多宗教共存とエスニシティ共生―旧英領カリブ社会における民族紛争抑制のメカニズム(2016-2019)
目的・内容
本研究は,多くの旧植民地社会で暴力的紛争を引き起こしてきた歴史的・社会的構造を有しながら,集団間の緊張と対立が社会統合を脅かしてこなかった社会を研究対象とし,民族誌・歴史研究を通して,紛争研究に貢献することを目指す。集団間の和解と共生を可能にするメカニズムの探求と構築には,他の多くの社会で暴力的紛争を発生させている構造的要因を共有しながら,比較的高い社会統合と平和的発展を実現してきた社会を対象として,「なぜ,暴力的紛争が発生しない(しなかった)のか」を究明することが必要である。この問題意識から,本研究では,トリニダッド・トバゴを主要なフィールド,ガイアナを比較対象として,宗教の多様性と対立が民族紛争を抑制し,集団間の共生を可能にするメカニズムの創出と再生産に重要な役割を担っている事例を提供して,これらを紛争の典型的な動因とする学術的前提を問題化する。
活動内容
◆ 2016年9月31日転出
2016年度実施計画
■ 先行研究の検討:博士論文,学術論文,学会発表など,これまでの研究成果を批判的に再検討すべく,そこでは議論できなかった新たな文献,特に,宗教の多元性とエスニシティ,宗教と紛争・社会統合などに関する書籍・文献について,本研究の成果をまとめた学術論文の導入部となりうる先行研究の検討を行う。その過程で可能な限り,書評あるいは書評論文の投稿を試みる。
■ 現地調査:第4四半期(1~3月)にトリニダッド・トバゴ(以下,TT)およびガイアナでの現地調査を実施する。これまでに何度も現地調査を実施してきたTTでは,大司教区古文書館(Archbishop House Archives),西インド諸島大学(The University of the West Indies)図書館,国立古文書館(National Archives)で史料収集を実施するとともに,ヒンドゥー教徒が参拝するキリスト教会や平信徒の聖職者が運営する祈祷所など,異なる宗教伝統が越境・混交する場を選定し,参与観察と聞取り調査を実施する。ガイアナでは現地調査を初めて行うことから,現地ガイアナ大学(University of Guyana)の研究者に協力を求め,準備調査(Preliminary Research)として古文書館での史料収集や参与観察を可能な限り実施する。
■ 成果報告:現地調査で新たなデータを収集するとともに,これまで蓄積してきたデータを基に,査読学術雑誌論文の原稿を英文執筆し,3月末日までに,国際雑誌に投稿する。また,来年度に国際学会で発表するべく,アメリカ人類学会などを念頭に発表プロポーザルを作成・提出する(通常4月初旬締切)。