国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

デジタル時代に求められる映像人類学-新たな映像民族誌の創造に向けて(2016-2018)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(C) 代表者 村尾静二

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究の全体構想は、文化人類学において、デジタル時代に求められる映像人類学を新たに確立することにある。そのなかで、本研究は、映像民族誌(visual ethnography)に着目する。フィールドワークと民族誌の執筆を学問的アイデンティティとする文化人類学にとって、視聴覚情報を活かした映像による民族誌の研究は、日本では未開拓でありながら、重要な研究課題である。
本研究では、(1)映像民族誌の研究を先導する欧米の研究機関において実地調査を行い、(2)申請者自ら本格的な映像民族誌を創造することにより、(3)映像民族誌の創り方、それを研究に活用する方法に関する創造的な実践研究モデルを構築することにより、我が国の映像人類学、文化人類学の発展に資することを目的とする。

活動内容

◆ 2017年4月より転入

2018年度活動計画

(1)映像民族誌の共通理解モデルに関する視聴覚テクストの作成
映像民族誌は三つの過程(企画と準備、フィールドワークと撮影、ポストプロダクション)を経て制作され、各過程には複数の作業が含まれる。各過程では、どのような点に留意して作業を進めるべきなのか、そして、完成した映像民族誌はいかに研究に活用できるのかを明らかにする視聴覚テクストを作成する。その内容は、映像民族誌の創造と活用に関する共通理解モデル、及び、申請者が制作した映像民族誌(本編)を中心に構成する。これにより、研究者・学生が映像民族誌について参照・応用することのできる共通理解モデルを築く。
(2)研究成果の公表、シンポジウムの開催
日本文化人類学会での研究報告、学会誌『文化人類学』や『国立民族学博物館研究報告』への投稿を通して、研究成果を公表する。完成した映像民族誌には、英語版を用意し、海外での学会・上映会にも積極的に参加する。また、公開シンポジウム、ワークショップを開催し、実践的な波及効果を図る。そこには文化科学と自然科学において映像メディアを学術的に活用しようとする研究者を広く招き、文理の壁を越えた学際的な映像民族誌を構想する機会とする。

2017年度活動報告

本年度は、インドネシア、バリ島内陸部ギャニャール県の調査村を再訪し、伝統芸能に関するフィールドワークを継続的に行った。具体的には、バリの文化を代表する芸能でありユネスコ世界無形文化遺産にも指定されている影絵人形芝居ワヤン・クリの名人、そして、バリの芸能で使用される様々な仮面を彫る職人、この二人の伝統芸能の継承者が生きる生活世界、継承する技術とその社会的文脈について文化人類学調査を進めた。そして、以上のテーマを総合的にとらえた映像民族誌の撮影に着手した。