国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

南アジアの都市における食肉をめぐる社会関係の文化人類学的研究(2016-2017)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|研究活動スタート支援 代表者 中川加奈子

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究では、グローバル市場への包摂が進む南アジア都市社会において、従来カーストや民族、及び宗教に規定されるとみなされがちであった食肉をめぐる社会関係を文化人類学的に再考する。そうすることで、グローバルな市場論理と不浄観や宗教的タブーを含む南アジア的な価値観との相克を時間軸・空間軸で立体的に理解していく。
具体的には、ネパールでカーストに基づく役割として水牛の食肉を扱う「カドギ」の人びとを中心に、南アジアの広い地域でヤギや鶏の食肉を扱うムスリム、ネパール・インドの一部地域で豚や牛の食肉を扱うチベット系民族、および日本の南アジア系移民コミュニティを対象とし、近年のグローバル市場経済への包摂を背景とした食肉業従事者のカースト間、民族間、宗教間における日常的な交渉のあり方を、経済領域と文化領域を横断しながら重層的に描きだしていきたい。

活動内容

◆ 2017年4月より転出

2016年度活動報告

本年度は、1)ネパールの民主化・市場化に伴うカースト認識の変容の分析、2)ネパール食肉の近代化プロセスの調査・分析、3)南アジア都市における肉食文化に関する比較民族誌的研究への着手を行った。
1)については、博士論文をベースとした複数回の学会発表を行い、これまで蓄積してきたデータからの知見を理論的に洗練させ、その成果を共著本にて発表した。
2)については、ネパールでの現地調査やメディアなどの言説から、供犠儀礼と結びついていた食肉が市場での商品としての価値を獲得していくプロセスについて分析を進めた。次年度以降は、調理や家計を担う女性の役割に焦点を当てて食卓の近代化という観点も含め、研究を展開していくことを考えている。
3)については、これまで調査していたネパールに加えて、牛肉(水牛肉)輸出量が世界一となったインドの肉食文化に関する調査に着手した。本年度はコルカタに出張し、コルカタ市役所と民間企業が官民共同で経営している輸出用冷凍水牛肉の屠場を見学した。
また、経営者にハラール対応のあり方やインド全土の屠場との連携のあり方、東南アジアや中東イスラム諸国をターゲットとする今後のプランの詳細について聞き取りをした。これらの調査により、官民の連携のあり方、また近代化が進んでいる分野(水牛肉)とそうでない分野(牛肉)の違いなど、コルカタのみならずインド全体の食肉市場の概観を得ることができ、これまで調査をおこなってきたネパールの食肉市場動向との共通点及び相違点を浮き彫りにすることができた。次年度も引き続き現地調査を行う予定である