産業と文化の経営人類学的研究(2007-2008)
目的・内容
産業と文化の相乗効果は近年ますます意識的に追求されるようになっている。行政が主導する場合もあれば、産業界が牽引する場合もあり、また文化団体が率先して働きかける場合もある。いずれにしろ、ばらばらな動きを統合する機能(政治・経営)がその成否の鍵を握っているといっても過言ではない。本研究ではマネジメント(経営)に焦点を当てながら、産業と文化の相関関係を実証的に究明し、その論理を抽出し、理論に高めることをめざす。
研究対象を(1)環黄海経済圏の産業と都市における文化創造・文化交流、(2)世界遺産をめぐる日中韓の産業振興と文化復興、(3)文化活動を機軸とする産業と都市の協働関係、の3つの領域に分け、日中韓の国際比較のなかでそれぞれの課題を追求しつつ、全体的な統合をはかっていく。
活動内容
2008年度活動報告
産業と文化の相関関係を実証的に究明し、その論理の抽出をめざし、(1)環黄海経済圏の産業と都市における文化創造・文化交流、(2)世界遺産をめぐる日中ならびにスペインの産業振興と文化交流、(3)文化活動を機軸とする産業と都市の協働関係の3つの領域に分けて調査をおこなった。
(1)では北九州市の製鉄所、イノベーションギャラリー、環境ミュージアムなどを訪問し、下関市では馬関祭りにあわせて朝鮮通信使の行列再現行事をはじめ環黄海の文化交流をつなぐものに焦点を当てた。大連ではスポーツ交流の実態を調べた。(2)では吉野の補足調査をおこなうとともに、「紀伊山地の霊場と巡礼道」と共通点の多いサンチアゴ・デ・コンポステラ巡礼の調査をおこなった。また、泰山の登山節にあわせて調査を実施するとともに、曲阜では孔子関連の施設や事業にくわえ孟子の故里や廟の調査をおこなった。(3)では青森のねぶたと徳島の阿波踊りの調査を継続し、かつ仁川市では市の行政主導の中東研究院、韓国移民博物館、ならびにチャイナタウンの調査をおこなった。最終年度に当たり、北京中央民族院で開催された「東アジア人類学における相互理解のワークショップ」で(1)の研究成果を報告し、イタリアのレッチェでひらかれたヨーロッパ日本研究協会(EAJS)の大会で「Festival and World Heritage: Management of Region and Religion in Japan”というパネルを組織し、(2)と(3)に関する報告をおこなった。
2年間の研究成果をまとめ、報告書『産業と文化の経営人類学的研究』(222頁)を印刷した。
2007年度活動報告
本研究では、マネジメント(経営)に焦点をあて、産業と文化の相関関係を実証的に究明し、その論理を抽出することを目指している。そのため、研究対象を(1)環黄海経済圏の産業と都市における文化創造・文化交流、(2)世界遺産をめぐる日中韓の産業振興と文化復興、(3)文化活動を基軸とする産業と都市の協働関係の3つの領域に分けて調査をおこなった。
(1)では、北九州市で新日鉄等の企業と北九州市との協働関係、港湾事業、イノベーションギャラリー、正月の民俗行事などについて調査し、下関では港湾事業、朝鮮通信史の行列再現、大連神社などの調査を実施した。大連においては日系企業のメセナ活動、日本人駐在員の文化・スポーツ活動、企業家の建立した仏教寺院、春節などについて調査した。中国では連雲港で日系企業や中国企業の文化活動について、青島ではコリアンの企業活動について調査した。韓国では釜山の港湾事業、仁川の中華街整備などについて調査をおこなった。(2)では、熊野において世界遺産登録の経緯について文書資料を収集するとともに関係者への聞き取り調査を実施した。世界遺産が社寺や企業のみならず、ユネスコ-日本政府-都道府県-市町村という系列の行政が新規文化マーケットの拡大に貢献していることが判明した。中国では北京、ならびに山東省の泰山、曲阜(孔廟、孔林、孔府)で世界遺産の調査をおこない、北京オリンピックに向けて文化政策がいかに実践されているかの一端を調べることができた。(3)では、徳島の阿波踊りとその波及状況、ならびに青森のねぶたについて経営学的視点からのデータ収集ができた。また企業と行政が祭りの推進母体として緊密な連携をとりながら、観光客の誘致につとめていることが経済学的統計データからも分析できた。