国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

マオイスト運動の台頭と地域社会への影響――政体変革期ネパールにおける人類学的研究(2007-2008)

科学研究費補助金による研究プロジェクト|基盤研究(B) 代表者 南真木人

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究の目的は、共産党毛沢東主義派(マオイスト)が席巻するネパールにおいて、社会政治的な変動とその背景を地域社会やコミュニティのレベルから調査し、ネパールで今何が起きているのかを解明することである。研究代表者及び研究分担者、研究協力者、海外共同研究者は、各自がこれまで調査してきた地域社会や民族協会などのコミュニティにおいて、「普通の」人びとがマオイスト運動をどのように受け止め、どのように対応してきたかのデータを収集し、地域の政治、社会、文化、規範、経済に与えたマオイスト運動の影響を現地調査によって抽出する。もってネパールにとってマオイスト運動とは何か、どのような意味をもつのかを分析する。

活動内容

2008年度活動報告

本研究の目的は、王制から連邦民主共和制に政体が変革し、マオイストことネパール共産党(毛沢東主義派)が政権を担うまでに席巻したネパールにおいて、社会政治的な変動とその背景を地域社会や民族/カースト諸団体のレベルから明らかにすることである。もって、ネパールで起きている歴史的な変革を底辺から多面的に解釈することを目指す。本年度は、2008年4月10日の制憲議会選挙においてマオイストが第一党に躍進し、政権与党になった事実を踏まえ、マオイストの選挙運動とその受けとめられ方、他の政党の動向、開票結果の分析を複数の地域および団体を対象に行った。マオイスト躍進の背景として、巧みな選挙キャンペーン、マイノリティ包摂への積極的な取り組み(候補者の留保制)、「新しいネパール」という時勢やムードとの合致、(マオイストが負けた場合の)人民戦争再開に対する恐怖などが考えられた。さらに、本研究では引き続き、マオイストの人民戦争(1996~2006年)の戦後処理、すなわち国内避難民の帰還問題や戦争犠牲者への補償問題、マオイスト兵士「殉国者」処遇のポリティクス、人民解放軍の国軍統合・再編問題に関して調査をすすめた。あわせて、民族/カースト諸団体とマオイスト運動の連関を探るため、マイノリティ包摂の諸制度、マオイストが構想する民族/言語別の連邦制、南部低地(マデシ)の自治権要求に関してデータを集めた。これらのデータとその多面的な分析は、マオイスト運動が地域ないし民族/カースト諸団体に対し、文化社会的、政治経済的にいかなる影響をもたらしたかを明らかにするとともに、マオイストの席巻という稀有な「ポスト社会主義」事例を考察する上で意義がある。マオイスト議長であるダハル首相の辞任(2009年5月4日)により、ネパールの政情は予断を許さない。数少ないマオイスト研究および現代ネパール研究と位置づけられる本研究は、ますますその重要性が増している。

2007年度活動報告

本研究の目的は、マオイスト[ネパール共産党(毛沢東主義派)]が席巻するネパールにおいて、社会政治的な変動とその背景を地域社会や民族/カーストなどのコミュニティのレベルから調査し、ネパールで今何が起きているのかを明らかにすることである。本年度、班員は各自がこれまで調査してきた地域社会および民族/カースト協会などのコミュニティにおいて、人びとがマオイストの人民戦争(1996年~2006年)および政治運動をどのように受けとめ、どのように対応してきたか、あるいは対応しているかのデータを現地調査によって収集した。収集できた具体的なデータは、国内避難民の帰還プロセスと現況(安野)、制憲議会選挙(2008年4月10日に実施された。開票途中だが、マオイスト圧勝の見込み)に向けた地方政治(南、マハラジャン、名和)、マオイストの主流化と選挙キャンペーン(小倉)、マオイストの憲法構想と王制問題(谷川)、民族/カースト(とくにダリット)/マデシの権利要求と連邦制の議論(藤倉、橘、佐藤、南)、人民戦争被害者の補償問題と「殉国者」処遇のポリティクス(渡辺)などである。これらの多角的なデータは、マオイスト運動が地域ないしコミュニティに対して、政治、社会、文化(規範)、経済的にいかなる影響をもたらしたかを明らかにするとともに、マオイスト圧勝という、大方の予想に反した選挙結果を分析する上で極めて重要な意義をもつ。それはとりもなおさず、本科研の最終的な目的である、ネパールにとってマオイスト運動とは何か、どのような意味をもつのかという考察に向けた貴重なデータの蓄積となった。