女乗物に用いられた漆芸技法の研究――大型の大名調度品における江戸のモノづくり(2004-2005)
目的・内容
女乗物は大名の調度品として、比較的伝世しやすいものの一つであり、残存数の少ない大名の調度品として貴重な史料価値を持った文化財の一つである。女乗物は大名の調度品としては大型であることや状態調査によって明らかになった劣化形態から、その製作技術は、通常の大名の調度品とは異なった技術が用いられていることが推測される。このことから、女乗物の保存を考える上で、その製作技術の情報は貴重な検討材料になる。
研究代表者は、平成14年度から平成15年度については、本特定領域研究「江戸のモノづくり」の公募研究で、女乗物の構造調査と漆芸技法の調査、文献調査を中心に行った。その結果、女乗物に用いられる漆芸技法は大名の調度で用いられる精緻な漆芸技法よりも、むしろ近世出土漆器に特徴的な量産型漆器の漆芸技法が用いられている可能性がみえてきた。
以上の経緯を踏まえ、平成16年度からの研究は、女乗物を中心とした、従来の調査を継続することと、蒔絵粉の定性分析の経験を踏まえ、女乗物に用いられた蒔絵粉の定量分析を行うこと、近世出土漆器に用いられている蒔絵技法との比較検証を研究の柱とする。ここで得られる結果は、女乗物の外装に用いられる製作技法がさらに解明されると同時に、蒔絵の劣化要因についても貴重な情報となる。また、保存化学的手法を通して伝世品である女乗物の蒔絵分析の結果と近世出土漆器の蒔絵分析に結果と比較検証することで、江戸時代における蒔絵技法の研究を進める契機にもなることが期待でき、今後の文化財研究の手法の一つを提示することができると考えている。
活動内容
2005年度活動報告
本研究は、平成16年度から平成17年度にかけて行う、文部科学省科学研究費補助金特定領域研究『江戸のモノづくり』の公募研究『女乗物に用いられた漆芸技法の研究-大型の大名調度品における江戸のモノづくり-』で行う研究である。また、本研究は、平成14年度から15年度に行ってきた文部科学省科学研究費補助金特定領域研究『江戸のモノづくり』の公募研究『江戸期における「乗りもの」の研究-大名駕籠を中心とした江戸のものつくり-』の成果を受けて行うものである。
本年度は、研究の集大成として成果をまとめることとに終始し、東海大学学位論文『女乗物の発生経緯とその装飾性に関する研究』を刊行した。ここでは、女乗物の発生経緯として、まず駕籠の発生起源には、箯輿の系統を受けたものと車、輿からの変遷を受けたもの2系統があることを明らかにし、女乗物は車、輿の系統となる駕籠の一種であるとした。また、女乗物の装飾性については、使用者の身分を表象するものであり、使用する大名家の家格に応じて使い分けがなされていることを明らかにし、この装飾性の使い分けの事例として、蒔絵粉の内、梨子地粉については輿の使用が許された大名家が用い、総梨子地仕上げのものは、徳川御三家以上の家格にのみ許されていたことを指摘した。また、装飾画の内容については、徳川家のものには源氏物語が、それ以外の大名家のものには花鳥画が描かれることを指摘した。
なお、本成果の一部は、特別展「みんぱくキッズワールド:おこどもとおとなをつなぐもの」のコーナーの一部として展示を行い、その概要を図録に掲載した。
2004年度活動報告
本研究は、平成16年度から平成17年度にかけて行う、文部科学省科学研究費補助金特定領域研究『江戸のモノづくり』の公募研究『女乗物に用いられた漆芸技法の研究-大型の大名調度品における江戸のモノづくり-』で行う研究である。また、本研究は、平成14年度から15年度に行ってきた文部科学省科学研究費補助金特定領域研究『江戸のモノづくり』の公募研究『江戸期における「乗りもの」の研究-大名駕籠を中心とした江戸のものつくり-』の成果を受けて行うものである。
本年度は、大名家の家格による女乗物の装飾性の違いについて重点的に調査を行った。大名家の家格のよる女乗物の装飾性の違いは、外装の蒔絵と内装の装飾画にみることができる。
これらの装飾性のなかで、外装の蒔絵からは梨子地粉の使用の有無について大名家の家格を知ることができる。梨子地粉は享保の改革期において定められた奢侈禁止令のなかでもその使用規制が設けられていた蒔絵粉であるが、梨子地粉を女乗物に用いることができた大名家は、大名が用いた乗用具のなかで最高位のものとされた輿の使用が許された大名家に限られていることがわかった。
内部装飾画については、一般的な女乗物では花鳥画が描かれているのに対し、徳川宗家、御三家に関わる女乗物には源氏物語の場面が描かれていることがわかった。これらは、女乗物の装飾性が大名家の家格に応じて定められていたことを示すものであると考える。
なお、これらの成果については、東京文化財研究所が主催した国際シンポジウム『第28回文化財の保存および修復に関する国際研究集会 文化財の非破壊調査法-X線分析の最前線-』において発表を行った。