国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

インド農村社会における不妊をめぐる生殖医療と多元的医療実践に関する人類学的研究(2006-2007)

科学研究費補助金による研究プロジェクト|特別研究員奨励費 代表者 松尾瑞穂

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究は、インド農村社会における生殖領域の医療化とそれに伴う社会・文化的葛藤を、とくに不妊をめぐる現象に注目して分析するものである。申請者がこれまで合計28ヶ月におよぶフィールドワークを実施しているインド・マハーラシュトラ社会において、子どもを「産む」「産まない」「産めない/産みたい」という人々の生殖実践のなかでも、とくに不妊に関して民族誌的記述を行ない、1)医療化と家父長制のもとで、女性の身体が言説・実践のさまざまなレベルでどのように社会的に構築され、そこでどのような支配と交渉、競い合いがなされているのか、2)人工授精、体外受精のような新しく導入された生殖医療技術と、ローカルな実践知(民俗知)は人々によってどのように選択されており、いかなる関係にあるのか、ということを人類学的に解明することを目的とする。

活動内容

◆ 2007年4月より総合研究大学院大学から民博へ転入

2007年度活動報告

最終年度にあたる今年度は、インド西部マハーラーシュトラ州プネー市および近郊農村における短期間の補足的な現地調査を行った。具体的には、都市部における医療関係者への追加調査および診察などの参与観察、農村のフォローアップ、祭礼の参与観察などである。こうした現地調査に加えて、通年で行った文献の読解・分析を通して得られた今年度の研究成果としては、主要学会誌である「南アジア研究」を始めとする学会誌に学術論文を2本、「季刊民族学」を始めとする商業誌への寄稿文を2本、『医療人類学のレッスン』(共著)という学部生向けの医療人類学の教科書を1冊、執筆、刊行したことがあげられる。 また、国内学会においても、日本文化人類学会を始めとする学会において4度の口頭発表を行った。これらの研究発表では、参加者からの多くの有益なコメントを頂戴することで、研究課題の学会におけるシェアと成果の還元が可能となった。いずれの論文・発表においても、インド社会における生殖医療技術をめぐる医師集団の言説分析および、インド調査村における民族誌的データの提示と分析を行うことによって、「インド農村社会における不妊をめぐる生殖医療と多元的医療実践に関する人類学的研究」という本研究課題の深化につとめたものである。1年を通した研究活動によって、現地調査による民族誌データの収集、および学会での研究発表、学会誌への論文投稿による研究成果の還元、という初年度にたてた研究目標を達成することができた。

2006年度活動報告