「シェルパ」と道の人類学(2019)
科学研究費補助金による研究プロジェクト|研究成果公開促進費(学術図書)
代表者 古川不可知
目的・内容
本書は、エベレストの南麓に位置するネパール東部のソルクンブ郡を調査地に、険しい高山地帯であるこの地域の山道と、住民であるシェルパ族や山岳観光関連の職を求めて集まるネパール各地の出身者など山道を歩くさまざまな人々の実践について報告・分析する民族誌である。本書の刊行目的は大きく三つにわけられる:①急速な観光地化と2015年ネパール大地震を経たエベレスト地域について、長期調査に基づいた報告をおこなうこと。②近年盛り上がりを見せている人類学的インフラ研究を、身体性とインフラの現地概念という観点から批判的に継承しつつ議論に貢献すること。③人類学におけるいわゆる存在論的転回の議論を、データに基づいた形で具体的な民族誌として提示すること。
本書ではまず第一章で論考全体の枠組みを提示したのち、第二章にて調査地となるソルクンブ郡と観光産業の概況を示し、第三章でシェルパ族のある村を対象にその生業と変容について報告する。続く第四章から第六章では、現在のシェルパ族や他地域からやってきた人々が携わる仕事とその具体的な実践を、それぞれポーター、トレッキング・ガイド、高所ポーター(「シェルパ」)に焦点を当てて分析する。第七章ではここまでの議論を踏まえて山道そのものを考察の対象とし、歩くとはどのような実践か、道があるとはどのような状況かを論じる。第八章では全体の議論をまとめて結論を述べる。