国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

開発援助プロジェクトの評価方法に関する文化人類学的研究(2005-2007)

科学研究費補助金による研究プロジェクト|基盤研究(B) 代表者 鈴木紀

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究は開発援助プロジェクトの質的向上に寄与する実質的研究としての文化人類学、すなわち開発人類学の発展を目的としている。このために次の3つの条件を満たす必要がある。第1に開発援助問題を個別に研究してきた文化人類学者を共通の研究枠組に統合し、プロジェクト評価のための「文化人類学的視点」について合意をつくる。第2に開発援助の実務において活用されているプロジェクト評価方法を建設的に批判し、その問題点の把握と解決策や代替案を提示する。その結果第3に文化人類学者と開発援助実務者の間に生産的な関係を築き、開発人類学の研究が量的に増加、質的に充実する。
本研究は条件1と2の達成を目標として実施する。そのため、すでに実践的な開発研究を手がけている文化人類学者を中心に研究組織をつくり、開発援助に対する「文化人類学的視点」を探求することを第1の研究課題とする。またその際に「文化人類学的視点」を活かしながら既存の開発援助プロジェクト評価法やそれに基づく評価結果を再検討して文化人類学的な「開発援助プロジェクト評価方法」を考案することを第2の研究課題とする。

活動内容

◆ 2007年10月より千葉大学から民博へ転入

2007年度活動報告

平成19年度は本研究の最終年度であったため、研究代表・分担者とも海外調査を中心とする研究活動を継続しながら、成果のまとめにあたった。
鈴木紀:メキシコにおいてJICA(国際協力機構)が実施した「チアパス州小規模生産者支援計画」の対象村落を訪問し、女性リーダーのリーダーシップ形成プロセスを聞き取り調査した。
宇田川拓雄:バングラデシュで世界銀行/国連開発計画が実施するLGSPを訪問し、ダイレクトファンド、オープンバジェットの導入の経緯を調査した。またJICAのPRDPを訪問し中間評価後に修正されたプロジェクト概要表を調べた。
角田宇子:フィリピンの灌漑プロジェクトにおけるフィリピン政府灌漑実施機関が行った参加型灌漑管理に関し、灌漑管理を委託されている農民組織である水利組合の運営状況を調査した。また比較のため、灌漑運営の成功事例である、アメリカのコロラド州などの灌漑システムの水利用者組織の運営についてその成否要因を考察した。
白川千尋:セネガルにて青年海外協力隊員をはじめとするJICAの社会開発プロジェクトの関係者を対象として、プロジェクトとその評価における文化人類学の役割に関する聞き取り調査を行った。
関根久雄:ソロモン諸島国を訪問し、現地で活動するNGOの農村開発プロジェクトに関する聞き取り調査、および2007年10月に執筆した当該NGOの活動に関する評価報告書に記載した内容の確認業務など、人類学的援助評価手法を確立させるための調査をおこなった。
橋本和也:JICAフィジー事務所で、「地域保健看護師現任教育プロジェクト」の進行状況を中心に地域保健看護師の仕事現場を訪ねた他、南太平洋大学でのエビの養殖事業の専門家や新任の食品開発の専門家から話をうかがった。