オセアニア小島嶼における資源利用と居住システムの解明(2007-2008)
目的・内容
本研究は、ミクロネシア・カロリン諸島の、資源に乏しいサンゴ小島嶼への人類居住と環境適応の変化の様相を明らかにするために行ってきた一連の研究の一部として行う。具体的には、これまでに入手したファイス島出土の土器片を分析することで、交易相手地域、あるいは村落がどこであったかを明らかにしてゆく。それによって、このようなサンゴ島に居住しながら、その生存戦略の一つとして継続してきた交易の歴史を復元し、最初から一つの地域との交易を行ってきたのか、あるいは多数地域との交易から次第に一地点との交易へと収斂したのかを検討する。さらに、歴史的に交易相手とされてきたヤップ島以外の島、具体的にはパラオやマリアナ諸島との交易も行っていたかどうかも検討し、サンゴ島居住民の居住戦略を復元することを目的とする。
活動内容
2008年度活動報告
本研究は、ミクロネシア・カロリン諸島の、資源に乏しいサンゴ小島嶼への人類居住と環境適応の変化の様相を明らかにするために行ってきた一連の研究の一部として実施した。
発掘調査を行ったファイス島から出土した土器片には、歴史的に交易関係を持っていたヤップ島のものだけではなく、パラオ島で作られたものも混在していることが土器の鉱物鑑定の結果わかっている。そこで、パラオにおける生産地の復原を行う資料とするため、パラオで伝統的土器作りに用いられてきた粘土の鉱物組成および元素分析を行った。
Gatpang試料は、石英の鉱物片と珪化凝灰岩の岩石片を主体とする鉱物で構成されるのに対し、Ngermid試料は、石英、斜長石、単斜輝石と粘土鉱物塊を主体とする構成であることがあきらかになった。また、粘土鉱物のX線回析の結果は、前者がカオリナイトが支配的であるのに対し、後者はカオリナイトとスメクタイトが支配的であることを示している。
これらの結果は、両資料ともに焼き物作りに用いる粘土としては、ヤップのものよりはるかに高温焼成に適していることを示しており、土器の形成過程においても非常に扱いやすい粘土であることを示している。また、安山岩起源の緑色片岩を母岩とするヤップの粘土には含まれない石英が含有されていることから、ファイスから出土した土器片の薄片分析を行えば、比較的簡単にヤップ産の土器とパラオ産の土器とを区別することが可能であることがわかった。
2007年度活動報告
自然資源に乏しい小サンゴ島居住民の居住戦略および資源利用の様相をあきらかにするため、ミクロネシアのファイス島で2005年に行った考古学調査結果の詳しい分析を行った。具体的には、
(1)3メートルにもおよぶ深い文化堆積層の層位別、地点別の詳細な年代を決定するために、炭化試料を米国のBeta analyticへ送付してAMSによる年代測定を依頼した。その結果、ファイス島における人間居住は紀元後250年ごろに始まり、継続的に居住が行われたことが明確になった。これは、近隣のサンゴ島ではもっとも古い人間居住の開始年代である。また、細かい層位別の年代値が入手できたことで、近隣の火山島から輸入した土器の変化と組み合わせた文化相の復原も可能になった。輸入土器や家畜の存在を含めた年代別文化相の復原についても、近隣のサンゴ島では初めての試みとなる。1700年以上にわたって資源に乏しいサンゴ島環境に人間が居住を継続してきた背景には、資源に富む火山島との接触が欠かせなかったことがさらに明確になった。
(2)サンゴ島にはない石が発掘から出土しており、その鉱物鑑定も行った。その結果、西方のヤップ島に特徴的な安山岩起源の石であることがわかり、ファイス島民が、土器の他に石も持ち帰ってきていたことが明らかになった。
(3)ファイス島から出土した土器片は、火山島であるファイスで作成された可能性は低く、土器片の鉱物鑑定からは西方のヤップとパラオから輸入したものであることが指摘された。ヤップ島の粘土サンプルと出土した土器片の鉱物比較からは著しい結果は得られなかった。また、パラオ島の粘土サンプルを入手するためパラオで蒐集活動を行った。伝統的に土器を作っていた村から粘土サンプルを入手することが出来たので、その分析は次年度に進める予定である。