルとするものだということだったので、メキシコの森林資源管理に関する文献の収集と講読を進めている。
中南米地域の先住民共同体による森林利用に関する調査として、ゴム経済における先住民社会の位置づけについて文献調査を進めている。そのうち、エクアドルの先住民ルナにとってのゴム経済のありようを分析している民族誌については翻訳も行った。今後は翻訳作業に際して収集した文献の講読を進める。